第18話 ジャミーと栄子



★ ジャミーと栄子




四年目、その年の五月は

確か夏が来るのが早かった。


四月の下旬から、

四月と思えない暖かさで、

五月になると、

日中は少し汗ばむくらいだった。



夜になりそれぞれの仕事から

家路に着きリビングに集う。


それぞれの部屋があるのに、

リビングに必ずと言っていいほど集まり、

就寝の時間までテレビを観たり、

話をしたり、幸せな時間がある。



ある日、ジュンが話を切り出した。


みんなさ、

三カ月だけ居候を

許可してくれないかな?


僕を含め三人は

突然の話でキョトン顔になった。


実はね、

栄子のアパートの更新が

五月に終わって八月から

千香とルームシェアするらしいのね、

その間の三カ月だけ栄子を

下北邸に居させてあげて欲しいの。


あくまでみんながオーケーならね。



ジュンは申し訳なさそうに

僕らに言ったが、

僕らはもちろん全員一致で、


楽しそう!

早く栄子来ないかな!


だった。



僕は栄子が大好きだった。

栄子もまた一人っ子で、

孝清と同じ一人っ子特有な

少し人と違う空気があり

お互いそれを感じとれる

貴重な仲間だった。



龍斗もナオトも

そんな栄子が大好きだった。


ジュンと栄子は

世の中にそんなことがあるのと

思うような出逢い方をした

心友同士だった。



孝清と栄子は

元々同じ学校の同級生で、

二人とも感性が豊かで

ファッションセンスや

素敵に感じるものが一緒で、

奇抜でファンキーだった。


そんな二人が同じ服飾専門学校で

出会い心友になった。

孝清から初期の、

大成会で紹介され

僕と栄子は出会った。


栄子は当時、

イギリス人の彼氏がいた。

イギリスに留学に行っていた

栄子が現地で知り合った彼氏だった。


今度はその彼氏が

日本に留学に来た為に、

その恋人関係は続いていた。


ある日合鍵を持っていた栄子が

終電過ぎまで飲んでしまい泥酔し

新宿から自分の家に帰るより、

場所が近い彼の部屋で寝ようと思い、

中野に住んでる男の

アパートへ向かった。


鍵を開け、

ベッドにそのまま

なだれ込んだらしい。


その時、ベッドには裸で

誰かが寝てたので彼だと思い

抱きしめながらその日は寝てしまった。


翌朝、

目覚めるとその抱きしめて寝た

人物が彼ではなく女だった事に

絶叫したらしい。


向こうの女も同じく泥酔し

彼の家に泊まっていたらしい、

肝心のイギリス男は遊びに出かけて

不在だった。


そして栄子がなだれ込んだのを、

イギリス男が帰ってきて

抱きしめられたんだと

思い、そのまま寝てしまったのだ。


朝になりそれに気づいた二人は

驚愕し絶叫し枕を投げつけあった、

お互い二股をかけられてた事を

知った瞬間だった。


もしかしたら

二股どころじゃない

かもだったらしいが。


栄子は怒りを通り越し

裸の女を抱きしめながら

寝てしまった事に照れ、

恥ずかしくなり

無言のまま朝食を作ったそうだ。



その女の分まで。


何を作ったか聞くと、

二日酔い明けの朝から、


麻婆ナスだったらしい。



麻婆ナスって。。



そのセレクトが栄子らしい(笑)。





その栄子が抱きしめながら寝て、

無言での麻婆ナス朝食を

食べた人物こそが、


心友のジュンである。(笑)



その日、

喧嘩して修羅場になるのでもなく

お互いがその遊び人のイギリス男に

対して潮時を感じてたせいか、

イギリス男の悪口を

肴に酒を酌み交わし、

笑い合ったそうだ。



その男とはすぐにお互い別れ、

栄子とジュンの友情が何年も

続くという不思議な縁だった。



素敵過ぎる。

ファンキーだ(笑)。



ただ、ジュンも栄子も

全く正反対の見た目や性格なので、

その男に疑問を感じる。


逆にそのイギリス男と話してみたい(笑)。



栄子はファッションこそ、

個性豊かで奇抜だが、

昭和から続くような

古風でピュアな

性格だった。


毎回僕は栄子に

癒しや笑いをもらっていた。


階段を上から下まで

お尻で滑り落ちたり。


網戸に寄っ掛かって

網戸ごと後ろに倒れたり。


自転車に乗って花壇に突っ込み

オデコの中心部にミラクルな傷を

つけてしまったり。


まるでコントの様に破天荒な

栄子が面白かった。


アパートの更新と共に

転職もすると言って、

下北邸に来た時には荷物も最小限で、

仕事もアパートも無く貯金で

しばらく生活をすると、

全てに至りまっさらな状態だった。


そんなファンキーな人生の栄子が、

僕は大好きだった。


栄子が来てからは四人暮らしが

少しマンネリ化していた

下北邸にファンキーでエスニックな

アロマがなだれ込んできたように

潤いを与えてくれた。



人生で一番笑った時代だったな。




栄子はフリーターの居候だったので、

光熱費だけの折半で家賃は免除にしていた。


その代わり家事全般を

任してしまっていた、

ありがたい親戚の

お姉さん的な役割だった。


転職活動しながら、

ジャミーと毎日一緒に居たので

ヤキモチを妬いてしまうほど

栄子にベットリのジャミーだった。


龍斗と僕は、

栄子にベットリのジャミーを

引き離す遊びが流行りになった。


引き離すと、

ジャミーがクゥークゥー泣いて

しょんぼりしてしまうのが

可愛いくてついついやってしまってた。




一カ月くらいで

英語が堪能な彼女は

日本語学校の職員の就職が決まった。


少々破天荒な栄子が

ようやく社会人としての

道が確立されて、

安心感と嬉しさで内心ホッとした。



ジャミーだけは日中、

栄子が仕事に行ってしまうので

しょんぼりしてみえた。


仕事に行くようになった栄子は

お弁当を作るようになったので

僕も便乗して一緒に作るようになった。


栄子の影響で

この歳になるまで、

ほぼ毎日、

弁当を作る習慣ができた。



栄子伝説がある。



ある日、いつものように

五人でリビングでダラダラと

過ごしていると、

思い出した口調で栄子が話し始めた。



ジュン、そういえば

そろそろジュンの

ボディシャンプーが

無くなりそうよ、

あれ良いよね〜!


いつも使わせてもらってるから

買って詰め替えとくね、

どこで売ってるの?




ジュンの動きが止まる。。



が、栄子の話は止まらない。



あれさ、高そうだね(笑)


全身シャンプーって書いて

あったから髪にも使っちゃったよ〜


なんかハーブ系の香りも

癒されるよね!

ストレス飛んでくね〜

肌もしっとりもちもち、

流石ジュン!



この辺りから

僕も龍斗もナオトも

嫌な予感がしていた。



確かジュンは無添加石鹸派だったはず。




次の瞬間、

ジュンが大爆笑をしてしまい、

つられて僕らも笑いが

止まらなくなってしまった。



栄子はキョトンとしていたが

合わせるように少し微笑む。



ジュンが震える声で言った。



栄子、栄子…

それボトルに

犬のマーク無かった?


と震える声で言った。



うん、可愛い犬の…?!



と答える途中で気付いた

栄子は自分のした過ちに気づき、

大爆笑が止まらなくなってしまった。



なんと二カ月もの間、

栄子は犬用全身シャンプーで

バスタイムを過ごしてきたのだった。





その事件は一カ月以上、

五人の笑いを引きづり、

今では伝説となって

仲間たちに引き継がれた。



どうりでジャミーがベットリの訳だ。


栄子に自分と同じ匂いを感じ、

恋しちゃったんだね(笑)




また栄子と笑い合いたいな。。





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