第15話 ジャミー



★ ジャミー



四人での生活も五ヶ月が経ち、

少しずつみんなの生活リズムが分かり、

それぞれがなんとなく

居心地の良い場所を見つけて

楽しく暮らしていた。



二月、僕は誕生日を迎え三十五歳になった。


そろそろきちんとした

大人になりたいと

いつも思っていたが、

なかなか一度染み付いた

生活や行動は

治るものではない。


文也とも二人三脚で

上手くまわっていた、

お互いに節度を守りながら。


ただ、心友が親友となり

友人に変わり

今ではもう

仕事仲間という

言い方しかできないくらい、

プライベートでは遊ばなくなった。


お互いがお互い、

それ以上を望まなくなってしまった。



だが僕には下北邸という、

暖かい帰る場所がある、

それがなによりの幸せだった。


二月の八日、

いつものように高円寺から

下北沢の家まで自転車を走らせる。


環七を真っ直ぐ走らせれば、

自転車で三十分くらいと知って、

早速貯めた貯金から

東京バイクの新作を買った。


家賃くらい高い

ロードバイクだったが、

これから先の相棒として迎え入れた。


雨の日も雪の日も

また夏の炎天下の中でも

一度も困らす事なく働いてくれた、

優秀な相棒だった。


自転車で通勤すると、

季節の変化がいち早く

身体で感じられる。

特に秋の入り口に

急に涼しくなる時期が

たまらなく大好きだった。


それ以上季節が変化すると、

冷えて死にそうな日々が待っている。

寒いとピーピー言ってる

自分も楽しかったが。



家に着き、

駐輪場に自転車を停め、

階段を上がる。

僕は違和感を感じて、立ち止まる。


今日は土曜日だ、

三人とも休みのはずなのに、

電気が消えている。


誰かしらはいつもいるはずなのに、

今日は玄関の電気も消されて真っ暗だ。


僕は急に寂しくなった。

誕生日なのに。。


玄関を開け、

誰もいないのが分かっていても、

ただいまとアピールをする。


と、廊下を抜けたリビングから

モソモソ動く何かが

こっちに向かって来た。


チャッチャッチャッと

フローリングに爪音を立て

向かってきた。



僕は暗闇なので少し鳥肌が立ち、

悲鳴に近い声をあげてしまった。


近寄ってきたそいつは

僕の事を見上げ

クゥークゥー鳴いた。




地獄から一気に

天国に突き上げられた。


本当に本当に可愛い、

仔犬だった。

僕がみんなに

ずっと祈願していた、

ジャックラッセルテリアの仔犬だった。



抱き上げ顔をみた瞬間、

一斉に部屋中の電気が付いた。


リビングから沢山の

ハッピーバースデーが聞こえた。


龍斗、ジュン、ナオト。

孝清、靖浩、栄子。

オーバーザレインボーの仲間達。


そこにはさっき

サロンで別れたばかりの

文也までいた。



三十五にもなって、

号泣してしまった。。



ジャックラッセルの仔犬は

一生懸命に僕の涙を

美味しそうに舐めまくっていた。


あくまでも仮にだが、

名前が決まるまでと龍斗が

ジャミーと命名した。



もっと可愛い名前を付けたかったが、

なかなか決まらず、

ジャミーと呼ぶと小さな短いシッポを

フリフリして走って来るので、


いつの日かジャミーがこの子の

正式な名前になった。



ジャミーは男の子で

愛犬家の間に密かに言われてる、

ジャックラッセルテリアは

犬種の中で一番ヤンチャで

飼うのが大変だと言う噂が

実証されるような元気な子だった。


たまにタスマニアデビルのような

声を上げて野生化してしまい、

たくさんの咬み傷が僕の大事な

美容師の手から絶えず、

服や靴、靴下までもが

野生化したジャミーの獲物になっていた。


一番申し訳なかったのが、

ジャミーがジュンのパンティまで

持ってきて、

ボロボロにしちゃった時だ。


ジュンは勝負パンツなのに!

って言ってゲラゲラ笑ってくれたっけ。


僕は若干、

育児ノイローゼ気味になった。(笑)


今思えば笑えるし、愛おしい。



僕らは龍斗との本当の子供のように

ジャミーを溺愛した。


怒る時はオオカミのように

怒らなきゃ躾にならないと分かっていても、その愛くるしい黒目で見つめられると、

抱き締めたくなる。


いつも、龍斗やジュンに

ちゃんと怒って

躾しなさいって、

怒られていた。


ナオトはそんな僕とジャミーを

暖かい目で見守ってくれていた。



ジャミー、

会いたいよ。

会いたい。。

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