第7話謎の男

私が作った湯漬けは大好評で、とぶように売れた。

昨日よりもお客さんが入っているような気がする。

よしさんとわたしは夕方までバタバタと働き、見事に湯漬けは完売。


売り上げもいつもの一・五倍ぐらいに増えた。

よしさんと私は手をとりあい喜んだ。

片付けに取り掛かるよしさんを手伝おうとするとこっちはいいから先に体拭いてきなさいと言われ、お言葉に甘えることにした。


疲れたし汗もかいた、お風呂が恋しい。

この時代にはまだ銭湯やお風呂はなくお風呂があるのは大名などで、私たち平民は井戸や川で体を布を使い拭くしかない。

冬のことを考えると体が震える。

よしさんの家の裏には井戸があるので助かっているが、無い人たちは川まで行って水浴びをする。

着替えと体を拭く布を準備し、井戸に急ぐ。

日が暮れてしまうと暗くて周りが全く見えなくなり歩くのも困難になる。

井戸から水をくみ、桶にいれる。


まずは髪の毛から洗う、シャンプーやリンスなどがないので水だけで洗うのだ。

灰とかで髪を洗うっていうのを本で読んだ気がするけど、今度よしさんに聞いてみよう。


髪の毛が長いと洗うのがとても大変だ、できれば切りたい、バッサリと。

髪の毛を洗い終えたら次は体を拭いていく。

ついたてなどがないので丸見えなので、体を洗う前に人がいないか周りを確認する。

よし、いない大丈夫。

着物のえりをゆるめ首、肩を洗っていく。


林からいきなりガサガサ音がする、まさか熊とか鹿それとも狼だろうか?

体がこわばり、震える。

どんどん音が近づいて来るのに、体が動かない。

色んな想像が頭の中をぐるぐるまわる。

一番近くの草むらが揺れ、怖くなり目をつむる。


「あれ、おかしいな~。この辺だと思ったんだけど。」


頭の上から男の人の声が聞こえた。

そっと目を開けると一人の男性が立っていた。

ポカンとそこにいる人を見てしまう。


その男性は女性かと思うほど美しく、こうゆう人を美男子というんだろう。

今日は見惚れてばかりのような気がする。

男性は私に気づいたらしく駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫。ごめん怖がらせちゃったね。」


そっと私の目元に指先をあて、涙を拭きとる。

自分が泣いているのに気づき、しかも知らない男性に抱きしめられている。

我に返って恥ずかしくなっり、その男性の胸に両手をあてて急いで、逃げた。

危ないイケメンすぎてながされるとこだった。


「あの、いきなり何なんですか!人呼びますよ!」


腰には刀があるどこかの侍だろうか、警戒して少しづつ距離をとる。

今、人を呼んでもよしさんしかいないので余り呼びたくはない、迷惑をかけたくない。

男の人は少し驚いていた様子だったけど、スッと立ち上がった。


「君、賢いね。そして、面白い。」


笑みを浮かべながらゆっくり近づいて手を伸ばした、その瞬間ワォーンと動物の遠吠えが聞こえた。

その男の人は笑みを深め私に伸ばしていた手を止めて、腰にある刀に手をむけた。


「来る…。」


一体何が来るのだろう。

男の人の一言に嫌な予感がして、自然とまた体が震えだす。


「それ以上離れちゃダメだよ。死にたくなかったらね。後、早く立ったほうがいい。」


林を見たまま静かに私に話しかけた。

何だかとても楽しそうにみえる、今来るものが待ち遠しいとでも思っているみたい。

しばらくすると、複数の足音が聞こえてくる。

さっきこの人が出てきた所からだ。

近くの林がカサカサゆれるが、すぐ静かになった。

こっちの動きをうかがっているみたい。


「さぁ、来い。」


鞘から刀を抜き、かまえる。

私は固唾をのんで後ろに隠れた。

右側の方がカサと音がした瞬間、違う方向から一匹の狼が飛び出してきた。

出てくる方向がわかっていたのか飛び出した狼をちゅうちょなく切りふせた。


終わったとホッとしていると、林の中から三匹の狼が出て来た。

男の人は驚いた様子はなく、楽しそうだ。

ある一匹の狼に狙いを定めその狼が襲いかかる前に切っていた。

他の狼たちはその一匹が死ぬと散り散りに逃げた。

さっき切った狼があの群れのボスだったらしい。


刀を鞘に納め、こちらに振り向く。

私はまた距離をおいた。

この人がいなければ私は死んでいたので命の恩人、だけど油断するのはまだ早い気がする。

悪い人ではないとは思うが、慎重にいかなくては。

その人はふふっと笑っている。


「そんなに私が怖い?とって食べたりはしないよ。」


おいでとその人は言うけど近づきたくはない。

私が泣いていたとはいえ、いきなり抱きしめてくるイケメンなんて信用できない。

その人とにらみ合いをしていると彼のお腹が鳴った。


「お腹空いたな。」


私に背を向けて帰ろうとする。

まだ、私お礼を言っていない。

信用はしてないけど私の命の恩人には変わりはない。

お腹空いてるって言ってたから、あれなら簡単に作れるしお礼にもなるよね。


「あの、ちょっと待ってください。」


私の声に反応して振り向く。


「私、ここで料理しているんです。簡単なもの作ってきますのでお待ちいただけますか。」


少し驚いているように見えたが、すぐにさっきの微笑みに戻り、すんなりいいよと返事をもらった。

一旦店に戻ろうと後ろを振り向いた瞬間、自分の目の前にキラリと光る刀がみえた。


「私のこと誰かに言ったらダメだよ。」


これは、脅されていると気づきわかりましたと答える。

平常心をたもつふりをしてその場を去った。


信用できない人だと思っていたのに、警戒を解いた自分に腹が立った。

ここは、戦国時代だとあらためて思い知らされる。


心臓がバクバクしてうるさい。

家の中に入り深呼吸を一つして、自分を落ち着かせた。

台所に行くとよしさんの姿はなく、店の片付けは終わっていた。

きっと、洗濯物を取り込みに行ったのだろうと推測する。


よし、今のうちに作ってしまおう、よしさんに何か隠してもすぐばれてしまいそうなので料理を急ぐ。

料理といってもおにぎりなので握ればすぐできる。

ただのおにぎりというのもつまらないので、少し工夫をしようと考える。

というか、私の料理でさっきの仕返しをしてやる、食べて驚きなさい。


不敵な笑みを浮かべながら私の復讐劇がはじまる。


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