論じるウサギ

第1話

　今日が終わる頃、２匹の白ウサギが、楽しそうに論じていました。

「人生の転換って失敗からだと思わないかい？」

「失敗が成功を産むって言いたいんだろう？」

「そうだね。失敗したから次があった。しかし、失敗した事実は永遠に変わらない。その失敗にしがみついてしまっていたら、どうだろう。」

「ははは。そりゃ、変われないじゃないか！転換になってないね。失敗から学ばないと。」

「それが、変わるんだよ。失敗にしがみつくと、別人のようになるんだ。まぁ、成功とはちょっと違うわけだけど。」

「精神が衰弱するとか、執念深くなるとか。」

「いや、振り切るんだよ。バリアが強くなるみたいに、プロテクターが強化されるのさ。」

「一時的に強くなるとか？」

「そう、一時的にね。」

「面白いね、その転換。僕は仕事の成功が、転換だったよ。引越しとか、結婚もそうだ。」

「じゃあ、成功して、キミは変わったのかい？可視化できる事じゃない。人間としてさ。」

「そうだね。自信とか、視野とか、交渉力とか。昔に比べたらずいぶん成長したよ。」

「本質は変わってないじゃないか。キミはずっと木登りしてた頃と変わらない。」

「そもそも、本質って、変わるものなのかい？」

「僕は、昔、ある物を失って、変わってしまったんだ。だけど、ずいぶん経ってから、またその事を思い出した時、また新たに生まれ変わった。同じ事柄が、二度僕を変えたんだ。ある意味、本質をね。解るかい？」

　見上げると、２匹を照らしていたオリオン座は、いつの間にかか、雲にかかっていました。それをきっかけに、ウサギたちは、お別れを言って寝床へ戻るのでした。