第10話 日常……には戻ってない!?

 現実の恋愛に対して夢を見なくなったのはいつからだっただろうか?

 容姿や学力、運動の出来る出来ない、そして財力。

 大人に近付くにつれて人間の魅力がどんな風に決まるのかが分かり始めた。

 ただ足が早いからってだけでモテる小学生時代の方がシンプルで良いのかもしれない。

 でも中学に上がってモテる人間がどんな人間なのか、そしてクラス内での自分の立ち位置などを知っていくうちに俺はラブコメ作品が好きでも自分が恋愛をすることが怖くなってしまった。


「さて、帰ってこのまえ買ったギャルゲーしよっと」


「またあの女がいっぱい出てくるゲームか? 絶対に格ゲーの方が面白いだろ?」


「井岡もやってみれば分かるって! 恋をする女の子は可愛いんだぞ!」


「二次元の女な。少しは現実の恋愛にも目を向けて見ろよ」


「お前からそんな事は言われたくはない」


「俺は良いんだよ」


 井岡も容姿は悪くない。

 だから結構モテたりするのだが、今まで彼女を作ったことは無い。

 井岡はコミュ力もあり運動も出来るので俺なんかとつるんでいなければカースト上位層の人間のはずなのだが、あいつは俺以外の奴と仲良くなろうとしない。


「んな事より俺を待たせたんだ、なんか奢れ」


「ふざけんな! 俺は今金欠なんだよ!」


「知るか、俺の貴重な放課後の時間を奪ったんだ、コンビニの唐揚げで許してやるよ」


「バイトしてるんだから自分で買えよな」





 堅山を振った日の翌日。

 俺はいつも通り学校に登校した。

 堅山の事が気になったが堅山はいつも通り登校してカースト上位層の連中と話をしていた。

 良かった、やはり気にしてないみたいだ。


「ま、これが本来のあるべき姿だよな」


「なんだよ急に?」


「別になんでもないって、それより次って授業なんだっけ?」


 これでまたいつも通りの日常に戻る。

 堅山さんだって俺のことなんて直ぐ忘れるだろう。

 俺はそう思っていた。

 思っていたの……だが……。


「……あ、あの……」


「何よ?」


「何か用ですか?」


「……は、話しあるから……一緒帰ろ……」


「え?」


 今日は井岡がバイトで先に帰ってしまった。

 俺は相方が居ないので早々と帰ろうとしたのだが、早めに教室を出た俺よりも早く堅山さんが俺を昇降口で待っていた。

 

「べ、別に良いけど……いつも一緒の奴らと帰んなくて良いの?」


「大丈夫、今日は先に帰るって言ってきたから、ほら早く行こ」


「う、うん」


 いったいなんだというんだ?

 もしかして!


『私を振るなんて良い度胸ね! やっておしまい!』


『『『おうっ!!』』』


『ひぃぃぃぃ!!』


 って感じでがたいの良い男たちからリンチにされるんじゃないだろうな?

 女の復讐って結構エグイらしいし……。


「ねぇ」


 いや、もしかしたらそれだけじゃなくて、裸に向かれて晒しものにされるかも……ヤバイ逃げたいなぁ……。


「ねぇってば!」


「ひっ! ごめんなさい!!」


「何謝ってるの?」


「え? あぁ、いや……」


 しまった完全に自分の世界に入ってしまっていた。

 気が付けば俺と堅山は学校を後にし駅前に来ていた。

 俺も堅山も電車通学で帰り道はほぼ一緒。

 駅に来る間も堅山目当ての男達の視線が凄かったなぁ……これから電車の中でもその視線に晒されるのか……。


「昨日はごめん、てかその前のドッキリの時から……私石嶋に酷いことばっかり……」


「もう良いよ。ちゃんと謝って貰ったし」


「告白断ったのって……やっぱり私の事が嫌いだから?」


「え? あぁいや……そう言う訳じゃないけど……」


「じゃぁなんで!?」


「え、えっと……」


 夕方の駅のホーム、同じ学校の生徒も多い中で彼女は真っすぐな視線を俺に向けてそう尋ねてきた。


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