第34話 大ボス


『正面の入り口』


 真っ直ぐ行った先にあるのは巨大な門、要塞の五メートル近い天井ギリギリまでの高さで左右一枚ずつの扉はそれぞれ四メートルほどの幅がある。


「あそこかい?」

『巨神……巨神』

「……みんな、あの扉の中には巨神がいるようだ、全員で瞬殺するよ」

「了解しました」

「了解でーす」


 背後からリアとカイの返事聞くとライナはチビ神兵をコートの中に収めて背中の大剣を抜き放ち、走りながら腰をひねって大振りな横薙ぎの一撃で門を斬り飛ばした。


 四人がほぼ同時に部屋に飛び込むと、突如暗い空間に電気が点き、辺りの様子が確認できるようになり、そこが巨大な空間であることが分かる。


 天井までの高さはざっと一五メートル、広さは民家が一〇件は建ちそうなほどの面積があった。


 そしてその中央に鎮座しているのは異形の巨神だ。


 単純に説明すると、下半身は蜘蛛で上半身は六本腕の人間である。


 蜘蛛の目が付いてる部分から上に向かって人間の上半身が生えているその姿は伝説上のモンスター、アルケニーにそっくりである。


「おいおい、また蜘蛛型かよ」

「しかし、これは動物型に入るのか?」

「えー、ボクは人間型だと思うよ」

「いやいや、オジサンは特殊型に一票かな」


 相手にそれぞれの感想を抱かせるソレの身長は約一〇メートル程度で外で戦っている巨神の半分程度の大きさしかないが、その姿のせいか迫力は今までの巨神を上回るモノがあった。


『――――■■■■■■――■■■■■』


 ロイ達の侵入に巨神は背中から飛び出した四本のパイプから蒸気を噴き出して腕を上げ、その光景にロイとリアは息を飲んだ。


 巨神の六本の腕のうち、二本は手首から先がチェーンソーになっており、もう二本はハンマーになっていた。


 二人は前に進み出て得物を構えた。


「悪いけどあの野郎には俺がチェーンソーの使い方を教えてやらねーとな」

「ボクのハンマー道も一緒にね」


 いつも通りのバカ兄妹のセリフにカイは溜息をついて呆れた。


「まったく、何をくだらないことを言って……」


 巨神が最後に振り上げた二本の腕がドリルになっているのを見ると、カイも進み出た。


「悪いが同じドリラーとして負けるわけにはいかないな」


 ライナの「ドリラーって何?」というツッコミを無視し、三人は一斉に飛び掛った。


『■■■■■――――■■■■■■』


 エンジンとジェネレーターの駆動音を雄叫びに巨神の八本の足も動き出す。


「ヤレヤレ、しょうがないからオジサンもたまにはハッスルしちゃおうかな」


 刹那、ライナの目がかつてない光を宿し、大剣を握りなおした。


「下はオジサンに任せて三人は上頼んだよ!」

「「「了解!」」」

『■■■■■――■■■■■■――』


 かくして、四人の戦士と機械の化け物は対峙し、闘争の火蓋を切って落としたが……


「おうらッ!」


 ロイと巨神の鎖刃が接触し、巨神のチェーンソーは弾かれて後方へ飛ぶ。


「破ァッ!」


 カイのドリルは巨神のドリルを真横から突き、質量差を感じさせぬ破壊力で打ち勝つ。


「ぶっ飛べー」


 哀れ、リアに弾かれた巨神のハンマーは他の腕に当たり、巨神は戦いのバランスを崩され、間髪いれず巨神の重心がグラリと傾いた。


「まずは二本と……」


 巨神のカメラが足元に向けられると、既にライナが左側の四本中二本の足を両断したところであった。


 頭部を再び正眼に向けてロイ達の動向を確認しようとすると三人の姿は無かった。


 ロイ達は巨神の死角、胸部の目の前まで接近していた。


「「「いっけぇえええええっ!!」」」


 三人のハンマーがドリルが、そしてチェーンソーが担い手の渾身の力と共に鋼のボディに叩き込まれた。


『――――■■■■■■――■■■■■』


 巨神の胸部はたまらず吹き飛び、ジェネレーターやラジエーターが剥き出しになり、衝撃で上半身が仰け反る、なんとか耐えようとするもいつのまにか床から下半身へ跳び乗っていたライナは大剣のフルスイングを巨神の腰にブチ当てた。


 メリメリと音を立てて巨神の上半身は自重で千切れ、倒木のようにゆっくりと重力に支配されていく。


 当然、ロイ達三人も重力の成すがままに落ちる。


 着地点は、巨神の剥き出しの部品。


「「「はぁあああっ!」」」


 着地の衝撃を加えた三人の攻撃が巨神の内部を打ち抜く。


『――――■■■■■■――■■■■■――――■■■■■■――■■■■■』


 機械の断末魔の叫びにライナを含めた四人は飛び退いて距離を取った。


 煙を上げ、六本の腕を滅茶苦茶に振り回し、巨神はけたたましい爆発とともにその身を崩すが、爆発の規模が尋常では無かった。


 狂ったような轟音と爆音は部屋の端にいても届き、四人は身を低くしてやり過ごそうとするが部屋全体を激震する衝撃波に頭が割れそうな感覚に襲われる。


 終わったかと眼を空けると同時に上半身を失った巨神の下半身が足を滑らせてボディを床に叩きつけた。


 おそらく、それが悪かったのだろう、床にミシミシと亀裂が入り、歪んでいく。


「お、お兄ちゃん……」

「マズイな……」


 カイとライナは出口に向かって跳躍しようとした。


 しかし神様は残酷なもので、二人の足が床を蹴るコンマ一秒前に床は崩れ落ちたのだった。


 四人の意識はそこまでだ。

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