第12話やぁぁぁん。のび太さんのブラインドタッチィィィー!
「晩御飯できたわよぉぉー。」
色にするならピンク色。
妖艶で、甘美な声。
そんな声が家中を震撼させた。
おかしゃんはエロい。
でもそこがいい。
「「はーーーい。」」
隣の部屋のあいつと私の声がリンクした。
おなかが空いていたのはお互い様の様だ。
窓から見える空に血で血を洗う宇宙戦争の面影はなく、全てを飲み込むブラックホールの様な暗闇が広がっていた。
その暗闇の中にはぽつぽつと、燐光のような星が点在している。
本当は大きな月がここからでは小さく、手をかざせば消えてしまう程だった。
そんな居間の大きな窓から見える景色を睥睨し、私はおかしゃんお手製の晩御飯に目を奪われる。
この時間の晩御飯は垂涎の物。
それは私だけでなく、あいつもそうらしい。
私たちはいつもより少し歩くスピードを上げ、テーブルに着いた。
今日の献立は・・・・・・・・?
なんか変。
「おねさん。今日、どうしたんですか?貧血?」
どうやらあいつもこの違和感に気付いたらしい。
もちろんおいしそうであることには変わりないのだが。
「こぉぉら!女の子に貧血?なんて言っちゃだめよ。そういうところは繊細なの。女の子は。・・・・女の子は!」
「・・・・・・・・女の子って。もう有効期限切れだろ。地球が球体じゃないっていうくらい今の時代じゃまかり通らないよ。」
あいつがぼそぼそと何かを呟いている。
私はなんとなく無視することにした。
これは戦略的撤退。
そう、UFOが人間の目から逃げる様な。そんな感じ。
「さてと。ミッキーが私を襲おうとしたこと姉ちゃんに言っちゃおうかなぁ。」
「ええええー!僕の目の前にポップティーン所属の・・・・・・・・おねちゃみが!やっぱり若々しいなぁ。特に心意気が若いよなぁ。」
「分かればよろしぃ。」
そう言っておかしゃんは椅子に座るあいつの後頭部をおっぱいで覆った。
むぅぅぅぅ。ずるい。
でもまぁ、あいつにもおかしゃんの良さが少しでもわかったのなら、今回は許してやろう。
もちろん私のおかしゃんだけど。
「やめろよぉぉぉ。」
必死で抵抗しているあいつの顔は緩み切っていた。
閑話休題。
「「「いただきまぁす。」」」
私たち3人は席に着き、食卓を囲み始めた。
お待たせしました?
それでは、今日の献立の変な所をお教えしましょう。
それは・・・・。それは・・・・。それは・・・・!
心の目をカッと見開き、心の眉を吊り上げる。
「それにしても、今日の晩御飯・・・・どの皿にもお肉が入ってるのは何でなんですか?」
私はあいつの脛をつま先で蹴った。
弁慶の泣き所。私の本当の眉も吊り上がった。
「いてぇ!」
私たちの目の前には、肉じゃが、から揚げ、豚汁、そして白米が並んでいた。
見事なほどの肉祭り。それでいてメジャーな肉である牛豚鳥を全てそろえられている。
「あぁ。それはね。実は・・・・。」
ごくりと生唾を飲む音が食卓を木霊する。
部屋の空気が一転、これからとんでもない何かが起こりそうな、そんな予感がひしひしと肌に伝わる。
一体どんな理由なんだろう。
私は少しの畏怖と、そして大きな期待を胸におかしゃんの口元を凝視した。
「・・・・・・・・明後日から1週間、おさかな天国なのよぉぉぉぉ。」
ガシャァァン!
あいつが椅子から勢いよく転げ落ちた。
私から見てもとても良いリアクションだった。
そう、まるで・・・・何だっけ?
あのぉぉぉ、あぁ。あれだ。『ガチョウ倶楽部』とかそんな名前の奴。
こういう反応を日常的にできるからこそ、あいつはおかしゃんに好まれるのかもしれない。
そもそも私は感情の変化が顔に出にくいタイプ。なら・・・・・・・・・。
ふんす!
私は重心を後ろに掛け・・・・・・・・
「グレイちゃんはしなくていいのよぉぉ。」
「むぅぅぅぅ。」
おかしゃんに止められた。
「実はね、姉ちゃんから明後日というか明日の夜中に大量の魚が送られてくるの。だ・か・ら!今日の晩が肉の納め時って事ね。」
あっけらかんとおかしゃんは事情を語った。
あいつのおかしゃんかぁー。どんなのなんだろう。
少しだけ興味がある。
「そ、そ、そ・・・・・・・・・・・・・・・・」
転げ落ちたまま唖然としていたあいつが出番を思いだしたのかむくりと起き上がり、口を開き始める。
青天の霹靂。寝耳に水。そんな言葉が私の脳裏をかすめた。
「そんな伏線どこにあったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怒り喰らうイビル・・・・あいつ。
私たちハンターはこのクエストをクリアできるだろうか。
閑話休題。
宴もたけなわ。
晩御飯の時間は終盤に差し掛かり、あいつは豚汁を啜り、私は・・・・割と結構残っている。
おかしゃんは早々に食べ終わり、現在自分のお皿や調理器具を洗っている。
流石おかしゃん。効率がいい。
この空間には豚汁を啜る音と私の箸の音、流水の音に換気扇の音といったさまざまな音で包まれていた。
それらはまとめれば生活音となるわけで、意外と落ち着く。
しかし、私には1つ成功させなければならない交渉があった。
その交渉次第では、今日の予定が大きく変わると言っても過言ではない。
私の耳には生活音だけでなく、心臓が大きく動く音が鳴り響く。
体をめぐる血の勢いが増すのを感じられる。
・・・・よし、言おう。
たまには血の巡りによる奔流に流されても構わないだろう。
「「あ・・・・・・・・お先にどうぞ・・・・あ・・・・」」
被ってしまった。譲り合いという日本人の美徳すらも。
まぁそれもそうか。お互い日本人なわけ・・・・・・・・・私は宇宙人だけど。
そう!日本かぶれの宇宙人!
しかし、この空間にそんな冗談は通用しないわけで。
気まずいという名の風が舞い込んだ。
突如として、私の耳に音が席巻しなくなる。
まるで宇宙に放り投げられたかのような。
それはおそらくあいつも。
そんな寂寞とした、それでいてクライシスな状況を打破したのは。
「グレイちゃん。何か言いたいことがあるんじゃないのぉ?」
といった天の声基、おかしゃんのエロい声だった。
おかしゃんエロ可愛い。
・・・・じゃなくて、まぁそれは事実なんだけど。
今はそんなおかしゃんの美貌にサムズアップしている場合ではない。
このチャンスを逃すのは人間どもがエイリアンクラフトを見逃すくらいドジだ。
でもなぁ・・・・・・・・。
なんか恥ずかしくなってきた。
自然な流れではない。だからこそあいつの視線の先は目の前の豚汁ではなく、私に向いている。
私の作戦としては、私が突発的にボソッと言って、曖昧模糊な感じにあいつがうんと言う。
そう、名付けるなら『ラノベの主人公がヒロインの告白を聞き取れず、とりあえず「うん」って言っちゃって、なし崩しで付き合って、紆余曲折あって、結局両想いになって、改めてラノベの以下略が告白し直す作戦』だろうか。
ちょっと長いな。
でも宇宙の論文はもっと長いから!
それと比べると短いよね。
・・・・とにかく。
こうなったからには大幅に作戦を変更しなければならない。
計画を遂行するためにこの交渉は必須なのだから。
私は自分を叱咤し、負の万感を払いのける。
そして今1度思案する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ピコン!
頭上に豆電球が光った。気がした。
グレイ、いっきまぁぁぁす!
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫かぁぁ?」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
あいつは方向指示器なしで割り込んできた。
最近流行りの煽り運転だろうか。
私はあいつの額基、フロントガラスを勢いよく殴った。
閑話休題。
全然話が進まない。
私としては光の速度で事を済ます気でいたのに。
今日はことごとくあいつが邪魔をしてくる。
わざとか?わざとなのか?
とりあえず私は苛烈にあいつを睨む。
あいつは私の顰蹙を買ったことに関しては自覚があるらしく、分かりやすく私から目を逸らした。
「悪かった。でもな、僕だってわざとやったんじゃないんだ。・・・・そう!これは運命なんだよ。」
キッ!
私は怒りに恨みを付加した睨みを続けた。
「ミッキー。男の子は英語を読めるだけじゃダメなの。1番大事なのは空気を読むことよ。」
おかしゃんの鶴の一声。
流石おかしゃん。かっこいい。
「・・・・・・・・悪かったよ。それで、お前の頼み事ってなんだ?俺もお前に頼みたいことがあったんだけど。」
あいつは罪悪感からか、いまだに目を逸らしながら私に謝罪とどうでもいい事を伝える。
あいつの頼みなど最初から聞く気などない。
だが、流れはきている。
この部屋の今の上下関係は目に見えるほど簡単になった。
『上』おかしゃん、『宇宙人』私、『下僕』あいつ。
なら私の言うことはあいつにとって絶対。
私が死ねといえばあいつは死ぬし、パンがないならケーキを食べればいいと言えばあいつは私に毎日ケーキを献上するだろう。
そうなれば交渉の仕方は簡単だ。
アメリカが日本にするように、プーチンが熊にするように!
「ふん。簡単な話だ。私と、いや、ワレワレと『侵略活動の夜の部』に参加してもらう。ただそれだけだ!」
私は椅子の上に立ち、金剛力士像をものけ反らせるような高圧的な態度で交渉に臨んだ。
「あぁ。別にいいぞ。」
そう言ってあいつは残りの豚汁を啜り、早く飯食えよと言い残し居間から消えた。
もっとあいつが逡巡を繰り返して、落雷以降のように結局うやむやにされるものだと思っていた。
ぽかぁぁぁぁぁんと口が無意識に開く。
私はとりあえずご飯を食べるスピードを上げた。
「ごちそうさまでした。」
そう言って私はあいつの食器を洗うおかしゃんの下へ食べ終えた食器を持って行った。
「おかしゃん、おいしかった。」
「やぁぁぁぁん。うれしぃ。妊娠しちゃいそう。不純異種族交流ね!」
おかしゃんがうねうねと体をくびらせながら盛り上がっていた。
私には何を言っているのか分からなかったが、嬉しそうにしているのは分かった。
だから、私もうれしい。
「私、あいつにしっかり言えた。」
「そうねぇ。」
「しかも今日は交渉成立した。」
「大きな1歩ね。人類初の月面着陸くらいかしら。」
「それは言い過ぎ。」
おかしゃんは濡れた手を拭き、私の頭を撫でてくれた。
たまには子ども扱いも悪くない。
「でもね、グレイちゃん。」
「なに?」
「面と向かって言うのが恥ずかしいからって、あんな高圧的な態度は駄目よぉ。」
おかしゃんにはお見通しの様だ。
「グレイちゃんは超絶美人なんだからぁ、こうミッキーの目を見てミッキーとか幹人って呼んであげな。そうしたらミッキーはもっとシンリャクカツドウに活発になるわよ。顔が真っ赤になるくらい必死にねぇ。」
私の青い目を見つめるおかしゃんの細い目は、私の中の大事なところも見られている気がして少し怖かった。
「それにしてもぉ、ミッキーのお願いって何だったんだろうねぇー。」
おかしゃんの狐の様な細い目がさらに細く、そして頬がリフトアップしていた。
・・・・・・・・そういえば、何だったんだろう。
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