ぬるりとした触感の気持ちの悪いホラー

ホラーなので「気持ちの悪い」は褒め言葉である。念のため。

善人過ぎる嫌いのある大学生の甥っ子と、善人らしいのだがどこか不気味な、左手の指のない叔父、両足を切断された状態で発見され昏睡状態の父。
ホラーとしては120点ぐらいで振り切れたお膳立てだが、なぜかほのぼのとしている。

しかし、全国各地に散らばる禁忌口承を取材する怪談ライターである叔父の書いた記事などをちりばめて妙な現実味が加えられた物語は常に不穏であり、とてもいやな感じがする(再度言うが、ホラー小説なのでこれは褒め言葉だ)。

こんなものは荒唐無稽な作り話であろうと一笑に付すことが憚られるような、虐げられ差別されてきた人々について思いを馳せずにはいられない良質なホラーである。

この種の気持ちの悪いホラー好きとしては、結末は評価の別れるところかもしれないが、それが好きでも嫌いでも、一読の価値がある物語だと思う。

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左手のための悪手

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