第11話 亡国

「う~、いいなあみんな出世して、ボクなんてまだ伍長だよ」


 頬をふくらませて足をブラつかせるリアをライナは笑顔でなだめる。


「まあまあ、リアちゃんは後方支援なんだから活躍が目立たないのは仕方ないよ」

「むぅ、いいもん、お兄ちゃんと結婚すれば階級関係なく左官夫人だもん」


 長年のカンで次の展開を悟ったのだろう、ロイはすぐさま臨戦態勢に入り、だがそんなものは関係ないとばかりに飛び掛ってきたリアはロイの反撃を華麗にかわして胸板へ辿り着き絡みついてくる。


「だから寄るなっての」

「やぁあああ、カイちゃんばかりじゃなくてあたしにも手え出すのぉっ!」

「お前は妹だろうがっ!」

「血が繋がってないからいいの! 義理の妹、それは法的に許された禁断の恋、お兄ちゃんは何でこの良さが分からないの!?」

「法的に許されているなら禁断でもなんでもねーだろ!!」


 妹を振りほどこうとするお兄ちゃんとそのお兄ちゃんにしがみついて胸を押し付ける妹の姿を、ライナはご満悦の様子で眺めて息を吐いた。


「ふぅ、血の繋がらない兄と妹、なかなかに萌える展開だねえ」

「燃える展開?」


 ライナの言葉にカイは小首を傾げる。


「フフ、大丈夫、カイちゃんもそのうち解るから」


 目を細めて慈しむような眼差しを向けるライナの言動に、カイの想像力がついていけるはずもなく、頭を悩ませるカイの姿を堪能してからライナは腰を上げた。


「さて、もう電気も溜まっただろうし、出発しようか」

「んっ、でもまだ仕事内容聞いてねえぞ」

「ああ、それはセントラルに行く途中で話すよ、ほらほら、いつまでもロイ君につかまってないでリアちゃんは運転しようねー」


 まるで子猫のように掴み上げられてリアは操縦席へ運ばれていく、リアは抵抗したが、大人と子供以上の体格差があるライナに抗えるはずもないのだ。


 リアがレバーを倒し、アクセルを踏み込むと艦は唸りを上げて荒野を爆走した。



「はーい、ここでちゅーもーく、リアちゃんは進路を右に三〇度変更よろしくね」


 艦を起動させてから一〇分後、突然手を叩いて言い放つライナに言葉どおり注目が集まる。


「実は近頃、この先のエリアで行方不明者が続出しているんだけど、その理由を探るのが小さい仕事ことオジサンの私的用事?」

「なんで疑問系なんだよ……つうか私的用事って、軍の正式依頼じゃねえのかよ?」

「まあね、これはオジサンが個人的に気になるだけ、もしかしたら巨神が関わってるかもしれないし、関わって無くても連続失踪事件の犯人を逮捕したとなればそれはそれでお手柄だろう?」

「そりゃ、まあな……」


 ロイは納得したが、カイは前に進み出てライナに質す。


「ですが大佐殿、確かこの先はついこの間、立ち入り禁止区域に指定されたと思うのですが、許可は取ってあるのですか?」


 するとライナは「フッ」と小さく笑って眼鏡の真ん中をクイッと上げて声高らかに叫びだした。


「そんな物はオジサンの金と権力を使えばどうにでもなるのだぁッ! 行けリアちゃん、目指すは入っちゃ駄目なエリアだ!」

「う~ん、入っちゃダメと言われると入りたくなるぅ~」


 目に星を散りばめながらリアはアクセルをさらに深く踏み込み、艦のスピードが一気に上がる。


 進入禁止の立て札が遠目に見えるがそんな物で止まるリアとライナではない、アクセルをベタ踏みするリアの横でライナは楽しそうに進行方向を指差しながら「GO GO」とかなんとか言っている。


 ロイも二人のテンションに乗っかり、ライナと一緒になって「進め進めー」と言いながらガッツポーズを決めている。


 その背後でカイが嘆息を漏らしてイスに座り直すとライナが気がつき近寄ってくる。


「おや? カイちゃんもしかして疲れた?」

「ええ、まあ皆の言動には……それで、もう一つの依頼とはなんでしょうか?」


 疲れ顔のカイにライナはよく聞いてくれましたと言わんばかりに指を鳴らした。


「今回のは凄いよ、何せ国一つ落とした伝説の軍勢が相手だからね」

「国一つ!? マジかよそれ!?」


 カイとライナの会話に気がついたロイが食い付くとライナは眼鏡を上げなおして続ける。


「まあ伝説といえば伝説なんだけどね、でも最強戦力なのは間違いないよ、何せ巨神の軍勢だからね、並大抵の軍じゃ国ごと潰されて終わりだよ」


 巨神一機の戦闘能力は武装した兵士一千人分以上と言われている。


 階級で言えば准将以上、国内に一〇〇人もいない将軍達の全盛期クラスの戦闘力に匹敵することになる。


 現に、若く実績の数が稼げないだけで、ロイ、カイ、リアの三人は単純な戦闘力だけなら将軍の域に達しているがロイとカイの二人で戦い、被害を最小限に留めている。


 たった一機でも軍を動員し、解体屋数人がかりで対処する巨神、それが軍勢を成しているとなれば、まさにこの世の終わりである。


「国一つ落とした、ということは、既に滅ぼされた国があるのですか?」


 カイの声にも僅かな焦燥感が感じられた。


「当然……お隣のイーマス王国だけどね、先週無くなったよ」


 落胆というほどではないが、流石に国が滅んだとあっては、陽気には語れないのだろう。

 声のトーンは低めである。


「イーマス王国? お兄ちゃん、それどんな国だっけ?」

「いや、俺もあんま詳しくないんだよな……」


 妹からの質問を視線で投げ渡してくるロイに、カイは教えてやることにした。


「イーマス王国はリブル共和国の西に位置する国で国土や人口は劣るし機械技術もあまり発達してはないが、多くの誇り高い騎士団を保有する戦士の国だ。巨神相手に剣や槍で戦っていると聞いていたのだが……」


「そりゃイーマス王国は兵士一人一人の質はいいし、今まではなんとかそれで国を守ってきたけど、情報によると首都は全壊、王を守っていた五千人の騎士団はほぼ壊滅状態、

今は王様とその家族に数人の騎士がついて隣国で保護されているらしいけど、巨神の軍勢を見たって言い張るらしいんだ」


 今の話に鼻白むロイとカイだが、そこにリアが異を唱えた。


「ちょっと待ってよ、巨神に搭載されているのは人工知能とは名ばかりで、視界に入った人と人形の区別もつかないお粗末なもののはずでしょ? 誰の命令も無しに大隊単位の巨神が同じ場所を目指すなんて、ボクには考えられないなぁ」


「流石はリアちゃん、いいとこに気付くね、そのせいかセントラルじゃ実は巨神を造り出したアーゼル帝国はまだ生きていて巨神達を影で操り世界征服を目論んでいるんじゃないかって噂で持ち切りだよ、巨神を造ったメンバー八人は全員死んだってのにアホらしい」


 陽気な口調に戻ったライナ、だが珍しい事にロイのほうはライナの言葉を受け流せない様子で逆に冷静な表情になる。


「確かにアホらしい話だな、でも大佐、そのことで俺にも気になることがあるんだ」


 神妙な面持ちのロイに向けられるライナの目がキラリと光る。

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