第1章・Knife of the blood

第1話・繋がれた2人の異能者

 あれから何時間か経った後、ハルは学生服姿のまま、ベットの上で目を覚ました。左手首には鎖が切れた手錠のようなモノが嵌められており、見慣れない天井を見ても、寝起きの頭では理解が追い付かないハルだったが、頑張って最後のにあったことを思い出そうと頭を働かせる。


(えーっと、ここはどこなのかな? どう考えてもアパートの一室だよな? 確か昨日帰る前に異能風紀委員の彩香って人と知り合って・・・・・・そしたら中間世界に引きずり込まれて異形とかいう化け物と素手ゴロファイトして・・・・・・ぶっ飛ばされた際に呪物飲み込んじゃって・・・・・・)


 そこまで思い出したハルは、ふと視線を上げると、自分の目の前に袖のついていない白の巫女服のようなものを来た身長150cmくらいの肩まで伸びた銀髪ロングヘアの幼女がおり、今の現状に困惑しているハルを見て、ニヤッと笑みを浮かべる。


 目鼻立ちが整っており、見た感じ歳は14かそれ以下に見えるが、どこか妖艶な雰囲気を感じるその幼女は、ハルに向かってこう言った。


「ワレの魂をその身に宿して平気でいられるとは・・・・・・お主は本当に人の子か?」


 そんな風に尋ねてくる幼女を見て、ハルはようやく思い出すことができた。


「お前こそ何者だよ! あの時、俺の体を勝手に動かしたからビックリしたぞ」


 そう、この幼女はハルがあの呪物を飲み込んでから見えるようになって、2体の異形をえげつないスキルで始末した張本人なのだ!


 幼女は左手を腰に当て、右手を顎に当てて何かを考えるような仕草をしてから答えた。


「そうじゃのう・・・・・・昔の名前は捨ててしまったからな。お主の記憶から見つけた名前を名乗るとしよう。ワレの名前は『シュタイン』・・・・・・お主が飲み込んだ魔道具の中にいた者じゃ」


 そう名乗ったシュタインに対して、ハルは「ちょっと待て! 俺の記憶だと? ふざけんな! プライベートの侵害だ!」などと喚いていると、部屋の扉がノックもされずにガチャッと開いて黒のタンクトップと赤のバスパン姿の彩香が入ってきた。


「ひとりで何を騒いでいるんだい? まだ幻覚が見えるのかな?」


 ハルは彩香の姿を見て「彩香さん!」と驚きながらも、自分の今の状況を尋ねることにした。


「ここはいったいどこですか? 確か俺、彩香さんにスタンガンで撃たれて・・・・・・」


 彩香はハルがそこまで言ったところで、彩香は「とりあえず夕飯でも食べながら話すとしよう」と言って部屋を出ていき、ハルは自身の右隣にいるシュタインをチラッと見て、彩香にはシュタインの姿が見えていないことに困惑しながらも、彩香のところへ向かった。


 彩香がいたのはアパートのリビングで、黄緑のカーペットが敷かれた床にクッションを敷いて黒のちゃぶ台の前に座っていた。


 ちゃぶ台の上にはファーストフード店で買ったハンバーガーなどが入った紙袋が置かれており「まあ、座りたまえ」と彩香は自身の向かい側においてある白のクッションを指す。


 ハルは彩香に「じゃあ、失礼します」と言って座ると、彩香は「そんなにかしこまらなくていいよ。状況が状況なだけに僕は君をテーザーガンで撃ったんだから・・・・・・」と申し訳なさそうな顔で言って詳しい事情を話してくれた。


「まあ、どうして君が僕と一緒にアパートの一室にいるのかと言うところから話そう・・・・・・君は【SSSレート危険異能者】に登録され【特殊監視】をつけることになった」


 彩香のいきなりのとんでもワードにハルは「待って・・・・・・理解が追い付かない」と右手を前に出してストップをかける。


「今言った【SSSレート危険異能者】ってなに? 無能者の俺にも解かりやすく説明プリーズ」


 動揺していながらも平静を保とうとしているハルに彩香は順を追って説明した。


「要約すると、とても害悪な異能者と言うことだよ。大概はとてつもない異能力を持つ犯罪者にしか付かないが、君の場合は飲み込んでしまった呪物によって得た力がそれほど危険だと判断されたんだ」


 それを言われたハルは、自身の右隣のカーペットの上でごろごろしているシュタインを見て「ちなみになんですけど、俺の右隣でゴロゴロしている銀髪の幼女って彩香さんには見えてないんですよね?」と尋ねると、彩香は首を伸ばしてハルの右隣を覗き込むが、そこには誰もいない。


「・・・・・・呪物の副作用かもしれないね。僕が見た限りでは君の隣には誰もいないよ?」


 そして、彩香は「さっきの話の続きだけど・・・・・・」と切り出して、幻覚が見えて精神がヤバイことになっている自分に頭を抱えているハルに、残りの説明を続けた。


「師団は君の殺処分を命じてきたけど、知り合いが協力してくれたおかげでそれを止めることができた。でも、君が【危険異能者】であることには変わらないから、一定期間の特殊監視処分にはなったけどね」


 彩香はそう言って、ハルに自身の左手首についているハルと同じ鎖が切れた手錠のようなモノを見せる。


「今回の処置のために、僕と君が左手首につけている手錠の片割れ・・・・・・連合が作った魔道具「シナー・チェイン」これに繋がれた2人の内、片方が死ぬともう片方も死ぬという魔道具だ。つまり、君が暴走して僕を殺しても君は死ぬし、仮に君が脱走して暴走しても、僕を殺せば君も死ぬ」


 彩香は「つまるところ、僕らは運命共同体だ」と彩香はどこか恥ずかしそうな顔でハルに言って更にはこう言った。


「これから僕らは監視期間をここで過ごす。学校の登下校も一緒だ。僕のことは呼び捨てで構わないし、僕と話すときは敬語を使わなくてもいい」


 どこか嬉しそうな顔でそう言ってフライドポテトをつまみ始めた彩香に、ハルは「階段から落ちた時に頭でも打ったか? 核爆弾になっちまった俺を自分の命を懸けてまで助ける理由なんてないだろ?」と疑問の言葉を口に出す。


 そんなハルに対して、彩香はちゃぶ台に身を乗り出して、ズイッとハルに急接近した。お互いの顔がぶつかりそうな距離まで近づける。


ハルは突然のことに焦るが、彩香は日本人にはいないはずの黄金のような金眼でハルの目を真っ直ぐ見て、こう言った。


「君は僕にこう言ったね? 他人のために平気で自分の命を危険に晒す奴が嫌いだと・・・・・・」

 彩香の質問に覚えがあったハルは「言ったな・・・・・・」と、静かに答えると彩香は、なぜ自分の命を懸けてまでハルを助けようとしていた理由を話した。


「こんなことになるまで、君と僕はお互いの存在も知らない他人だった・・・・・・でも、僕のことを自身の身を挺してまで助けてくれた君は、僕にとって他人ではなく恩人だ! 僕には君から受けた恩を返す義務がある」


 彩香にそう言われたハルは「・・・・・・その金眼ってカラコン?」と話題を逸らすように彩香に尋ねると、額に青筋が立った彩香は右手でハルの脳天にガスッと固い音を立てて、空手チョップを打ち込んだ。


「話を逸らす上に失礼なことを言うな君は! 僕が金眼なのは魔祓い師の異能力が原因だ!」


 脳天からプシューと煙を上げながら倒れているハルに、彩香はそう言いながらハンバーガーを頬張る。


「ほう、この娘は魔祓い師なのか? 金眼……魔祓い師の中にはこう言った者もいると聞くが・・・・・・」


 シュタインはそう言いながらハンバーガーを頬張っている彩香の目を正面からマジマジとみているが、彩香にはシュタインの姿が見えていないのか? 平然とハンバーガーにかじりつく。


「なんでシュタインのことを俺しか認識できないんだ・・・・・・」


ハルは体を起こしながらそう言うと、彩香は「シュタイン?」と聞き返してきた。


「俺にしか見えない銀髪の幼女・・・・・・巫女みたいな服を着てる」


 そんなことを言うハルに彩香は「もしかすると、元々の持ち主の残留思念が幻覚を引き起こしているのかもしれないね」と幻覚の原因を推察する。


「治るんなら早く治って欲しいな・・・・・・俺のことを人間じゃないみたいなことを言うし」


 ハルはそう落胆しながらハンバーガーにかじりついた。


「それに関しては僕も思うところがある。悠斗君・・・・・・君の親族に異能者はいないのかい?」


 彩香にそう尋ねられた悠斗は「ハルって呼んでください」と言ってからカップのストローに口をつけて中の飲み物を飲んでいる彩香に、自身の家系を明かした。


「お袋がこの街・・・・・・霧雨市・市警察署の署長なんだけど……」


 開幕早々の爆弾発言に驚いた彩香は、飲み物が変なところに入って「ブフォッ!?」と吹いてしまった。


「ゴホッ! ゴホッ! そんな!?……君の名字は「青音」だろう? 署長の名字は「柳本」のはずだ!」


 咳き込みながら驚きの声を上げる彩香に、ハルは事情を説明した。


「進路で「俺は弁護士になりたい」と言ったら反対されて・・・・・・大喧嘩の末に俺はその日を境に父親の姓を名乗るようになった。まあ、姉さんが来年から霧雨署勤務だし、後釜には困らないだろ」


 それを聞いた彩香は「そんなことが・・・・・・」と驚きながら、疑問を口に出す。


「ん? でも署長は無能者のはず、父親が異能者なのかい?」


 その質問に対して、ハルは少し表情を曇らせると、彩香は踏み込んではいけないところに踏み込んだと思い、気まずくなるが、ハルは質問に答えた。


「解らない・・・・・・俺の親父は俺より2つ年下の妹が生まれて数ヶ月後に蒸発した。お袋に何度かどんな人だったのか聞いてはみたが、異能力のような不思議な力があると言うようなことはなかった」


 彩香は「そうか・・・・・・」と要領を得られないことに落胆しながらも、思いもよらなかったハルの家系について再び話題に上げた。


「それにしても、君が署長の息子だったとはね・・・・・・校内では権力のある親を持つ生徒は目立つものだから気づかなかったよ」


 ここでハルは自分だけ根掘り葉掘り聞かれているようで、フェアではないと感じたハルは「彩香さんはどうして異能風紀委員に入ったんですか?」と尋ねると、彩香は「さん付けしなくていい」と言ってから答える。


「両親の代で魔祓い師の力が途切れてしまってね・・・・・・そんな中、僕は変異種の力に目覚めることができたから異能風紀委員になったんだ。師団に所属していた祖父は危険なことに足を突っ込んで欲しくないとかで反対してきたけど、自分より年下の異能者の子たちのためにも「異能力を持つ者としてこの子たちの手本になりたい」って言ったら了承してくれたんだ」


次回・第2話「彩香の思い」

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