第46話 エピローグ


 エピローグ



「そうだよな、そういえばそうだよな、夏休み前なんだから一学期の中間テストがあるんだよな」

「はうぅ、クイズキングダムに気を取られて完全にわすれてたよぉ」

「孔明の罠が巧み過ぎるんだぜ……」


 夏休み初日、俺ら四人は一年一組の教室で机に突っ伏して自分達の不幸を嘆いた。


「全員赤点て、まさかこんな理由でアタシ達の野望が潰れるなんて、人生は残酷だわ」


 ん? 今なんか変な奴が混ざってたぞ。


「アリス、なんでお前がここにいるんだよ?」

「あれ? アリスちゃん頭いいんじゃなかったっけ?」

「生徒会の連中は学年一位と二位だって聞いてるんだぜ」


 するとアリスは顔を真っ赤にして教室の机を叩いた。


「名前書き忘れたのよ! 悪い!?」


 可愛い!! なんだそのドジっ娘姫!? 天然か? 天然なのか!? 

 定期テストで平然と無記名提出するそのスキルはどこで手に入れたんだ!!


「でも俺らより赤点少ないんだから夏休み後半は自由だろ?」


 歴史以外の全教科が赤点の俺らは毎日登校しなければならないが、赤点の教科が少ないアリスは夏休みの途中で補習を消化し終えるはずだ。

 なんだかんだでこいつは勉強ができるのだ。


「アタシ一人で何やれってのよ、アンタらが寂しがらないように付き合ってあげるわよ」


 アリスのウィンクに胸がトキメいた。

 デレ期? ねえこれデレ期来ちゃった感じなの?

 まずい、イヨリだけじゃなくてアリスも妹にしたくなってきたぞ。


「ふっ、いい気味ねヤマト、同好会から部への昇格条件は京都旅行のレポート提出」

「ですが歴史以外の全教科の補習となれば夏休み全てを使うのは必定、おめでとうございますお嬢様」

「まあこれがこいつらの運命だったのよ」

「まったくです」


 急に教室のドアが開いたと思えば魔王とその腹心か。


「学年一位と二位が夏休みの学校に何のようだ? あと五分で先生が来るから用が無いならさっさと帰ってくれ」

「そうは行かないわ、ショックで弱っている今こそ貴方を私の下僕にする絶好の機会ですもの」

「ちょっ、ナデシコちゃん、もう生徒会に誘わないって約束したでしょ!」


 そうだイヨリ、もっと言ってやれ。


「違うわ、私は下僕になるよう言っているの、下僕にしてから拒否権の無い命令で生徒会に入れれば誘った事にはならないでしょ?」

「そんなの屁理屈だもん! とにかくヤマト君はナデシコちゃんのものには絶対ならないもん!」


 イスから立ち上がりナデシコと向き合うイヨリ、なんだか今日のイヨリは随分張りあうなぁ。


「そんなの貴方が決めることじゃないでしょ、貴方みたいな一幼馴染になんの関わりがあるのかしら?」


 まあ正論だけど、そう言われてイヨリは目に涙を浮かべて「う~」と唸る。

 その姿が可愛くて映像に収めようと思った瞬間、急にイヨリが声を張り上げる。


「関係あるもん! だってわたしヤマト君のこと大好きだもん!!!」


 えっ? 今なんておっしゃいました?


「ちっちゃい時からずっとヤマト君のこと大好きなんだもん! ヤマト君の彼女になりたいんだもん! だからナデシコちゃんにはあげられないんだもん! ヤマト君はわたしと一緒に毎日遊ぶの!! ナデシコちゃんとは違うの!!」


 あまりの展開に俺の頭がついて行かない、これは一体どういう状況だ?


「そ、それなら私だってヤマトの事好きなんだからね!!」

「なっ!?」


 えっ!?


「お嬢様、よくぞ言われました!! あのような下賤(げせん)な者とのお付き合いはどうかと思っていましたがこのマモリ、全力で応援いたします!」


 なんだこの超展開!? お願いだからみんな俺を置いてかないで!! えーっと、イヨリとナデシコは二人とも俺の事が好きで二人で争っていて、


「ヤマト君はわたしのったらわたしの!!」

「いいえ、ヤマトは私の物よ!!」


 ちょっとアリスとヒデオもなんとかってなんでアリスはヒデオに三角締めキメながら鼻息荒くてしてビデオカメラ回してるんだよ! てかそのビデオカメラ俺のだろ!


 ヒデオの顔からはどんどん生気が消えていっている。


「それにヤマト君だってわたし方が絶対好きだもん!」


 そう言ってイヨリは俺のワイシャツを引き裂き左半分を剥ぎ取った。

 女子に服を剥かれる男子の図がそこにはあるってわけさ。


「ほら! この肩の傷は小学校四年生の時に車にひかれそうになったわたしを助けてくれた時のなんだよ!」

「それなら私だって!」


 今度はナデシコが俺の残り半分のワイシャツを剥ぎ取り俺は完全な上半身裸になった。

 さっきからあんたらは何をやってやがりますか!


「この背中の火傷痕、これは小学校四年生の時の調理実習で引っくり返った鍋の熱湯から私をかばってくれた時のモノよ!

 そう! 名家の私を遠巻きに見る人ばかりで友達がいなかった私が一方的に苛めてたヤマトに助けられた時どれだけトキメいたと思っているの!?

 大和家の家柄に釣られてくる大人達しか優しくしてくれなくて、ましてなんの友好関係も無いのに助けてくれたヤマトの男らしさに私は惚れたの愛しているの!!」


 あー、そういえばそんな事あったよな。

 今思えばあいつ火傷した俺を見ながらやたらと泣いてたけどそういう思いがあったわけか……


 二人は半裸の俺を挟んで激しく睨みあうが突然、


「あれ?」

「あら?」


 と言って俺の上半身をすみずみまで見始める。


 なんだこの恥ずかしい光景、アリスはヨダレ流しながらますます興奮してカメラを回しているし、もうだめだこいつなんとかしないと。


「ヤマト君、なんかよく見たら体のあちこちに傷痕があるんだけど……」

「ヤマト、これは一体……」


 ん? 傷痕? ああこれか、これは、


「こっちがノゾミを落ちてきた角材から守った時ので、こっちがツバサを野犬から守った時ので、こっちはトシミを不良から守った時ので、ってどうした二人とも?」


 俺が傷痕の原因を一つ一つ説明していると二人はボロボロと涙を流しながら息を荒げて全身から殺気をみなぎらせる。

 ちょっ、なんか二人とも超怖いんですけど……


「ヤマト君の……」

「ヤマトの……」

「「バカァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」


 叫びながらイヨリは左腕、ナデシコは右腕を使い俺を二人で挟むように頭を捕獲、同時に頭を俺の肩下に潜り込ませる。


「はい?」


 そして両腕の絡みを強固にして、大地の巨木を引き抜くように俺の体を高くさしあげた。


「ちょっ!」


 さらに四本の腕で俺の両内腿と両腕をおさえ、体の自由を奪ってしまう。


「お前ら何を」


 待て……この体勢でどうして二人とも窓に向かって走る?


 なんで二人揃(そろ)って俺を担ぎあげたまま窓から飛んで鷹のごとく高く舞い上がる?


「「うわぁああああん!!」」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 俺は稲妻のごとき勢いで落下していく中で考えていた。


 近所の少年野球団の子供達を助けるのがそんなにもいけなかったのかと。


 そして二人がグラウンドに着地した時、俺の五体は粉砕された。


アリスにギロチンされて


ヒデオが空気読めなくて


イヨリに殴られて


ナデシコに罵られて


これが俺の日常、そう、歴史バカの日常だ。

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 角川スニーカー文庫から【スクール下克上第1巻】発売しました。

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部費が欲しいのに生徒会が全力で邪魔をしてくる 歴史クラブVS生徒会 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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