明日への糧

「すみません。となりの神山です」


 優馬君のお母さんが迎えに来たのは7時半くらいだった。優馬君を起こしお母さんが来たことを伝える。


「本当にご迷惑を掛けてすみません」

「いえ、こちらこそ勝手な真似をしてすみません。何とかご連絡しようと思ったのですが、生憎大家さんが旅行中でして。それに優馬君は迷惑なんて全く掛けてませんよ。な、優馬君。一緒にゲームして楽しかったよな」 


 うん、と優馬君は笑顔で応える。こちらも自然と笑顔になる。


「優馬君はほんまにいい子ですね。賢いし元気だし笑顔がとっても可愛いです」

「有難うございます。私も色々大変な事が有りますけど、この子の笑顔があれば明日も頑張れるって、いつもそう思うんです」

「そうですね。じゃあ、優馬君またね。気が向いたら遊びにおいで」

「本当に有難うございました。では失礼します」


 優馬君はバイバイと手を振り家に帰った。


(本当に気が向いたらいつでも来いよ)


 12月の夜なのに不思議と寒さを感じない。


 部屋に戻り炬燵に入る。テレビはついているが、頭の中に入って来ない。いろんな想いが訪れては消え、また訪れる。


 人間はパンのみに生きるに非ずと言う。

 じゃあそれ以外の糧ってなんだろう。

 夢のため?社会のため?平和のため?人類のため?

 それもあって良いとは思う。でも私の心には響かない。


 小さな兄妹が『美味しかった』と言った時の主人の笑顔。

 そんな我が子を愛おしく見つめる母親。

 この子の笑顔をがあればと言った母親の言葉。

 その方が余程心に刺さる。


 それこそ明日への糧だ。


「日本オワタ?いやいや、日本はまだ大丈夫だ!」


 私もまだ終われないよな。優馬君、お母さん、小さな兄妹。


「でも、私の明日への糧は、あのセルフうどんかな?」


 今夜は気分がいい。とっておきのウイスキーでも飲むか。 

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明日への糧 かがわ けん @kagawaken0804

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