第10話   愛田さんのお部屋の平和は私たちが守ります!

翌日がロングになる日、俺は美似に伝えた。

「明日はロングだから、朝まで帰ってこないよ。アルケゴスには悪いけど、魚はなしだ。」


「…仕方ないわね。」猫のアルケゴスはぶすっとしながら言った。

別に俺はお前の飼い主でもないし、食費を出す義理もないんだぞ。



翌日の午後3時半過ぎ、部屋のチャイムが鳴った。

新聞の勧誘だろうか?ドアの隙間から見てみると、少女二人だった。


俺はドアを開けた。二人の少女が、ぺこりと頭を下げた。


一人は、白を基調にしてちょっとブルーの入った、セーラー服とナース服のミックスのような服を着て、金髪でツインテール、頭の上におだんごを二つ載せている。ヒ―ラーブームだ。美似のグループのリーダーだから、たぶん設定は14歳だろう。

美少女、という言葉がよく似合う感じだ。


もう一人は背が低く、白にところどころ赤い線の入ったひらひらドレスを着ている。ショートカットの髪の毛はピンクで、でも頭の両側を縛っているので、ちょっと猫耳っぽい。目0?が大きくて、可愛らしい顔をしている。小学生と言っても通りそうだ。

可愛らしい少女、という言葉が似合う。


「はじめまして。魔法少女連合 正義の味方本部の本部長、ヒーラーブームです。」

「同じく副本部長の阿野目まさかです。


おお、ついにボスのお出ましか。

「はじめまして。お噂はかねがね。」と俺は適当なことを言う。


ヒーラーブームは言う。

「最近、愛田さんのお部屋に、うちのメンバーがお邪魔しているとのことですが、何か不都合とかお困りのことはありませんか?」ヒーラーブームが聞いてくる。



困ることねえ…まあにぎやかでいいんだけど。


「楽しく過ごさしていただいています。しいて言えば…」

俺や口ごもった。


「しいて言えばなんですか?」まさかが聞いてくる。


「恥ずかしい話ですが、たくさんで毎日来られると、家計にちょっと…」

俺は正直に言った。


来る連中の分の飲み物やおつまみを用意しているので、それなりにかかるのだ。さすがに客に廃棄弁当を出すわけにもいかないからな。


「そうですか…。」ヒーラーブームは言い淀んだ。


「私たちは作品の中で命を与えられているので、物は入手できても、お金はなかなか入手できないのです。」


そうか…じゃあ、ナミの高価なお茶や食器は手に入っても、お金は入手できないのか。


「それでは、私の持っている、幻のゴールドクリスタルはどうですか?これなら換金できると思いますよ。」ヒーラーブームが、いいことを思い出した!という感じで言う。


宝石か…まあ、質入れとか中古買取してもらえるかな。


「だいたい、末端価格で20億円程度だと思います。」


…ありえね~そんなものを売ったら絶対に捕まる。


「…ちょっと無理ですね。」俺はうなだれた。


「いいこと思いつきました。これならお金になります!」

まさかが嬉しそうにいった。


「何ですか?」俺が聞く。

「私のぱんつはどうですか?女子中学生の、あるいは魔法少女のぱんつですよ。お金になりますよね。」

パンツ売るなんて、いつの間に魔法少女がブルセラになったんだ。

え?ブルセラってのも死語?そうかもなあ。


「ダメです。」

俺は言った。


「え~?いいと思うんだけどな。」まさかは不満そうだった。



俺は言う。

「もう気にしないでください。僕はそろそろ行きますから。」


「なら、私たちがお留守番しています。明日の朝まで、愛田さんのお部屋の平和は私たちが守ります!」」


まさかが元気よく言った。

お部屋の平和ねえ…まあいいか。


「じゃあ、お願いします。」

俺は言い、二人を部屋に入れた。


まさかが大きな瓶を持っている。…日本酒の一升瓶のように見えるが。きっと気のせいだろう。


「行ってきます。」俺は部屋を出る。

「行ってらっしゃ~い!」二人はハモっていた。



ロングの日は仕事をセーブしよう、というわけにもいかず、普段のままに仕事をする。夜中はワンオペだ。これは、店長を休ませてあげるためだから、あまり断るのはよくないと思っている。


廃棄弁当はおにぎりとサンドイッチをもらい、またバックヤードで合間を見つけて廃棄の焼肉弁当を食べる。ワンオペでも夜中なら休憩できるのだ。


…肉の弁当を食べるのも久しぶりだな。いつもは魚の味がついたごはんだけだからな。



朝の5時にコーヒーを飲む。これも福利厚生の一環だ。

夜明けのコーヒーを飲むっていうのは、たしか男女の関係を意味するような気がする。


俺にはご縁がなさそうだけどな。最近は魔法少女たちが押しかけてくるので、にぎやかで楽しいからいいかな。



留守番してくれたヒーラーブームとまさかのためにスイーツを二つ買い、部屋に戻った。


ドアを開けると、むわっと臭いがする。甘いような、酸っぱいようなものがいろいろ混じった不快な臭いだ。、


中に入ってみると、キッチンには倒れた死体、ではなく女の子たちがころがっていた。俺のバスタオルやらトレーナーやらを掛けている子もいる。


緑のセーラーナース服の大きな子が大股開きで寝ている。いいのかこれ。まあパンツも緑だからいいのか。


「何だ、これは…」俺は茫然とした。


そのまま中に入ると、居間のほうもひどかった。こたつの横で、まさかがこっちに下半身を向けて大股開きで寝ている。白いお子様パンツが丸見えだ。 よく見ると、日本酒の一升瓶を抱えている。ただし中身はほぼない。


ベッドの上では、セーラーブームが俺のまくらを抱えながら、「タもちゃん大好き。もっと抱きしめて~」などとぶつぶつ言っている。シーツも枕もよだれでべとべとだ。


甘い匂いは日本酒、そして酸っぱい臭いは、予想どおり吐瀉物、ひらたくいえばゲロだ。


俺の座布団がゲロまみれだ。犯人は…明手もむらか、それともクリピュアか。もむらは、赤い服のクリピュアの胸に手を突っ込んだまま倒れている。 その横は、巫女服をはだけさせた赤身レアが何もついていな串を握りしめて倒れている。ちなみに、巫女服の下はサラシを巻いているので、さすがに胸までは見えない。え、残念じゃないよ。中学生のおっぱいなんか見たくもない…とはいわないけど、逮捕されたくはない。


その辺に落ちているのは、フリルのついたタイツみたいなやつだ。脱ぎ癖のある奴でもいるのか?


部屋の隅にもクリピュアが二人で抱き合って寝ている。


何だこれは…ひどいな。ひどすぎて、怒る気にもならない。


ドアのほうから声が聞こえた。

「あら…これはひどいわね。」


いつもの3人というか二人と一匹だ。美似とナミ、それから黒猫のアルケゴスだ。


俺は二人に言う。「さすがに、これはひどいよな。何とかしてくれ。」

もう、怒りを通り越して呆れてしまう。


「まさかの酒好きにはいつも困ってるのよね~。後始末はいつも私たちなんだから。」ナミさんが嫌そうに言った。 美似とアルケゴスもうなずく。


「とにかく、何とかしてくれよ。俺が暮らせない。」俺は言う。


「いっちー、罰としてまさかのパンツ持っていく?代わりにいっちーのボクサーパンツでも履かせておけばいいわよ。」ヒーラーGが言う。


うーん。ちょっと魅力的な提案だ。考え込んでしまう。でもな、もらっても転売はできないだろうな。じゃあ自分で使うか…いや、それは大人としてダメな気がする。でも…



「真剣に考えるんじゃないの!」アルケゴスに猫パンチをくらった。


ヒーラーGとナミは手分けして皆を起こして回る。

そして一人のクリピュアに水を飲ませる。


「さあ、部屋じゅにきらきらクリーンをかけて。」ヒーラーGが言う。


クリピュアの少女は、ステッキを取り出して「きらきらクリーン!」と唱えった。

すると、家の鳴かんがみるみる綺麗になっていく。


ゲロまみれの座布団も、ヒーラーブームのよだれのついた布団や枕なんかも綺麗になった。



「おーい、こっちのも頼む。」l声が聞こえた。

見ると、さっきキッチンに転がっていた子だ。 あ、あれは噂のヒーラーグリーンだな。

そういえば、下着泥棒に蹴りを入れていたのも彼女だ。単なる脳筋と呼ばれているが実際はどうかな。。


「キッチンとトイレをやってくれ。トイレで便器を抱えて寝ている奴がいるんだ。それじゃあたしが使えないから。」」


…自分のためかよ。


「人をひっぺがすのはバカ力のあんたの役割でしょ。」美似が言う。


「掃除してくれることがはっきりしてからでないと、服にゲロがついちまうからな。」悪びれることなくヒーラーグリーンは言う。


トイレから一人ひきずり出し、追加のきらきらクリーンをかけてもらう。


タイツ脱いでたのはたぶんこの子だな。


ついでに風呂場も綺麗にしてもらったし、使われた俺のタオルやシャツなども綺麗にしてもらった。


「こんなもんかしらね。ご迷惑をおかけしましたけど、来たときより綺麗になったからいいでしょう?」ヒーラーGが言う。


「…そういう問題じゃないような気がするが。」

俺は文句を言う。


その後の話し合いで、以下のことが決まった。


1)来るのは月・火・水の深夜(実際は翌日0時過ぎ)だけ。

2)訪問者は、自分の食べ物飲み物は原則自分で持ち込む。ただしアルケゴスは免除。

3)帰るときは綺麗に掃除をしておく。

4)時々、お礼のアイテムを置いていく。


まあ、これで俺の生活も半分平穏にいなる。


「あ、台所のクッキーの缶、見ておいてね。じゃあ、また来週。」

美似はそういって俺に手を振り、皆を引きつれてぞろぞろと帰っていった。


ーーー

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