第28話 回想1


「そんなおもしろいことがあったなら今日は仕事をサボったほうが良かったかなー」


 などと子供じみたことを言いながら黙々と夕食を食べるライナにロイは笑いながら答える。


「はは、そしたらマーベル准将と乱闘騒ぎになってるって」

「ライライとマーちゃんて仲悪いもんね」


 そう言うリアをライナはフォークで指して目を光らせる。


「おおっと、それはちょっと違うよリアちゃん、オジサンはマーちゃんとぜひとも懇意になりたいと思っているんだけど向こうが一方的にオジサンを嫌っているのだよ、いやはや困った困った」


 嘯くライナにロイも続く。


「マーベル准将と懇意ねえ、まぁ、俺も是非懇意になりたいもんだな」


 と言ってロイはカイに視線を向け、彼女の体に注目する。


「なあ大佐、やっぱり准将がデカイのってカイの上司だったからかな?」

「きっとそうだよ、流石は中隊長、部下の特徴をそのままグレードアップしたその容姿は隊長の鏡だよ」

「なあカイ、もしかして准将の隊には胸がデカくなる要素が……」


 刹那、ロイの頬を銀色の閃きがかすめた。


 その延長線上の壁にはナイフが突き刺さり、ロイの頬から赤い筋が伸びる。


「ロイ、いくら貴様でもそれ以上の発言は……いや、待てよ……」


 カイは突然思いとどまったように黙り、口に親指を当てて過去の記憶を掘り起こす。


「そういえばアンもリサもかなり……いやしかし、でも交代で入ったマーナもうちの隊に入ってから急に……」


 一人でブツブツと喋りながら回想から帰ってこれないカイの姿にロイは「冗談だったのに本当だったのかよ」と呟いてサイコロステーキを口に運ぶと、背後から言い知れぬ殺気を感じ、リアのイスが空席であることに気付いた。


「!?」


 緊急回避は間に合わない、頭に強い衝撃を受けるのと同時に首を締め上げられ、頭を連続的に衝撃が襲う。


 元凶は当然に……暴走リアだ……


「むがぁー、そんなに巨乳が好きかぁ! そんなに爆乳が良いのかぁっ! ボクだって、ボクだって、無いわけじゃないんだぞー! ちゃんと平均はある自信はあるんだからぁ!」


 両足でロイの首を捻じ切らんばかりに締め、両手の拳で頭を殴打するリア、妹の暴走に抗えず、それを受け続ける兄ロイ、それを眺めながら笑う国軍大佐ライナ、そして未だ回想世界から戻れない騎士カイ、これが巨神達との決戦前夜であった。









 暑い朝だった。


 その日のロイはセミのやかましい騒音のせいでセミの大群に襲われる夢にうなされていた。


 気温のせいもあるだろう、最後は谷から落ちてマグマに落ちるというラストだ。

 マグマまでの距離はあと五メートル、そこで……


「ロイ!」

「おうわっ!」


 マグマが消失、と同時に母親の顔が出現した。


「母さんがマグマから出てきたぁ!?」


 ボグフ!

 痛烈なボディブローで意識が遠のきロイはノックアウト、再びベッドに横たわった。


「まったく、何寝ぼけてんの、早くしないと学校に送れちゃうでしょ! あと一〇分でリアちゃん迎えにくるよ」


 そう言い残して完璧KOした息子に背を向けて離れて行く母、ロイは泡を吹きながらズリズリとベッドから脱出を試みるも、ベッドから落ちた瞬間に鼻を強打、ダメージプラス三〇にて五秒間ピヨるハメになった。


※ピヨる:格闘ゲームで気絶したさいに頭上でヒヨコが飛ぶところから、気を失う、フラフラの状態になるの意。


「にぃーにぃー にぃーにぃー」


 外から聞こえてくる幼い声にロイは慌てて朝食のトーストと目玉焼きをかきこむ。


「ほら、リアちゃん来ちゃったじゃない、だから早く起きなさいって」


 金髪のロングへアーと無駄に大きい胸を揺らしながら洗い物をする母にせかされロイは牛乳を飲みながら左手で鞄を手に取った。


「ロイ、あまり急ぐとケガをするからもっと慎重に……」

「どっちだよ!?」


 テーブルの反対側で呑気にコーヒーを飲む金髪金眼の男に怒鳴るロイ、相手は勿論、ロイの父親である。


「コラ! お父さんに口答えしないの!」


 グザス!

 母の必殺まな板デストロイヤー(まな板の角で頭を殴るだけ)を喰らい、空になったコップごと床に倒れるロイ、頭からは血が流れているが母はエヘンと立派な胸を張ってしてやったり顔で息子を見下ろしている。


 ロイは激しい頭痛の中、過去に父に聞いた質問と返答を思い返す。




 ロイ曰く「なんで父さんはあんな暴力女と結婚したんだ?」

 父親曰く「父さんはな、母さんの顔と乳に惚れたんだ、それ以外には何もない」

 それにロイが「えっ……? その、性格とか家事の腕は?」

 それに父親が「父さんは母さんがこんなに料理が上手いなんて知らなかったし若い時は毎晩スプラッタされたもんだ、そのバイオレンスライフの果てに今のラブラブな生活があるんだぞ」

 負けじとロイが「いや、さすがに少しは他の要素も……」

 負けじと父親が「いいかロイ、よく聞くんだ、女は顔だ! 女は乳だ! 料理の腕でも性格でもまして金なんかでもない。


 例えばだロイ、貧乳ブスに殴られたら『ブッ殺されてーかこの糞豚!』ってなるし、誉められても舌打ちをしたくなる、だが巨乳美少女に殴られても『いいよいいよ』ってなるし、罵られても『可愛いなあ』って……ならないか!? なるだろ!? なるんだよ!!」


 戸惑い「えと、父さん?」


 そして駄目押しの「いいかロイ、巨乳美女はそれだけで存在価値があるんだ、お前も将来結婚するなら巨乳美女としか結婚しちゃ駄目だ、ロイ、これが男と男の、父親と息子の約束だッ!!」

 思わず「ハイ」

 以上で回想終了。


 掠れる眼を擦り、ロイは母の顔と乳に意識を集中した。


 するとどうだろう、先ほどまでの母への怒りが消え、これは母のスキンシップの一つなのだと感じてきた。


(父さん、今、まさに今、父さんの気持ちがわかったぜ)


(ふっ、僅か七歳にしてその境地に辿り付くとは、さすが我が息子だ)


 アイコンタクトだけで意思の疎通を図ってから、父は母にいきなり抱きついて母の必殺お玉ブラスト(お玉の先で鋭打するだけ)の餌食になってロイの右側にドサリと横たわった。


 額から流血する父を見てロイは思った。


(今でもバイオレンスじゃん)

(息子よ、子供がいる時は駄目という約束を忘れていたよ、だから早く学校へ行け)

(くっそ、途中で帰ってきて困らせてやるから覚悟しろよ)


 アイコンタクトだけでここまで話せる親子はリブル共和国でも彼らぐらいのものだろう。


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