第16話 君達と出逢えた事



★ 君達と出逢えた事



四人の協同生活は

驚くほどにスムーズだった。

六年間の暮らしの中で


喧嘩や揉め事は思い当たる限り、

全くなかった。

ストレスが溜まりイライラする日は

部屋に籠もれば良いし、

イライラしててもみんなの顔が

見れれば自然と笑顔を取り戻すし。


龍斗はナオトの事をオシャレ番長と慕い、

服装まで見習う始末だ。


ジュンはマイペースで、

早速下北沢に数件足を運べる飲み屋を

見つけて持ち前のオープンな

性格で下北沢友達を増やした。


年に二回ほど休みを合わせ、

草津、伊豆、鎌倉にみんなで

旅行にも行った。


ジャミーが泊まれる宿限定なので、

探すのには苦労したが。

旅行会社のオフィスレディの

ジュンにかかればお手の物だった。



春は毎年、

近所に都内でも名の知れた

大きな公園があったので、

それぞれ一品料理を作って

花見を楽しんだり。


夏は苗場で開催される

大型ロックフェスに出掛け、

日に焼けた顔を笑いあったり、


秋は温泉で、

夏に酷使してしまった肌に

潤いを与えに行ったり、


冬は仲間をたくさん呼んで

紅白を観ながら誰の衣装が良くないだの、

なんか調子悪そうな歌手だねとか

何様のつもりなんだろうというくらい、

言い合ってみんなで笑いあった。



暮らし始めて二年目に龍斗が転職をした。


不安ばかりの龍斗に三人は、

給料が下がるかもしれないが、

そのときはみんなで支え合おうと誓った。

まるで、東京の家族のようだった。


そして、龍斗は念願の音楽イベントの

会社に就職が決まった。


大学生の時からの夢を叶え、

その喜びをナオトもジュンも僕も

自分の事のように感じ、

歳を重ねても一緒に歩もうと

毎日の生活を大切にした、

ルームシェア二年目の春だった。


友人達と暮らし始めると、

やはり金銭問題が関わってくるが、

毎月の支払いは大蔵大臣として、

一番歳上の僕の担当だった。

給料日に家賃、光熱費の回収する。


毎月きちんと揃い、

三人が僕を困らせたことは

一度たりともなかった。


食費、物資などは共用財布を作り、

月何千円かを、出し合い

その中から買い物をした。


優秀この上ないメンバーだった。



一番、心強く感じたのは

誰か病気で倒れた時だ。


ジュンがギックリ腰になったり。

ナオトが高熱を出して入院したり。

龍斗が急性腸炎で倒れたり。

ジャミーまでもが胃炎を起こし

入院した時もあった。


一番ジジイの僕は

ちょこちょこ細かい病だったので

おおごとな不調はなかった。


そんな時みんなのサポートが

どれほどの支えになったか、

今更痛感する。


ジュンが腰を痛めた時は、

全く動けなくなり、

僕はまるで老人介護のように

口に飲み物を運んだり、

ジュンの手足を龍斗と支えながら

トイレまで運んだり(笑)


きっと本当に老人になったら

こうやって生活するんだろうなって

思える出来事だった。



毎日が目まぐるしく巡り

思い出を重ねてきた頃、

ずっと男性関係を沈黙していた

ジュンにシェア三年目にして

ようやく王子が現れた。


下北沢の飲み屋で

隣りに座った男性と

その後何度か

隣り合わせになり、

出身や年齢が同じという

偶然から運命を感じ、

急速に愛を育んだ。


いつも見慣れたジュンではない、

女性のジュンをこの時期は

たくさん垣間見た。


甲斐甲斐しく、

お弁当を作り

仕事で遅い彼に

持っていく姿は、

可愛いかった。


四人とも洗濯を一緒にしていたので、

ナオト、ジュン、龍斗の下着ですら

把握していた(笑)


この頃のジュンは、

原色やヒョウ柄は少しお休みしていたな。

彼好みの柔らかいお色が多かった。


友人達に洗濯も一緒なの!?

と、びっくりされていたが

一度もそんな事

気にした事もなかった。


弁当を作ってるジュンの顔は

とても素敵だった、

たまにその顔が好きすぎて

ちょっかいを出すと、


千尋はそのカスでも食べてなさい(笑)

と言われた。

その通りに食べてやった。


ジュンの弁当カスも美味かった(笑)



それからは

ジュンと彼氏も含めて

よく飲んだり家の食卓に

招待したりして、

僕等とも親密な関係を重ねていった。


ジュンも彼を婚約者として、

未来を一緒に語っていた。


現実問題、

もしジュンが結婚したら、

この幸せな空間とは

別れなきゃいけない。

離れなきゃいけない。


ジュンが幸せになったら、

僕は号泣するほど嬉しかったが、

みんなと別れが待ってるのも、

また号泣だ。


複雑な心境であまり考えたくなかった。



それでも、いつかはやってくる未来を漠然と考えながら過ごしていた。

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