第12話 悪夢の夜

 うっかりした…油断した…

と自分を責めるならまだ楽だ…


 うっかりした…甘くみてて…怠慢でした…

営業マンのMさんがのちに吐いた言葉である。


 大変なトラブルが発生した。


 この某ハウスメーカー、工場である程度組み立てて運んできて、外側は1日で建ててしまうというシステム。

 その据付日の前日に、めまいがするような連絡が入る。

 実は見積もっていた額と、工場からの請求額に200万円程のズレがあることがわかったと、とても深刻そうにMさんから伝えられた。

200万?!しかもプラス

しかも今?!これからもっと減らしていくはずなのに、上がっちゃうの?

 それにしても、まだ確定額じゃないのに、そのズレの何がそんなに問題なの?後で調整できるんじゃないの?だってこれから減らしていくんでしょ?

疑問が頭を駆け巡る。

 お家に伺って説明をと言われても、賃貸マンションの狭い家に平日の夜更けに来られてもと、会社に出向いて話を聞くことにした。

 なんだか神妙な顔をしたMさんに出迎えられ、夜で人気のない打ち合わせスペースの席につく。難しい顔をしたMさんから説明を受けても、最初は何を言ってるかわからない。何回も何回も聞いているうちに、聞けば聞くほどわからなくなるという不思議な状態。

 といっても、明日建ってしまうのです。わからないまま帰るわけにもいかず、時間がかかってもよいのでと上司を呼んでもらったのです。別場所にいた上司がしばらくして到着し説明の席に着いた。説明してもらってるうちに、少しずつわかってきた、Mさんが言っていたことのおかしなところが。


 普通の流れでいくと、最初の契約で、ある程度固めて金額を出してから契約、その後に打ち合わせを重ね、変更をひとつひとつ確定して、据え付けの発注前に変更契約を交わし、金額を確定してから工場に発注なのだそう。


 我々は、最初の契約しかしてないし、その契約は形だけですからと言われてるし、契約をしないと先に進めないとの説明で細かな金額の内訳や、今後変更できる部分できない部分の説明もされていない。据え付けがいつですというのは聞いたけど、その段階でどこまでが確定してしまい、どこが変更可能なのかも聞いていない。現時点での確定の図面をと再三伝えても、もらえず、こちらでは管理できているので大丈夫との説明のみだった。

 振り返れば、据付でどこまで確定してしまうのか、確認はするべきだったと思うが、必要であれば、Mさんから確認があるはずと思い、今確定している外壁、屋根、間取りなどだけなはずと思い込んでいた。「はず」これが一番危険でした。そう思っていたのに、家づくりの大変さに押し流されて見落としてしまった。

 まずは、希望を言って全部付けてみて金額を出して、そこから、予算の金額まで下げるべく、修正していく。その流れのうち、全部出して一回はいろんなものを諦める作業をして金額を出した。しかし、何がいくらという詳細を出してくれないので何を諦めたらいいかわからない。まだまだ何回かその作業が必要だという状態だった。しかも、お店部分が全くほぼ未確定で、しっかりした全額が出ない状態だった。そもそも最終的な変更契約なんてできる状態ではないのだ。我々としては、本当に現在確定している外壁だとか屋根だとか窓だとか、そういったものだけが組み立てられて建つのだと思っていた。

 ところが、打ち合わせの中で、とりあえず決めた例えばお風呂だったりトイレだったりが、もう確定で付いてくるのだと。他のもっと細かい部分も結構確定してしまっている。最終確認してないのに。


 そのハウスメーカーの通常の流れを知らない我々家族と、通常の流れで進んでいると思っている上司と、何を考えているのかわからないMさん。最初は全く話が噛み合わないのです。こちらは苛立ち、あちらの上司は強めな姿勢、そしてただただ困るMさん。

 我々としてはどーゆーこと?な状態。争いが嫌いな旦那は、少し諦め気味で押され気味。だが、ナマケモノは、争いは嫌いだが納得いかないものは飲み込むことはできず、わからないことを全てぶつけてみたのです。すると、上司も、そして我々も、少しずつ本当の状況が見え始め、上司は顔色を変え、おそらく会社としてどうしたらよいか考え始めたのだろう。我々家族は、Mさんのおかしな様子に合点がいきつつ、そんなことある?!という信じられない気持ちでいっぱいになるのです。

 ところでMさんは、上司にどんな説明をしてこの場に呼び出したんだ?話が通じなすぎるよ。


 ああ、どんなに信頼している人の「大丈夫」にも、しっかり納得できなければ、契約書というものに印鑑を押してはいけないのです!

 形上の…とか、のちに修正できる…とか、まだ解約もできる…とか、それはダメ!絶対ダメ!なのです。

 ナマケモノ痛い勉強をしました。


 まずは、200万だかのズレがあったというのは、最初の契約書の額から、打ち合わせを重ねて変更後に実際に図面にして組み立てる工場に発注を出した内容との間にあったズレだそう。

 本来はありえないが、我が家のケースでは、確定したものや、とりあえず付けたものが入り混じった状態、かつ、店部分の決まっていないものは含まれていない。なんで、それで発注出せた?出しちゃおって思えた??

しかも、ここからさらに金額は増える一方じゃないか。

 

 据付前日の夜ですから、工場からの運搬据付は止められないとの説明。

でしょうね…


 本来なら契約前に細かい金額の明細がある程度出せるとのこと。

 それで契約して、更に変更をひとつひとつ確定して最終的に変更契約を交わして発注となるのだから、発注の出た部分は、もう変更もきかないと。


 出せないって言ったよねMさん。進まないと金額出せないって言ったよね。まだ変更も可能だと言ったよね。

 やはり、そんなはずないのだ。

 ああ、自分の素直さに情けなくなる。

 でも、ナマケモノなりに、確認したよね!金額出なきゃ印鑑押せないよって。

 はいはーいって何も疑問持たずに契約してしまったなら、自分のせいと思えなくもない。でも、疑問と不安をもってなんども確認したよね!


あーサイアク。

後悔の嵐。


「ナマケモノ家が建っちゃったけど思ったのと違う」

にタイトルを変えなければ…だわ。


どーする?どーする?これどーする?

それぞれが頭を抱える三者懇談は、解決の糸口が見つからないまま夜が更けてくのでした。

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