コウ2

「あのクソッタレのことだ。排水溝の中に身体ぶち込まれて死んでんじゃねえか?ボキボキに骨も折れちまって、歯も全部無くなってんだろうな。そしてにへらア、って笑うんだよな。ウヘヘえ、やっちまったあってなあ」


 コウは寧ろ、その言葉を神に祈るかの如く力強く、しかし細々と自分の内側へ訴えかけるように発した。コウはたすくのことを考えていた。

 池袋北口、豊島清掃工場の白い尖塔が薄らと影を現していた。時間は既に24時を回り始めた頃。コウは自宅のある祖師谷から小田急線と埼京線を乗り継ぎ、佑を罵るような言葉を何度も反芻しながら電車に揺られ、40分ほどグラグラした頭を整理しようと努力した。

 佑からの連絡は23時ごろ、コウが自宅でぼうっとYouTubeを見ている時のことだ。いつもはLINEの音声通話で電話をかけてくる佑が、電話番号をわざわざ利用して連絡を寄越してきた。コウも滅多に自分のスマホの着信音など聴く機会が無いので、鳴った瞬間に少しばかり心臓がざわついた。電話に出てみると、人間の声が至近距離で聴こえてくる。それは日本語ではなく、英語でも無かった。聞き覚えのない発音の言語が、二、三人の人間によって話されているのが分かった。そして少し離れた場所から「こちらは、西池袋警察署です」という音声が流れているのが聴こえ、客引きが違法であることを伝えている。コウはそれを聴いて、佑に何かあったのではないかと言う焦燥に駆られ、今池袋北口へと足を運んだのだ。

 池袋にはコウ自身、佑と共によく来ていた場所であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る