第40話 皇子の心の支え(変な意味ではない) 2


 扉の先の薄暗い部屋の中には、大きな情報晶がありダンジョンの情報が見られる。

 画面に並ぶたくさんの名前の中から、レティシア・ブルーメ・エーデルシュタインという文字を見つけた。

 そのとなりにはセゴレーヌ・サイネ・パストリアという名前もある。

 名前の長い二人組は見つけやすいというのもあるが、人が少ない下層にいるから目立つのだ。


 昨日見た時は25階層の真ん中より少し左にいたが――――今日も25階層にいる。かなり進んだようで、階層主エリアの近くまで進んできていた。


 ダンジョンの攻略の仕方は、ざっくり分けると滞在型と進行型とある。

 滞在型は、魔法の相性がよかったり、欲しいドロップ品があったり、鍛錬をするのに強さがちょうどいいダンジョンクリーチャーがいたりなどの理由で、特定の階層で腰を据えて狩りをするかたち。


 対して進行型は、攻略することが目的であったり、階層主が落とすレアドロップ狙いであったりと、どんどん深くへ潜っていくかたちだ。

 レティシアが同じ場所で留まり狩っているところを見たことがないので、多分進行型だと思われる。


(今日は階層主エリアまでたどり着きそうだ。戦っているところが見られるかもしれない)


 レティシアの戦っている姿は素敵だ。学園で普通に過ごしていた時も美しかったが、戦っている時はいきいきとしてもっと素敵だった。


 この情報晶で見るようになってから、ベルナールはすっかりレティシアのファンになってしまった。

 学園でできた平民の友人が言うところの“推し”というやつである。

 舞台のように生で戦いを見られるなら、チップをザブザブ投げ入れたい


 そんなことを思い他の階層の戦いを見ながら待っていると、しばらくして“25”という数字が光った。


(来た――――――――!!)


 すぐさま数字に触れる。

 画面に白が舞う部屋が映った。

 吹雪の向こうからローブのフードを被った二人組が入ってきた。

 手に持っている得物でどちらがどちらかわかる。小さい短杖を持つのがレティシアで、背ほどの大きな杖を持つのがセゴレーヌだ。


 二人を守るように四体の魔獣たちが取り囲んでいる。

 雪でレティシアの姿がよく見えないのが残念なところだが仕方がない。


 画面に背を向け、ゆらゆらとしながら空中に浮いているのは白い巨鳥だった。大きな翼がはばたくたびに雪と風が生まれている。

 ベルナールの頭に魔物学の授業で習った鳥型の魔物が思い浮かぶ。吹雪の空に現れるというウェンディゴ吹雪鳥だ。魔獣ではなく魔物である。

 魔物学の授業でヒラピッヒ王国の雪山に現れる難敵だと教わっていた。


 まずレティシアたちの誰かが防御結界を展開したようだ。

 2人を中心に半球型に吹雪が避けていく。レティシアが杖を構え、その外側で魔獣たちがくるりくるりと回った。


(やっぱり魔獣かわいい。ビッグフロッグってあんなに大きいのに身軽なんだな。俺も連れて歩いてみたいかも……。まずは野生の子を飼い慣らすところからするのか?)


 想像するとなかなか大変そうだ。

 いつかレティシアと話をすることができたら、話を聞いてみたいところだった。


 前衛の火山トカゲが吐いた火球がウェンディゴに当たった。ウェンディゴは一瞬存在が薄くなり、内包していた魔核を見せた。だが、また白が包み込み今度は巨人の姿に変わった。


(――――こんなふうに変わるのか!! 教科書には巨人や鹿になるとも書かれていたけど、実際に見てみないとわからないものだな……)


 吹雪は小さくなったが、巨人が腕を上げて襲い掛かっていった。

 ベルナールはハラハラと手に汗を握りしめる。

 二人の直前で土壁が展開され、ウェンディゴは弾かれた。

 火山トカゲがもう一度火球を飛ばした。

 このタイミングで振られたのは短杖。レティシアだ。

 火球は火炎の柱となり、白い巨人を襲った。

 セゴレーヌが杖を振り、放った光の矢が露出していた魔核を貫いた。

 ウェンディゴは消滅し、吹雪が止んだ。


(――――――――かっこいい…………。2人とも、なんてかっこいいんだ…………)


 よく見えるようになった画面の中で、2人がフードを外した。ドロップ品の宝箱を見て喜んでいるらしい。ぱっと周りが明るく輝くようだった。

 箱を開けたレティシアが大喜びし、うしろで見ていたセゴレーヌが苦笑している。


(ああ……いいな……俺もいっしょにダンジョン潜ってみたかった…………)


 微笑ましい様子を見ながら、ベルナールはさみしいような切ないような気持になった。


「――――ずっと見ていられればいいのに…………」


『すとーかーかな?』『すとーかーかも?』


「っ!!」


 変な気持ちは全くなかったけれども、聞きようによっては2人を付け回して四六時中見ていたいという発言そのものだ。


「うわ――――――っ!!!!」


(そんなつもりでは! そんなつもりではなかった――――!!)


 ベルナールは扉の向こうへ駆け出した。

 そして己を戒めるべくすごい勢いで、剣の素振りを始めるのだった。










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婚約破棄追放されたのでダンジョンを超S級難易度にしてしまいましたの! くすだま琴 @kusudama

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