賛同する男

「どうして人殺しなんてことをしたの?」


 取調室の中、同僚のベルーガ・ラミネスが容疑者である男に向き合って尋ねた。初めは俺が担当する予定だったのだが、「お前の顔じゃ泣かれる」と署員総出で止められ、結局は一番柔和な顔立ちをしたベルーガに落ち着いたのである。


「人殺し? 僕は人なんて殺してないよ? 『いらないこ』を神様のところに連れて行ってあげただけだよ?」


 悪びれる様子もなく容疑者は答える。その顔や体つきは、一人の成人男性として成熟したものであるように見えるが、なんとなく中身が伴っておらず奇妙な感じがする。容疑者に相対しているベルーガも、はじめこそ彼の言葉に対し眉を吊り声を荒げていたが、今はただ渋い顔をしている。

 それにしても『いらないこ』か。言いえて妙だ、なんて方々から怒鳴られそうだから間違っても口にはしないが、ついつい心の中で納得してしまう。なぜなら今回の事件、「援助施設連続放火惨殺事件」の被害者は、ある種いらない人間だと俺は思っているからだ。具体的に言うならば老人、障がい者、末期病患者など。つまるところ他人の手を借りなければ生きていくことのできない、そして生産性のない人達。

 少子高齢化が激化し、そして高齢出生率も増加。結果、何もできない寝たきりの老年者と、先天的に身体に異常を抱える子供が増加した。社会の風潮はそれらを支える方向へと動いていったのだが、俺にはその考えが理解できなかった。使えない人間に手を焼いたところで得るものは何もない。そんなものに手間暇割くくらいなら、貧困層などへの支援の方が長い目で見ると有意義なのではないだろうか、というのが俺の意見だった。いつだったか一度自身の考えを友人の誰かに話した時、その人に「この人でなし!」と怒鳴られ殴り飛ばされてしまったが……。

 なんて遠くもない昔のことを懐かしんでいると、取調室のドアノブがガチャリと鳴り扉が開かれた。中から出てきたのは先ほどまで容疑者と向き合っていたベルーガだ。彼は血の気のない顔をしてふらふらと室内から出てきたかと思うと「アレは、ダメだ」とだけ言い残してどこかへと消えていった。

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