第33話 要塞戦


「要塞だけあってマジで数多いな」


 機甲兵の群れを片っ端から切り裂きながらロイはそう言った。


 さすがは要塞と言ったところか、機甲兵の数は前回の戦いの比ではなかった。


 機甲兵は倒しても倒してもそこら中の部屋から現れ、一向に数が減らない。


「そろそろ変わった敵の一人も欲しいところだね」


 目に付く機甲兵全てを叩き潰しながらリアが言うと、カイがドリルで三体まとめて機械の体を貫いた。


「心配するな、要塞の内部ならばこいつらだけということは無いだろう」

「そうそう、ちゃんと小ボスや中ボス、そして大ボスとラスボスもいるから安心してよ」


 とスラッグガンをブラブラさせながら遊ぶ大佐。


「って大佐も戦えよ!」


 ロイが眉間にシワを寄せるのと同時にライナはわざとらしく片膝をついて顔を歪めた。


「くっ、昔死に掛けた時の古傷が、だが、オジサンはこんなところで止るわけには……」

「演技丸見えなんだよ!」

「だまれロイ! 大佐殿、そんな古傷があったなら休んでてください、後は我々がなんとかします」


 自分の怒声も空しくライナを労(いた)わるカイに、ロイは半ば諦め調に溜息を漏らして敵の解体作業を続けた。


「そういえばライライ、ボク達ってどこに向かってるの?」


「んっ? そうだねえ、風穴から入ったから現在地はよく分からないけど天井の高さを考えるに多分この要塞の本体は一二階建て、オジサン達は今、五階辺りにいると思うから上を目指そうか」


「つっても階段の場所分からねえだろ?」


「大丈夫大丈夫、機甲兵も律儀に全員倒す必要はないし、ここはオジサンの直感で突き進めば全てはうまくいくって」


「まーたいい加減な、だけど賛成、リア、カイ」

「はーい」

「了解した」


 返事をしてリアはハンマーをジャイアントスイングのように振り回し、高速で回転しながら無理矢理直進した。


 延長上の機甲兵は全て砕かれ、壊れ、弾け、次々機能を停止させて行く。


 最後にリアは手を放し、体質量ハンマーは信じられぬほどの高速回転をしながら機甲兵の軍勢を蹴散らし廊下の奥まで吹き飛ぶ。


 今度はロイとカイがそれぞれの得物の刃を最速回転まで加速させて突進、前方から襲い掛かる敵だけを破壊し突き進む、後ろからは逃した機甲兵が追ってくるがあえて無視して突き進む、途中でリアはハンマーを回収してロイ達に続いた。


「ほんじゃ、後はオジサンの勘とこの……」


 ライナはスラッグガンをコートの中にしまい、代わりにある物を取り出した。


「チビ神兵が指し示してくれる!」


 ライナが取り出したのはリアが家に置いてきたはずのチビ神兵である。


「あっ、チーちゃん」

「なんでそんな大福野郎をつれて来てんだよ」

「無駄です……」


 三者三様の反応にもめげずにライナはチビ神兵に問う。


「さーてチビ君、右がいいか左がいいかを示してくれ」


 するとチビ神兵からはたった今録音したライナの声で『右がいい』と答えて先頭を突っ走るライナは右へ曲がった。


 すると前方には確かに階段が見える。


「なんと、チビ神兵にはこんな力が……」

「チーちゃんえらーい」


 驚くカイだが、ロイは落ち着き払ってライナに近づき、小さな声で聞いた。


「っで、大佐、本当はどういうことなんだ? 言っておくけど俺はカイみたいに騙されないぞ」


「やっぱ? 正直なところを言うと、昨日この子を解析も含めて色々いじったんだよ、そしたら流石はアーゼル帝国の基地にあっただけあって高性能もいいところだよ、軍の研究員に見せたらみんな万歳三唱で大歓迎だろうね」


「どういうことだ?」

「この子にはエネルギー反応を感知する機能が備わっている」


 ロイの眼が大きく開いた。


「そして、この子のメモリーにはこの要塞の地図が入っている」


 やや言葉を失ってから、ロイはチビ神兵を一瞥した。


「軍はそれを知っているのか?」

「いや、何せ昨日この子と喋っている時にこの子自身がオジサンに言った事だからね、この子のメモリーから地図を取り出す技術はこの国に無いし、全てはこの子のみが知るだけだよ」

「だからそいつを教えてやってだな……」

「ロイ君はこの子を将軍達に提出して納得させられるのかい?」


 ロイの視線が再びチビ神兵に移る。


 どうみても子供の玩具にしか見えない大福顔とマジックハンドに小さな足、こんな物を将軍に見せて今の説明をしたら間違いなく軍法会議物だろう。


「でも、そいつの言っていることが本当だって確証は無いんだろ?」


 すると、ライナは薄く笑って足を速めた。


「ほうら、もうすぐ七階への階段だよ」


 喋りながらチビ神兵の言う通りに走るロイ達の前には再び階段が見えた。


 六階で一度も機甲兵に合わなかったのはおそらくだが、チビ神兵が機甲兵のいないルートを選んでくれたからだろう、エネルギー反応を感知する機能が本当にあるなら可能であろう。


「この子には一番強いエネルギー反応へ通じる安全な道を教えてくれるよう頼んだ、オジサン達はそれを信じるだけさ」


 ライナには珍しく感情の込もらぬ淡白な声に違和感を覚え、ロイは思わず口を開いた。


「大佐……あんたは……」


「大佐みたいに気楽な人には悩みなんてないんだろうな……これが軍部での評価だけどとんでもない、オジサンだって家族は一人残らず巨神に殺された、ただ安定した生活が欲しいだけで軍に入ったなら大佐の地位に就けるほど腕を磨いたり任務に躍起(やっき)になったりもしない、この気持ち、ロイ君ならわかってくれると思うんだけど……」


 ロイは答えず、ややうつむいて走り続け、八階に上がったところでチビ神兵が言う。


『正面の入り口』

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