第5話 魔法少女連合


ナミという黄色いひらひら服の少女は話を始めた。


「魔法少女、というのが何だかわかるかしら?」ナミが聞いてきた。


「うーん。魔法を使う少女、じゃだめなのかな?:俺は答える。


「まあ、もちろん間違いじゃないんだけどね。一般的には、『不思議な力で何らかの問題を解決する少女」という感じね。魔法だから、銃とか大砲をぶっぱなすのは基本的には違うの。まあ、原則としてね。」


例外もあるのか。それじゃ魔法少女じゃなくて大砲少女にしろよ、とか思うんだが。


ナミは続ける。

「じゃあ、次は『少女』ね。少女ってくらいだから、大人じゃない女の子。日常系の場合は小学生とかが多いかな。正義の味方系は、中学生か高校生かな。一番多いのはたぶん中学2年生ってところかしら。


14歳。中二病の年頃で、アニメがまだ好き、と恥ずかしいけど言えなくもない世代ね。

ちなみに、私の出ていた番組『魔法少女まさか★マジか」では、主人公のまさかが14歳ね。」


そういえば、ヒーラーGも14歳って設定だったな。


横からヒーラーGが口を出す。

「私は単独では14歳よ。それで、ヒーラーブームで出ると問題が起こったの。番組が5年間続いたのね。そのために、最初中学2年だった私たちは進級、進学して最後は高校三年生よ。まあ、高校のとこは何となく年齢不肖になってたけどね。」


少女たちが18歳になってしまったのか。もう一年続いたらやっかいだっただろうな。


ナミが続ける。

「だからね、ヒーラーブームの教訓を受けて、その後継番組とも言える『クリピュア』では、毎回メンバーとか設定を変えたのよ。だから、出演者はずっと若いままで居られるの。」


なるほどなあ。出演者が年をとらない設定もあるけどな。名探偵なんたらとかネコ型ロボットの話みたいにね。タ●ちゃんなんかずっとガキだしイク●ちゃんなんかずっとパプーだ。


ナミが続ける。


「というわけで、魔法少女の定義はわかったわね。私たち魔法少女は、今は『魔法少女連合』という業界団体を作っているの。」


業界団体か。なんだか重々しいな。


「魔法少女連合は、3つの部門に分かれてる。私たちが所属する、正義の味方本部と、日常系本部、それから特殊本部。 まあ、最後のは特殊、というかその他ってところね。最初の二つは何となく意味が分かるでしょ?」


そうだな。日常系っていうと普通の世界に一人魔法少女が居て、魔法少女であることがばれないように努力するみたいな話だろうな。正義の味方は文字通りだろう。 特殊系は…


「特殊系、特別系っていうのは要するに『その他』ね。正義じゃなくて魔法少女同士で殺しあうとか、男の魔法少女とか。」


…をい。男は魔法少女じゃないだろうが。


ヒーラーGが笑いながら言う。

「いるのよ。筋肉ムキムキですね毛ボウボウでミニスカートを履いた魔法少女が。」


…ちょっと遠慮しておこう。


「もちろん、かわいい男の娘(こ)もいるのよ。ちなみに、正義の味方本部の本部長はヒーラームーブ。副本部長は私の番組の主人公、まさかね。どっちも番組の知名度で決まっているだけよ。能力は関係ないの。」


ナミがちょっと含むところがある感じでいう。


「そうなのよね。あの色ボケバカが事務作業とか交渉とか出来るわけないものね。」ヒーラーGも辛辣だ。




「あの、二人とも自分の番組の主人公だかリーダーだかに思うところがあるんですか?」

あえて聞いてみた。



「うーん。うちのまさかはね。いい子なんだけど、なかなか動かないのよ。魔法少女にならない魔法少女が主人公ってありなのかしらね。」


ん?意味がよくわからないな。まあいいけど。


「私なんか登場して3回で敵に食べられちゃうのよ。当時『ナミられる』なんて単語すら使われたんだから。もちろん死んでないわ。ちゃんと劇場版でも復活したしね。出番が少ないから必殺技に名前を付けて誤魔化した、なんてことはないんだから!」



なんだか表情が暗くなってきたな。大丈夫かなこの人。


「私たち魔法少女連合は、番組が終わったあとも世のため人のために残っているの。番組の中では敵が居なくなったかもしれないけど、実際には残っているのよ。死んだように見えても、あれは死んだふり。」


え、そうなの?


「私は放送の途中で退場したけど、こうやって今も存在している。同じように、敵もまた生き残っているのよ。そして人に迷惑をかける。 私たちはそれを阻止するために、番組が終わってからも頑張っているのよ。」


魔法少女も大変だなあ。


ヒーラーGが横から口を出す。

「ちなみに、ヒーラーブームが放送されてから、そろそろ25年が経つのよ。その前身とも言える、「コードネームはヒーラーG」が出版されてからは27年ね。私はその間ずっと戦ってきたのよ。」


あれ、当時14歳ってことは今は…あら、フォー?


「一郎くん、そこは考えちゃいけないのよ。私たちは永遠の若さを保っているの。いつも14歳でいいのよ。」


なぜか「田〇ゆかり」、という名前が頭をよぎったが、意味が分からない。

村であって口ではない。もっと意味がわからない。


「14歳なのにお酒を飲んでよかったのかい?」一応聞いてみる。


「それはいいのよ。まさかだって飲んでいるしね。」

それって、あまり理由になっていないような気がするな。


「話を戻すわね。」ナミさんがいう。

ナミさん、という呼び方がなんかしっくりくるな。やっぱり、しっかり者っぽいからかな。


「ついてに、日常系のみんなも、ミッションはあるのよ。一番は、みんなを笑顔にすることよ。不思議な力で町中に夢と笑いを振りまくのよ。」


わかったようなわからないような。まあいいか。


「というわけで、魔法少女連合は、みんなで協力して、番組が終わったあとも頑張っているのよ。実務は、だいたい私と美似ちゃんでやってるのよね。」


俺は聞いてみた。

「実務ってどんなことなの?」


ヒーラーGが答える。

「たとえば、スケジュール調整とか、交渉ごととかね。」


「交渉事って、誰となんの交渉をするの?」不思議に思って俺は聞いてみた。


「それはいろいろよ。乙女の秘密はそのままにしておきましょうね。」

美似、あるいはヒーラーG(仮面をとったらヒーラーゴールド)に誤魔化されてしまった。


横からアルケゴスも口をはさむ。

「ちなみに、私はマスコット枠ね。魔法少女連合に、マスコット部会もあるのよ。魔法少女のお約束みたいなものね。みんなじゃないけど、かなりの魔法少女たちにマスコットがいるわ。ヒーラーブームにはもう一匹いるのよ。」


「へえ。なぜ二匹も必要なの?」どうでもいいと思いつつ聞いてみる。


アルケゴスの目つきが変わった。

「うちのリーダー、ヒーラーブームは、ただの色ボケ馬鹿なの。放っておくと何をやらかすかわからないので、専属で見守っているのよ。」


かなり辛辣だな。


「じゃあ、アルケゴスはなぜヒーラーGとよく一緒にいるんだい?ヒーラーGは結構しっかりしているよね。交渉事の手伝い?」

俺は聞いてみる。


「もちろんそれもあるわ。あとは、美似は見栄っ張りの化粧オタクだけど、基本的に賢いし働きものよ。」


「前半はよけいね。」ヒーラーGが突っ込む。


「他の連中は、やらかす色ボケ馬鹿、賢いけど暗いヤンデレ、肉好きの放火魔、脳筋の総勢四人だからね。付き合いきれないのよ。」

アルケゴスがため息をつく。猫でもため息なんかつくんだなああ。


しかし、他のメンバーもなんだかすごいな。何だよ。肉好きの放火魔って。それ、正義

の味方なのか?


「あ、もちろんどこでも火をつけて回るわけじゃないのよ。場所を選ぶし、必要なら結界だって張る。火の魔法を使うから、それを打ちながらときどき肉を焼いてるのよね、あの子。


果たして正義の味方なんだろうか。 もう一人なんか脳筋の一言で片付けられてるしなあ。


「ナミさんたちにもマスコットはいるの?」俺は何気なく話題を振ってみた。


突然、ナミさんが露骨顔をした。ヒーラーGもちょっと眉をひそめている。


「その話はやめましょう。」ナミさんがいう。どうやら訳ありだな。


「あとのお約束として、たとえば魔法少女はあまりパンツを見せない、っていうのがあるわね。」ナミさんがいう。


「私のスカートは、絶対に中身が見えないようになってるわ。」ヒーラーGが言う。

そうなのか。まあ、まぶしくて見えないしな。


「もちろん例外はあるわ。ストライプパンプキンウィッチーズって女の子たちは、しましまのかぼちゃパンツ見せまくりよ。」 なんか色気はないな。


「最初からペチコートつけてたり、ショートパンツの子もいるわね。よい子たちが心配しないように配慮している感じかな。」

ナミさんが説明する。


「そういえば、魔法少女を好きなのは、大体子供たちなのかな?」俺は聞いてみた。


ヒーラーGが答える。

「番組によるわね。ターゲットをもともと小学生の女の子においていても、なぜか18歳以上の男が多かったりすることもあるしね。まあ、大きなお友達は資金力があるから、グッズが売れるのでそれはそれでありがたいんだけどね。」


なんか世知辛い話だな。大きなお友達ってなんだよ。オタクのことか?


「さっき、あなたといた女の子、あの子はかなりの筋金入りね。私のこともすぐわかったし。」ナミさんがいう。



そうだな。有馬マリアちゃんは魔法少女が好きみたいだな。ナミさんに聞いてみよう。


「ちなみに、猫カレーって何? マリアちゃんが言ってたんだけど。魔法少女が好きなカレー?」


ナミさんは首を横に振った。

「違うわ。でも、猫カレーって単語が出てくるのは、かなりの通よ。さっき、魔物に襲われたとき、異次元空間に行って、なんか不思議な景色や魔物の動きを見たでしょう?」


「ああ、怪物の癖にかなり幻想的な風景だった。」俺は答える。


「あの空間や魔物のデザインをしているユニットが猫カレーよ。芸名というのかしら。」


そうなんだ。食べ物じゃなかったんだな。


「今夜も遅くまでありがとうね。そろそろお暇するわ。」ヒーラーGが言う。


「ああ、俺も寝るわ。ナミさん、興味深い話ありがとう。これからも頑張ってくださいね。」 俺は本心から言う。


「じゃあ、また来るわね。」アルケゴスが言う。


「できるだけ毎晩、魚を用意しておくよ。来なければ俺が食べるだけさ。」俺はアルケゴスに言う。


「私が主役じゃないの?」横でヒーラーGがぶーたれる。


「今夜は楽しかったよ。おやすみ。」俺はそう言って、二人と一匹を見送る。


後ろ姿のヒーラーGのスカートがふわりと動いたが、やはり中身は見えなくて残念だった。





ーーー

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