【5話 生存者】

 ユキは寝転がっている人間やアンドロイド達の横を通っていく。


 そして、ユキの遠くの正面には小さいけれど人影が二つ増えていた。


(ん、ん? ん!? 誰かいる!? しかも、歩いてる! 今の状況について話を聞きに行かなきゃ!)


 ユキは微笑み、手を振りながら人影に向かって走り出す。


「すいませーん! すいませーん!!!」


 二つの人影はユキの呼びかけに反応することなく、変わらない速度で歩き続ける。


 そして、二つの人影を見つめながらこわばった顔を浮かべるユキ。


(あれ? 反応してくれないな。いや、うん……こんな状況じゃまともな人なんて居ないだろうし仕方ないよね)


 ユキは硬い笑顔を作りながら二つの人影に駆け寄っていく。


「あの、すいません! オレ、さっきまで間抜けにもぐっすり寝ちゃってて。今ここら辺で何が起きてるのかさっぱり分からなくて」


 二人組のうちの一人は人間の男性で二十代なかばに見える容姿で、身長は百七十センチメートル程をしている。黒い髪は短めに整えられていて清潔さがあった。目尻は僅かに吊り上がっていて黒い服装で身を包んでいる。


 もう一体は二十代前半に見える美しい容姿のアンドロイドで、約百六十センチメートルの全長をしていた。黒い前髪を眉の上まで垂らし、後ろ髪は肩まで伸ばしている。白と黒が組み合わさった清楚な制服を着ていて、目尻は少し垂れていた。


 そして、黒服男性はかわいた笑みを浮かべる。


「死体、それに、残骸! 綺麗な道だなぁ……お前もそう思うだろ?」


「えっ!? これのど――」


 女性型アンドロイドが無表情のまま会話に割り込む。


「ゴロウ様、初対面の人にいきなり物騒な話は止めましょう」


 ゴロウと呼ばれた黒服男性は口の端を上げる。


「チェルシー、お前も素直になれよ。お前だってこの光景が美しいとは思わないか? あぁっ!?」


 チェルシーと呼ばれた女性型アンドロイドは眉尻を下げながら首を横に振る。


「ワタシには理解することはできません。けれど、異常な光景なのは理解できます」


「そうだろ? チェルシーも分かってくれるか!」


 眉尻を上げながらユキに人差し指を向けるゴロウ。


「それで、お前は何で理解できないんだ、あぁ!? 脳みそ詰まってるのか!? おい! お前の頭は大丈夫なのか!? 大丈夫なのかぁっ!」


 ゴロウはこわばった顔をしながらユキの両肩を強く掴む。


 一方、顔をしかめさせながら息を漏らすユキ。


(いたっ! 強いよ!)


 ユキは硬い笑みを作りながら呟く。


「オレは正常です! お兄さん落ち着きましょう! 落ち着いて話をしませんか!?」


「落ち着くのはお前の方だ!」


 そして、ゴロウは額をユキの額に勢いよくぶつける。


「この美しい光景を理解しろぉ!」


「ふぉあっぐ!」


 ユキは両目を閉じながら勢いよく後ずさった。

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