ラスボスたちの隠し仔 ~魔王城に転生した元社畜プログラマーは自由気ままに『魔導言語《マジックコード》』を開発する~

熊乃げん骨

第一章 隠し仔、生まれ落つ

第1話 目覚めまして魔王城

 朝目あさめが覚めると、そこは魔王城でした。


 ……いや、お前は何を言ってるんだと言いたい気持ちはよく分かる。俺だって同じ立場だったらそう言う。

 でもそれ以外に形容出来る言葉が見つからないんだ。


 黒くおどろどろしい室内の中央に置かれた厳つい円卓。俺は今その上に寝かされている。

 おかしい、寝た時はいつものくたびれた布団だったっていうのに。

 ちなみに何故か体に力が入らず起き上がることも出来ない。一体どうなってんだ、毒でも盛られたのか?


 頑張って首を動かし辺りを見渡すと、円卓を囲むように怪しい人が八人立っていて俺のことを凝視している。

 コ、コスプレだよな!? なんか骸骨騎士みたいのとかドラゴンとか明らかに現代日本にはいないようなのがいるんですが!


『……召喚に成功したか』


 その中の一人、黒い甲冑に身を包んだ大男が声を出す。

 でも俺には何を言ってるのかサッパリだった。日本語で喋ってくれ。

 ていうか何語なんだ? 英語でもなさそうだが……。


『早く解剖しよう、さすれば勇者の弱点も明らかになるじゃろうて』


 またしても意味不明な言葉を発しながら違う人物が腕を伸ばしてくる……って何その腕!? ゾンビみたいに干からびてるんですけど!?

 に、逃げ……って体がうまく動かない! 頑張れ! ほら、死ぬぅ!

 

 死ぬ気でジタバタともがくと、俺の目にある物が映る。

 それを見た瞬間、俺は理解した。俺の今の現状と……そして俺がこの場から逃げる術がない、ということを。


ば、あぶばあぶぁーっな、なんじゃこりゃ!」


 なんと俺の腕は赤ちゃんのそれになっていた!

 ぷにぷにのもちもちで美味しそう……じゃない! こんなぷにかわのお手てでこんな化け物たちから逃げれるわけがない!

 ていうか腕がこうだったら全身赤ん坊になってるってことじゃねえか! どおりで「だあ」とか「ばぶ」しか話せないわけだ!


『さあ、こっちに来い……』


 ゾンビの腕が迫る。やめろ、来るな!

 しかし無常にもその手は俺のことを掴み無慈悲にも惨殺……するかに思えたが、触れるすんででその腕は他の人に止められる。


『やめろ。怖がってるじゃないか』


 ゾンビの腕を掴んで止めたのは、こんな恐ろしい場所には似つかわしくない綺麗な女性だった。

 背中まで伸びたまるで金の絹糸で出来たような髪と、恐ろしいほど整った顔が特徴的だ。

 彼女は俺と目を合わせて薄く微笑むと、ぼけっとする俺のことを抱き抱える。そして指先で俺の餅のように柔らかいほっぺをつつきあやしてくれる。


 体が赤ん坊だからか赤ん坊扱いされると凄く幸せな気分になる……。どうやら思考は肉体に引っ張られるみたいだな、ばぶ。


「だあ、だあ」

『お、笑ってるぞこいつ。可愛いじゃないか。ほれほれ、ママでちゅよー……なんてな』


 この人が何を言っているのかは分からないけど、俺に対して悪意のようなものは感じない。

 ほっ。ひとまず安全かな……などと考えていると、黒い甲冑の大男がこちらに近づいて来た。

 デカい。いや、デカすぎる。

 身長三メートルは越しているその恐ろしい男は俺の近くに頭を近づけ、値踏みするように俺の全身を観察する。

 

 ちなみに赤子の俺は当然の如く全裸だ。恥ずかしい。


『ふむ……確かにかわいいな』


 大男が声を発すると、場がざわつく。何だ、何て言ったんだ!?

 くそ! 日本語で話してくれー!


『どれ、私にも抱っこさせてくれないか?』

『あ、ああ』


 なぜか俺を抱っこしてくれてたお姉さんは大男に俺を引き渡してしまう。

 ひええ! なぜ! なぜ俺を見捨てたんだ!?!?!?!?


『これが人の子、か。初めて見たが……なんとか弱く。なんと愛らしい』


 ゴツゴツした甲冑に抱かれるのは非常に居心地が悪い。

 冷たいし痛いし、さっきまでのふかふかした感触とは大違いだ。


『……ふむ、ふむ、ほう……』


 甲冑男は俺のことを兜の下に光る目で見ながら何やらぶつぶつ呟いている。俺のことをどうやって食べるのかでも考えているのだろうか。

 うう、あんまりだ……突然赤ん坊の姿に変えられ、化け物に食べられるなんて。

 夢なら醒めてくれえ……。


『……決めたぞ。この子は私が育てる』


「「「「「「「……………………っ!!」」」」」」」」


 甲冑の男の言葉に、他の人たちはどよめく。

 一体どうしたんだ? 「こいつ一人で食うことにしたわ」とか言ったのか!?


 特にゾンビの奴は怒った様子で甲冑男に詰め寄る。


『ふざけるなよハデス、儂らが何のためにそれを呼んだのか忘れたのか!?』

『もちろん覚えているさリッチ。でも別に殺す必要はあるまい。他の者たちもこの子に一目惚れしてしまったようだしな』


 なんか他の人たちは微笑ましい目で俺を見ている。

 なんだ、流れ変わった?


『それに……だ、私はこの子に可能性を感じた。見ろ、この知性に満ちた目を、この状況においても泣き喚かない心の強さを。それに勇者の因子をこの子は持っている、それに魔王の我らが技を教えれば最強の戦士が出来ると思わないか?』


 今すぐにでも泣き叫びたい。

 でもそんなことしたら取って食われそうだから我慢だ。ぴいん、怖いよぉ。


『最強の戦士……か。まあいいだろう。解剖は後からでも出来るからな。ただ覚えとけ、そいつに素質がないと分かったら儂がすぐに解剖するからな!』


 ゾンビは何か喚き散らすと、俺のもとから去っていく。

 何か分からないけど助かったみたいだ。


『みんなも異論はないな?』


 甲冑の男の言葉に他の人たちが頷く。

 何かが決まったみたいだ。よく分からないけど。


『ふむ、それでは決定だ。この子……そうだな、名前は……アルデウスはどうだ? いい名前だろう。息子が出来たら付けようと思っていたのだ。言ってみろアルだ、アール』


 ん? 言えってことか?


「あ、あーう?」


『そう、賢い子だ。大物になるぞ』


 甲冑の男は兜の下で笑った……ような気がした。

 男は自分のマントで俺を優しく包むと、メイドらしき人物に渡す。


『丁重に頼むぞ』

『はい、かしこまりました』


 こうして俺は恐ろしい部屋から外に運び出される。

 よく分からないけど……ひとまずすぐ食べられることはなさそうだ。


 色々ありすぎて疲れたな……ひとまず寝るか……。

 俺は重くなった瞼を閉じて、深い眠りに落ちていく。


 この先待ち受ける運命、苦難、それを知る由もなく…………

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