第6話たけのこご飯とふきの辛味噌の湯漬け

私はやすさんと時次さんに湯漬けをすすめる。


「さぁ、今日は少し趣向を変えた湯漬けなんです。たけのこご飯から食べてみてください。」


やすさんは楽しみだと言いながら、たけのこご飯を手にとった。

時次さんも続けて、たけのこご飯を一口食べた。


「…美味しい。」


時次さんの口からぽろっと言葉がこぼれた。

やすさんは黙々と食べすすめていて、もう半分くらいになりそうだったので慌てて止める。


「やすさん!ちょっと待ってください、まだその料理完成じゃないんです。」


やすさんが食べるのをやめる。

時次さんがふっと思い出したように言う。


「そういえば、湯漬けとおっしゃってましたけど…。」


そうまだ湯漬けではないのだ。

いつの間にか時次さんもたけのこご飯半分くらいになっている。

少し時次さんの器を借りる。


「小皿にあるふきの辛味噌をこのご飯の中にお好みでいれます。あっ、時次さん冷たいのと熱いのどちらがいいですか?」


「冷たいのと温かいのを選べるんですか?」


はい、と私は返事をした、炎天下が続いていたので冷たいのと温かいのを選べた方がいいと考え、開店前に水を急遽準備した。

少し迷いながら時次さんは冷たいのを、と言ったので器の中に冷たい水をいれ、時次さんに器を渡す。


「時次さん少し混ぜて、味噌を溶かしてください。食べてみて味が薄かったら辛味噌足してみてください。」


時次さんは私が言った通りに辛味噌を溶かし、一口食べた。

スルスルと食べる、途中でたけのことふきのシャキッという歯ごたえの音も聞こえる。

無言で食べているということは美味しいってことよね。

隣に座っているやすさんの喉がゴクリとなった。

時次さんの食べっぷりを見てたら忘れてた、ごめんやすさん。

やすさんに声をかける。


「やすさん、温かいのと冷たいのどうしますか?」


やすさんはすごく悩んで、苦しそうな声で温かいの、と言った。

真剣に悩んでいるやすさんが面白くて少し笑ってしまった。

やすさんの器にお湯をいれて持って行く。

持って行くやいやなやすさんは辛味噌を溶かし食べ始めた。

す、すごい食べっぷり。


時次さんはもう食べ終わっていた。

早すぎるのでは…残さずに食べてくれたのは嬉しいけどね。

私がお茶碗をさげようとすると、手をつかまれた。

一体どうしたのだろう、片付けるのが少し早かっただろうか。

何だか言いずらそうにしている。


「えぇっと、どうしましたか?」


時次さんははっとして手を離した。


「おかわりを頂けないでしょうか。」


あぁ、おかわりしたかったのか。

良かった本当に気に入ってくれたみたい自然と笑顔になる。


「はい、おかわりですね。ありがとうございます!」


今日はいい日になりそうな気がする。

続けてやすさんもおかわりをしているので、二人分のおかわりを準備し持って行く。


「はい、お待たせしました。」


やすさんと時次さんはさっきと同じスピードで食べていた。

いっぱい食べてくれる人がいると作りがいがある。

また、笑みがこぼれる。


「ふ~、食べた、食べた。さぁて、仕事に戻るか。」


やすさんはお腹をさすった後、立ち上がる。

時次さんは残りの水も飲みほしてから立ち上がり、私とよしさんに深くお辞儀をした。


「とても美味しかったです。また来ます。」


顔を上げたとき優しく笑っていた。

初めて笑ったのをみたけど、これはとてもなくやばい。

この笑顔を見たら大抵の女性は見とれてしまうだろう。

というか、この人笑うと若くみえるなぁ、三十代前半ぐらいに見えたけど、もしかして二十代ぐらいだろうか。

隣にいたよしさんを見ると少し顔が赤いように見える、私も同じ顔してると思うけど。



時次さんとやすさんはまた明日来ると言って仕事に戻っていた。

まだまだ、今日ははじまったばかりだ頑張るぞと自分にかつをいれた。

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