第37話 ラストステージ


「どうやらあそこがそうらしいね、それじゃ、ラストステージへ行きますか」

「よっしゃ、ジェネレーターさえ破壊すりゃ、この勝負は勝ったも同然だな」

「ガンガン行こう!」

「こらリア、あまり油断をするな」


 四者四用の反応をしながら門との距離を詰め……そして……ライナの手が、門に触れると、それは自動的に開いた。


 果たして、門の先に広がっていた光景はさきほどロイとライナが戦っていた部屋と同等の広さ持っている空間で、だが、どこにも動力炉らしき物は見受けられなかった。


 一体、この部屋からどのようなエネルギー反応があったというのだろうか。


 だが、薄暗い空間の中に、いくつもの人の気配を感じ、ロイ達は表情を引き締めた。


「出てきてもらおうか」


 語気を強めてライナがスラッグガンを部屋の奥に向けると部屋の奥からいくつもの影が姿を現した。


 暗いと言っても本当に真っ暗というわけではなかったのに、今までどこに隠れていたのかとロイ達は身構える。


 最終的に人影は三〇人ほどまで増え、その誰もが黒いコートで体を、フードで顔を隠していた。


 まるで絵本の中に出てくる黒魔術師のような印象を受けるその風貌は彼らの怪しさを引き立て、ロイ達を少なからず動揺させる。


 そのコート姿の連中の中でも、先頭に立っていた男がゆっくりと口を開く。


「久しぶりだなライナ」


 男の言葉にロイ達が絶句した。しかし間髪いれずライナが言う。


「その声、やはりお前か、ラグベール」

「ふっ、やはりここにくるのはお前だったか」


 男は黒いフードを脱ぎ、自らの顔を晒した。


 右目に眼帯をした三十代半ばの男の顔がそこにあった。


 その顔は嬉しさで歪み、喉の奥で小さく笑っている。


「我が神を倒しに来たか、残念だがそれは不可能だ、それでもお前は幸運だよ、何せ神の手で死ねるのだからな」

「ッ……ラグベール、貴様……」


 顔を怒りに染め上げるライナ、そしてロイも黙ってはいない。


「大佐、こいつと知り合いなのか?」

「ああ、昔の研究仲間だよ、もっとも、今はただのイカレ野郎だけどね」


 全身の憎しみを込めた視線を突き刺すライナに、ラグベールは気味の悪い笑顔を向ける。


「どうやらお前の連れは知らないらしいな、いいだろう教えてやる、そいつの本名、いや旧姓、ライナ・アルゼード・スタウレン、この世界の恐怖たる巨神の生みの親だ」


「「「!?」」」


 その言葉は、あまりに衝撃が強過ぎた。


 ロイも、リアも、そしてカイも、両親とかつての仲間を巨神に殺された。


 だが、今まで共に時間を共有してきたライナがその発明者など、一体どうやったら信じられるというのか、ロイ達は言葉を失ったまま、だがライナは観念したように力なく語った。


「あいつの言っていることは本当だよ」

「大佐殿……」

「ライライ……嘘だよね……?」


 だが、ライナはかぶりを振った。


「昔の話さ、私の両親はアーゼル帝国の研究員で、バルギア王国と戦争が始まった時、当時一〇歳だった私は既に大学院を卒業していて、いくつもの名誉ある賞を手にしていた。私はそのまま軍の研究機関に迎えられ、毎日毎日人殺しの道具を作るのに没頭していた」


 ロイ達に背を向けたまま、ライナはうつむいた。


「いくら勉強ができても所詮は子供、ただ新しい発明をすれば周りの大人が、両親が誉めてくれる、ただそれだけの理由で私は兵器を作った……自分の発明した物でどれほどの悲劇が生まれるかも考えずに……」


 途端に、ライナは振り向き、血を吐き出さんばかりに叫んだ。


「そうだ、作ったさ! 戦車に戦闘機、爆撃機に戦闘用ヘリコプター、誘導弾焼夷弾冷凍弾光学兵器に毒ガス、全部私が発明した殺戮兵器だ! 戦場を知らない私の元にくるのはただ自分の兵器で何人の敵兵が死んだかの数字だけ!

 人が死のうと子供の私はただ漠然と自分の発明で祖国が勝っていると喜び死人を示す数字が上がるごとに馬鹿みたく喜び続けた!

 そしてついに、最悪の兵器、巨神型自立機甲兵を作るプロジェクトチームのリーダーを任された私は、仲間達と共に巨神を完成させた……」


 堰を切ったように溢れる涙で顔を汚すライナの声は徐々に力を失っていく。


「次々とバルギア王国の人間が死んでいく中で、私は自分の発明で戦争が終わると有頂天になっていた。周りから天才と祭り上げられていた私は結局、最後の日まで自分の愚かさにも気付かずに巨神を改良し続けた」


「最後の……日ってまさか……?」


 震えるリアの声にライナは力無く応える。


「そうだよ、一〇年前に起こった大戦、私はこれで戦争も終わりだと、アーゼル帝国でのんびりと待っていた。そして、あの惨劇が始まった。いきなりアーゼル帝国の首都を一機の巨神が襲撃、でもそれは私の知らない巨神だった。

 その謎の巨神に首都は滅ぼされ皇帝一族も死んで帝国は滅亡、実際に襲われて知ったんだよ、ついさっきまで話していた人達の死体を見て、自分は今までこんな物を作り続けていたのかと……両親が死んだ私は帝国から逃げ出すと母の祖国であるリブル共和国に落ち延びて、名字も母の旧姓であるボルナードに変え、リブル共和国軍に入隊することに成功した、私が作ってしまった最悪の兵器、巨神を破壊するためにね……」


「大佐殿、ではあの禁止エリアにあったアーゼル帝国の基地は……」


「ああ、私はあそこを何度か出入りしていてね、この艦の地図をインプットしておいた試作品の小型機甲兵を取りに君達を利用したんだ……」


 ライナが言葉を途切れさせるとラグベールが続いた。


「そして、私はライナと同じチームにいた研究員というわけだ、そしてあの日、わが祖国アーゼル帝国を滅ぼした最強の巨神、名称ではなく、まさしく本物の神……ZERO様に出会った」


 ラグベールが口にした《ZERO》という単語にロイ達は昨日の出来事を思い出す。

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