エピローグ

 ――レジサイド本部。

 サベリアス襲撃作戦から帰還して丸一日。

 アラヤは医務室から目を覚ました。周りには誰もおらず、広い医務室でただ一人だった。

 アラヤはベッドから降りて椅子の上に置かれていたレジサイドの制服を手に取り、医務室から出ていく。

 廊下を歩いて行くと、前からソラリスが歩いてきた。


「お、アラヤ。起きたか」

「ソラリス。俺どんくらい寝てた?」

「丸一日ってとこだな」

「結構寝てたんだな……」

「仕方ねぇよ。お前能力の使い過ぎでぶっ倒れてんだから。脳を酷使しすぎだっつーの」

「あの状況じゃ無理してでも使うしかなかったんだろ。同時に力不足も痛感したけどな。正直、シリウスとソラリスがいなかったら死んでたわ」

「ま、それはアタシも同じ気持ちだけどな。とりあえず死ななかったアタシたちの勝ちだ。んでもって、力付けるのは後にして今は休んどけ。五周後くらいにルーナからの全体会議があるからそれまで自由に過ごしとくんだな」

「ソラリスはどうするんだ?」

「アタシはとりあえず飯でも食ってくるよ。ミューラン達もそこにいるだろうしな」

「食堂か……」

「お前はまずルーナとハミールに顔を見せてこい。二人とも心配してたし、ハミールなんか倒れたお前を見て泣きわめいてたぞ」

「相変わらず通信とリアルで違いすぎるなハミールは」


 慣れないギャップに思わず笑みが零れる二人。そしてソラリスが後ろ向きで手を振りながら去っていった。


「ルーナ達は執務室にいるよ」

「分かった」


 アラヤもルーナ達に顔を見せる為に執務室へと足を進める。道中、新入りっぽい人達がアラヤに会釈をしていた。


「(俺も新入りなんだけどな……)」


 苦笑いを浮かべながら、アラヤは急ぎ足で執務室へと向かっていく。

 執務室は、大広間を抜けて本部の最深部にあった。

 一番奥まで行き、大きな扉の前へと辿り着く。扉の横にあるインターホンを起動し、中にいるかを確認する。


「ルーナ、いるか?」

『アラヤ? 起きたのね! 入って!』


 金属製の扉が音を立てて開く。中は、十四畳程の広さで扉の前には長い机が扉に対して垂直に置いてあり両側には横長のソファがあった。

 そしてアラヤが入ってくると同時に、ルーナが車いすの勢いを借りて飛びついた。


「ちょ、危ないだろ!

「良かった無事で……!」


 涙を流しながらアラヤを抱きしめるルーナ。レジサイドというレジスタンスを纏めるリーダーとはいえ、ここら辺は優しい女性と変わりない。包容力のある母性とカリスマを持った女性。それを改めてアラヤは実感した。


「無事だよルーナ。心配かけたな」

「ほんとよ! レジサイド規則第一条、死ぬのは絶対ダメだからね!」

「なんだその規則……。でも、最高だ」


 ルーナが離れながらぷんぷんと言うと、アラヤも笑顔で言った

 そんな様子をハミールはジト目で見ていた。


「ちょっとお二人さーん。私もいるんですけどー。席外そうかー?」

「あ、いやごめんなさい! そういう意味はないの! ただ心配で!」


 わたわたとルーナが慌ててハミールに弁明する。それを見て、アラヤは笑いながらハミールに近づいて頭を撫でた。


「へ?」

「ハミールもありがとうな。心配してくれたって、ソラリスから聞いたよ」

「うっ!」

「う?」


 ハミールが顔を俯かせ震える。そこにアラヤが覗き込むと、顔を赤らめ涙を浮かべながらハミールが爆発した。


「ほんとだよバーカ! 状況は逐一報告すること! オペレーターは隊員の状況を把握する必要があるんだから! 次、やらかしたらぶち殺すからね!」

「おい、通信時と混ざってんぞ」

「うるさい!」


 騒々しくなる執務室。しかしそこには確かな温かさがある。

 まだ始まったばかりではあるが、アラヤはこれが居場所なんだと確信した。


「(キューラ、クォルル。俺、絶対成し遂げて見せるからな)」


 覚悟を確かなモノにするアラヤ。その様子を見届けたルーナとハミールはお互い顔を向け微笑み合った。

 そして話を切り替える様に、ルーナが顔を引き締める。それに気付いたアラヤもルーナを見据えた。


「では、アラヤ。お疲れのところ悪いんだけど、五周後に重要な全体会議があるの」

「ああ、知ってる。ソラリスから聞いた」

「そこで何があっても取り乱さないでね。私達にとって最も必要で大切な人が来るから?」

「大切な人……? そういえば、ソラリスが前に出資者がいるとかなんとか……。その人?」

「ええ。だからくれぐれも粗相がないように」

「分かった気を付けるよ」


 ――その後、食堂に行きソラリス達と合流したアラヤ。鹵獲した新型ホプリテスをシリウスとミューランのどちらが乗るという話になり、二人による模擬戦が行われることに。

 軍配はシリウスに上がり、新型ホプリテスはシリウスが使用することとなった。ミューランには代わりに、シリウスが設計したホプリテスが与えられることになる。

 そして、時が経ちブリーフィングルームに全メンバーが集められた。


「さて、全員揃いましたね。それではまず先日行ったサベリアス襲撃の成果と被害を報告に入りましょう。――シリウス、前へ」


 呼ばれてシリウスが前に登壇する。


「シリウス、自己紹介を」

「ほーい。――んじゃあ、とりあえず名前はシリウス・フラメル。元貴族で、フラメル家の次男。元帝国軍のホプリテス部隊のエース。帝国兵を虐殺したせいでサベリアスに投獄されてましたっ。あそこから出してくれたことは感謝してるよ。アラヤからキミ達の理念を聞いて面白いと思ったから入った。――僕もこの世界はつまらないと思ってたからね。これからよろしく」


 拍手がまばらに降り注ぐ。

 元貴族であるシリウスに複雑な気持ちがメンバーにはある上、シリウス自体は平和を望んでいないからだ。それでも仲間である以上メンバーは受け入れる。

 そうしてシリウスがアラヤの隣へと移動し、ルーナが口を開く。


「あなた達がシリウスの事を信じられないなら今はそれでも構いません。シリウスは早く信頼を得られるよう心掛けてください」


 はーい、と了承の意を、手を振ることで示すシリウス。

 シリウスについては一旦話を終え、ルーナは次の話へと移っていく。


「――今回の襲撃で得られた成果は、シリウス・フラメル本人、敵の新型ホプリテス一騎、クリュサオル三騎、オートマタの設計図、収容艦一隻ね。ホプリテス部隊はミューランを中心に構成します。部隊に所属したい者はミューランの所に行ってください。テストをして決めます。オートマタはシリウスが主体となって開発。本部と各支部の防衛に回してください」


 呼ばれた者たちが頷く。


「次に、今回の被害について。人的被害は、軽傷者十四人、重傷者九人、死亡者ゼロ。大規模な作戦ながら死亡者が出なかったのは素晴らしい成果です。――みんな本当にお疲れ様」


 ルーナが温かい笑みを浮かべてねぎらいの言葉を述べる。その雰囲気に包まれ、誰もが笑顔を浮かべていた。

 そしてすぐさま顔を引き締め、ルーナは話を戻す


「今回の作戦により、戦力がある程度整いました。これからはヴィンザール帝国に対して本格的に戦いを仕掛けていきます。これから多くの血が流れ、多くの悲しみ憎しみが生み出されるでしょう。しかし、私はどれだけの血を流そうとも歩みを止めるつもりはありません! この世界が変わるまでは! 私は振り返らず進み続けます! 是非、力を貸してください!」


 応っ!! と空気が震えた。

 ある者の士気は向上し、ある者はこれからの戦争に緊張感を増し、ある者は楽しそうな表情を浮かべている。しかし、その誰もが同じ気持ちを抱いていた。

 ――この世界を変える為に。


「それでは、ここでもう一つ重要な報せがあります。レジサイドの出資者にして後ろ盾となってくれている人物。その人物こそ――」


 ルーナが大仰に扉を示す。扉が開くと、そこには誰もが驚愕する人物が立っていた。


「第十八皇女ユリエール・ヴァン・ヴィンザール様です!」


 皇女は荘厳なドレスを身に纏い、凄惨な笑みを以てアラヤ達に宣告した。


「――さぁ、王を弑逆しにいこうではないか」

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Hopeness//Hopeless~明日を望むこの日を糧に~ 睦月稲荷 @KaRaTaChi0112

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