グリーンボーイズ

たむすけ

第1話 乗り越えた先に...

 あの日を境に、私の人生は大きく変わった。忘れもしない2011年、3月11日。私のすべてを、あいつが奪ったんだ。

 あの日の恐怖は今でも覚えている。一瞬何が起こったか分からなかった。その日体調を崩して学校を休んでいた私は、両親が共働きだったので家で一人過ごしていた。

そんなとき、突如大きな揺れが襲った。

 「何っ?」

 一瞬何が起こったか分からなかったが、ただ事ではないことはすぐに理解できた。後に数分ほど大きな揺れが東北地方を襲ったことを知ったが、数時間の長さに感じられるほどのものだった。あれほどの恐怖は感じたことはない。

 とりあえず机の下に隠れて身を守った私は、そのときどうすればいいのか分からず混乱していた。

 「どうしよう...逃げるべきかな?それとも家に?」

 訳も分からずうずくまっていると、遠くの方から声が聞こえた。誰かがいるのは確かだ。散らかったリビングからガラスを踏まないように外に出た。

 やっとの思いで外に出ると、近所に住んでるおじさんが私を見つけてくれた。

 「大丈夫か?けがは?」

そういって毛布を掛けてくれたおじさんの顔は今でも覚えている。

 「何が起こったの?」

 「地震だよ。」

 「地震?」

 「早く逃げなきゃ。もうすぐ...」

 「もうすぐ?」

 「もうすぐ...津波が来る!」

 おじさんの言ったことは的中した。私たちは近くの山まで避難した。ずいぶん高いところまで来て振り返ると、私は目を疑った。

 私の家が、いつも遊んでいる公園が、私の育った町が、津波にのまれていく。ありとあらゆるもの潰し、壊し、飲み込んでいく...私がこの町で刻んできた思い出までも。

 -お父さん、お母さん、みんな...-

 そんな光景を黙って見るしかなかった。


 その日は体育館で過ごした。

 お父さん、お母さんは無事かな?、みんなは逃げれたのかな?、明日からどうすればいいんだろう?、そんなことしか考えられなかった。凍えるように寒い夜だったが、一向に眠れなかった。

 それから両親の訃報を聞いたのは、しばらくしてからだった。私は最初、何が起こったのか、現実を受け止められなかった。だが、時間が経つにつれて頬を涙がつたっていくのを感じる。私はその場でうずくまり、声を上げて泣いた。

 その津波は私の両親だけでなく、親友も、初恋の人も奪っていった。そのときの私は人生で一番絶望してたに違いない。自ら命を絶とうかとすら考えたこともあった。

 「みんな。なんで私だけおいていくの?お願いだから出てきてよ。出てきて、またいつもみたいに笑ってよ。お願いだから...」

 そんないつもは、もう二度と戻ってこない。あの時ほど枯れるほど泣いたことはない。

 そんなとき、被災地に非常食がまわってきた。このときは多くのカップ麺が、私達のもとに届いた。そんな中で私のところにきたのは、マルちゃんの緑のたぬきだった。よく家族で食べてたやつだ。そう思うと涙が止まらなくなってきた。

 ふとカップ麺の蓋に目をやると、何かメッセージが書かれていた。にじんでよく見えなかったので、涙を拭いその文字に目をやった。

 『負けないで!私たちがそばにいる!一人じゃないよ!』

 この言葉に救われた。私を絶望から救ってくれた。たったこれだけの文章でも、そのとき私の気持ちは軽くなり、勇気が湧いた。

 「そうだ、負けるもんか!」

 その日の緑のたぬきの味は、一生忘れることはないだろう。出汁は私の心を温め、麺をすすると生きてる実感が湧いてきた。

 そして、緑のたぬきと同じくらい私を救ってくれたものがある。GreeeenのGreen Boysである。Greeeenが被災地にいる私たちを勇気づけるために作曲してくれたものだ。その歌詞一つ一つが私たちの心に響き、私たちを支えてくれた。

 ほかにも世界中から私たちに励ましのエールが来たが、この二つほど私を救ってくれたものはない。これらがなければ、今の私はなかった。

-一人じゃない、生きるんだ!-


 あれから11年も経った。あの時の傷は癒え、今わたしもみんなもコロナウイルスと戦っている。

 でも忘れないで!

 私たちは何度でも立ち上がれる。何度でも挑めばいい。だから今の状況に絶望しないで。今度は私たちが、皆に勇気を贈る番だから!

 私たちはいつだって、走り出すことが出来るんだから!


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グリーンボーイズ たむすけ @kf0044956

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