第38話 明かされる真実

 ラグベールが口にした《ZERO》という単語にロイ達は昨日の出来事を思い出す。


 そう、軍の基地に忍び込んだ男が死ぬ間際に言った単語である。


「昨日、軍に忍び込んだ男は貴様らの仲間か!?」


 カイの詰問にラグベールは頷いた。


 ライナの言う通りであった。


 マーベルはリブル共和国に敵対勢力はいないと言ったが、まさか巨神サイドに人間がいるとは予想できなかった。


「悪いけど面倒臭いのはゴメンだ、結局テメーらが何もんなのか、俺らにも分かるよう説明しな」


 ロイがチェーンソーを肩から下ろすと、ラグベールは哄笑して両手を広げた。


「いいだろう、さきほど言った通り、私は帝国に攻め込んできた正体不明の巨神に家族を殺されたが、ライナのように恐怖はしなかった」


 語りながら頭の中で当時の光景を思い出すラグベールの顔は徐々に歪む、おそらくは笑っているのだろう。


「私は歓喜したのだよ、ライナを中心に我々が作り出した最強であったはずの兵器をはるかに凌駕するその破壊力に! 性能に! そしてあの姿に! あの方こそ、くだらない人間達を駆逐するためにこの世に舞い降りた神だ! 私はすぐさま神とコンタクトを取り敵意が無いと伝えた上で仲間を集め、このアーゼル帝国最大最強の移動要塞、アルデリュウムを神殿として神の身の周りのお世話をしている」


 さも嬉しそうに笑うラグベールだが、どうにも要領を得ない。


 おそらくは巨神を本当の神だと祭り上げる宗教団体なのだろうが、意志の無い巨神相手にコンタクトを取ったとか、敵意が無いことを伝えたとか、ロイ達にはまるで理解できない内容である。


 そして耐え切れなくなったロイが今一度ラグベールに問い直そうとした時、それは聞こえた。


『続きは私が話そう……』


 その声は天井から聞こえた。


 しかし、その声はあまりに機械的で、人の声とは思えなかった。


 スピーカーでもあるのかと思い、ロイ達が声のした空間を見上げると、突然部屋の電気が点いて空間を照らした。


 そこにあったのはスピーカーではなかった、否、そこにいた声の主は人ですらなかった。


「「「……ッ!?」」」


 目の前の光景に、ライナ以外の三人は絶句して固唾を飲んだ。


 今、三人の眼前にそびえる物体は一体の巨神である。


 だが、そのデザインはロイ達の知る巨神のそれを遥かに逸脱していた。


 なんと言えば良いのか言葉に迷うが、とにかくそれは非常に近代的な、むしろ近未来的なデザインだった。


 剥き出しの骨組みやコード、パイプは無く、美しく光る銀色のボディは全身を覆っている。


 足の甲と踵からは鋭い刃が飛び出し、頭部は極厚の片刃大剣のようであり、鋭利なフォルムをしていて、ツノと頭部が完全に一体化している。


 左手は手首から先が巨大なナイフになっていて、上下にそれぞれ装備されている。


 上側には巨大な刃が一枚、下側にはやや小さめの刃が二枚、それがハサミのように対象を挟めることを示すように刃の付け根には関節がついている。


 右手は肘から先が巨大なカノン砲であり、そのサイズは戦車の主砲を上回る。


 そして、何よりもラグベールがそれを神と崇める理由が分かった。


 その巨神には羽が生えていた。


 機械の銀翼は鋭い剣と巨大なプロペラを有し、その巨神だけが持つ破格の存在感を神格化させ、ただならぬ神々しさを全身に溢れさせている。


『私のところまで来る人間は本当に久しぶりだ、世間の情報を集めたところ、どうやら一〇年前に起こったアーゼル帝国及びバルギア王国の同時滅亡事件は迷宮入りになっているらしいな、お前たちを処分する前に真相を教えるのもまた一興だろう』


 信じられぬ出来事にロイ達は言葉を失ったまま立ち尽くす。


 そんな三人の様子をZEROは特に気に掛けることも無く続ける。


『確かに、アーゼル帝国、いや、その男が作った巨神は強大だった。しかしバルギア王国はマシントラブルで機能を停止させた一体の巨神を分解し、解析結果を元に新たな巨神を作ろうとした。

 結果、長い月日の果てに私が生まれた。人工知能の一点においてはアーゼル帝国よりも遥かに進んでいた王国は巨神に自我を与え、状況によって臨機応変に活動できるようにしようとした。

 だが、私の機体完成と同時に一〇年前の事件が起こった。首都が滅ぶ寸前の中、私を作った博士は死ぬ間際に私の機体を起動させた。

 すでに博士は死に、王国も滅亡していたが、私は敵陣を突破し、帝国を滅ぼした。

 後はラグベールの助けを借りて巨神達への命令コードを知り、私は大陸すべての巨神をまとめ上げ、今に至る』


 感情の無い、乾ききった声が終わると、ロイは握り拳を作り、自らを奮い立たせる。


「待てよ、帝国はもう滅んだ、じゃあなんでテメーは巨神を操って他の国にまで攻め込んでんだよ!?」


『私が破壊のために作られたからだ』


「っ……!」


 自らの訴えをたった一言で一蹴する巨神の王にロイの感情が爆発した。


 ギィイイイイン!!


 ロイはチェーンソーを猛らせてZEROに飛びかかった。


「ZERO様!」コートの集団が叫ぶ。


『お前らは下がれ』


 神の指示にラグベールを含め、コートの集団は壁際の階段まで走ると部屋上部の壁から反対側の壁へと伸びている渡り廊下の上に移動し、上から戦いを観戦した。


『人間が……』


 ZEROは右腕で横薙ぎの一撃を振るった。



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