第12話

 水上拠点へと帰還した三人は、拠点内の保存食とシカシシの焼き肉を食べながら情報交換を行っていた。


「まずは俺からだな。つっても、ほとんど逃げ回ってたから話す事なんてねえけど」


 余程腹が減っていたのか、フレッドは喋りもほどほどにムシャムシャと肉を頬張っていた。よく見ると目の下の隈も酷い。寝ずに逃げ回っていたのかもしれない。


「密林の中はそんなに魔物がいるのか?」


「いるなんてもんじゃねえよ。あっちを見てもこっちを見ても魔物だらけだ。俺は早い段階で選択を誤ったと思ってお前らの後を追ったんだぜ? なのに全然痕跡が無えもんだから焦っちまったよ」


「ドラゴンには遭遇しなかった?」


「運がいい事にな。遠目にどっかに向かって飛んでるのを見たが、ここからは結構離れた場所だった。後、連中には犬みたいに縄張りがあるって事がわかった」


「なるほど。すると一時キャンプを張った場所はあの三つ首の犬の縄張りって事か」


「たぶんな。お前らこそ、こんな拠点どうやって見つけたんだよ。つーかこれ地球側の技術だろ? 一体どうなってんだよ」


 ユウとマリアは互いの顔を見合わせた。何から説明するか迷ったのだ。この水上拠点に関しては何から何まで不確定であり、全て推測の域を出ない。そんな不確実な情報を疲れ切ったフレッドに伝えるものか迷った。それに、何より懸念している事がある。


「どうしたよ? 話しづらい事なのか?」


 仮にユウの推測が当たっていれば、フレッドが姐さんと慕うカスミの処遇に関しても触れる事になる。そうなれば、激情型の彼の事だ。今すぐにでも地球に帰ると言いかねない。


 ユウは暫しの間悩んだが、結局全てを話す事にした。今は仲間が三人しかない。そんな状況で一人だけ仲間外れを作ってしまえば、考えたくないがそれが原因で不和が発生してしまうかもしれない。万が一そうなれば、それは上官であるユウ自身の責任だ。ユウは責任を全て被る覚悟で話し始めた。


「フレッド、落ち着いて聞いてほしい」

「……なんだよ、そんな改まって」


「この施設は、見てわかる通り昨日今日建てられたものじゃない。そして、今食べてる保存食はここに保存されてたものなんだけど、製造元がミンシャンだ。ミンシャンが保存食を作ってたのは第三次大戦の頃だ」


「それがどうしたんだよ?」

「思い出せ。俺達の依頼主は誰だった?」

「んなの、アウスレーゼだろ?」


「そう。それが問題だ。この世界には、俺達が来るずっと前に訪れた者がいる。そして、何らかのトラブルでこの施設を封鎖して地球に帰っていったんだ。もしその人達がアウスレーゼ以外の四大企業だったら? 俺達は知らずの内に四大企業同士の争いに巻き込まれているのかもしれない」


「おいおい、ユウらしくもない。ちょっと考えればわかる事だろ? 四大企業がバトるにしちゃあ隊の規模が小さすぎる」


「そこが問題だ。俺達は難癖をつけるための捨て石にされた可能性がある」


 そこまで話して、フレッドはようやく事の深刻さを理解したようだった。それまでクチャクチャとシカシシの焼き肉を食べていた彼は、水筒の水で口の中のものを飲み込んだ。


「……こうしちゃいられねえ。今すぐ姐さんを助けに行くぞ」


 立ち上がり、今すぐにでも密林に逆戻りしようとするフレッドをユウは「落ち着け」と言って制した。


「これは全部状況からの推測に過ぎない。真相はただ単に俺達が不幸なトラブルに見舞われただけで、今こうしている間にも救援部隊が編成されてるかもしれない」


「そんなの、全部希望的観測だろうが! 捨て石の末路はお前だって知ってるだろうに」


「知ってるさ。俺は国家解体戦争に企業側で参加してたんだぞ。痛いほど知ってる」


「なら! なんでそんな落ち着いていられるんだよ! ただでさえ姐さんは負傷してたんだぞ? ボブだって、聞くもん聞いたら処分されるに決まってる!」


「わかってる。わかった上で、今後どうするかを話し合いたいと俺は思ってるんだ。もちろん、マリアも含めてだ。だから座って話しを聞け……命令だ」


「チッ……了解」


 本当は命令だなんて言葉は使いたくなかった。だが、頭に血が上ってしまっている彼を従わせるにはこの方法しか思いつかなかった。


「状況を確認するぞ。俺達が地球に帰還するには箱を通る他に方法はない。しかし、先程のフレッドの報告を鑑みるに、箱周辺は炎竜のテリトリーだ。従って、安全無事に箱を通り抜けるには炎竜を排除する必要がある。ここまではいいな?」


「ああ、問題はあのクソトカゲをどうやって退治するかだ。無反動砲でも致命傷にならねえような相手だぞ。三人じゃ土台無理な話だ」


「あたしなら対象の飛行能力を奪った後に戦車かなんかの迫撃砲でこてんぱんに撃つ方法を提案するけどねぇ」


「……現実的じゃないな。だけど、飛行能力を奪うという点に限って言えば、無反動砲を撃ちまくればいけると思う」


「どこにそれだけの無反動砲があるってんだよ?」

「ああ、それなんだけど、実はここ軍事拠点っぽくてさ。武器庫に腐るほどあった」


「マジかよ。だが、射手が足りねえぞ。三人じゃどうあがいても黒焦げになるのがオチだ」


「現地民さらってきて片っ端から訓練させてみるぅ?」


「そんな人買いみたいな真似が出来るか……と言いたいところだけど、現実的なところだとそうなるのかな。けど、無闇に人をさらうのはナンセンスだ。それが原因で異世界開発事業に支障をきたして賠償金なんて話になったら泣くに泣けない」


「お前まだそんな事言ってるのかよ。捨て石だって言ったのはユウじゃねえか」


「可能性だよ。俺達がただのトラブルに見舞われただけかもしれないってさっき言っただろ? 常に万が一を考えて行動しないと」


 フレッドは呆れた顔をして「そーですかい」と言った。実際、ユウ自身もそれが希望的観測である事はわかっていた。推測が当たっているにせよ外れているにせよ、何らかの策謀に巻き込まれているのは状況的に明白だ。


(こんな時、カスミさんならどんな判断を下すのかな……)


 そう思わずにはいられなかった。上官という立場からしょうがなく二人に指示を出しているが、本来はガラじゃない。元々少年兵上がりのユウは、他者に命令されて動く方が性に合っていた。


「んで? 結局どうすんだ。俺も頭が冷えたからユウの指示に従うぜ」


 悩んだ末、ユウが下した決断は現地に留まり情報収集に努める事だった。そうなれば、必然現地民との交流が求められる。ユウは先程獲得した魔石を使用して、妖精達に川を渡河するための船舶設備を解放させる事にした。


 やはりというか、妖精達がジーコロジーコロ作業する姿を見たフレッドは口をあんぐりと開けて自身の正気を疑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る