1の4 龍之介、試合に向けて闘士を探す事。

 村長むらおさのライスケ氏は、僕の手を取らんばかりにして、何度も

『有難う、有難う』と繰り返した。

 それから僕は、その”試合”のルールを教わった。

 何でも今からひと月後、近郷近在の村が集まって、『県』の代表を決める大会が開かれる。


ルールは以下の通りだそうだ。

・五人一組の団体戦によるトーナメント方式。(勝ち残りではない)

・先に三勝したチームが勝ちとなる。

・飛び道具以外の武器であれば、双方の合意があった場合のみ使用が可能。

(但しその場合、防具の着用が義務付けられる)

・噛みつき、目潰し、頭髪を引っ張るなどの行為

は禁止。

・倒れている相手、或いは寝技に入った場合、頭部への打撃攻撃は禁止。

・意識的な反則行為は、理由の如何を問わず、即刻”負け”となる。

・試合時間については特に制限はなし。

・勝敗は反則行為の他、いずれかが参ったをするか、でなければ試合の継続が不可能な場合。

・但し、相手を死に至らしめた場合は、理由の如何を問わず”負け”となる。

・審判は一人、その指示は絶対であり、異議を唱えることは認められない。

と、大体こんなところだそうだ。

 何という事はない。

 武器の使用が認められている事以外は、僕の住んでいる世界で盛んに行われている、総合格闘技とあまり大差はないようだ。


 問題はその五人を如何にして集めるか、だ。

 まず一人目は僕事、鍬形龍之介。

 もう一人は、最初に僕が倒した元盗賊で、大男の”ゴンゾウ”。

 盗賊だったくらいだから、武器の扱いには慣れているし、正式に習ったことはないにせよ、生きるか死ぬかという修羅場を潜り抜けてきているのは確かだから、充分な戦力になりうる。


 後は三人、これが難物である。

 そりゃ、村の中から選べれば一番ベストなんだろうけれど、僕がざっと見た限りでも、村は老人と子供、そして女性が主で、若い男性がごくわずか。それらにしても、一人は病気、あとの二人は農作業は出来るが武道はからきし、という具合だ。


 しかたない。

 僕は近在の村を巡り、腕のある若い男を募ろうと考えたが、それも無駄骨だった。

 何しろ村の存続を掛けた闘いだからね。

 どこだって腕の立つ者を雇い入れたら、手放すわけはない。

 それに、この村は貧乏だ。

 勝ったところで報酬も満足に払えないだろう。


『いい手があるぜ。兄貴』

 足を棒にして帰る途中、ゴンゾウが僕に言った。

『俺の元の仲間を連れてくりゃいい』

『元の仲間って、あの時逃げた盗賊団のこと?』

 なるほど、彼らは確かに実戦にかけては並み以上の存在かもしれない。


 僕は早速、村長のライスケ氏に話してみた。

 村長は腕組みをし、散々悩んだ。 

 当り前だ、自分の村を襲おうとした夜盗が、村の為になんか働いてくれるとは思えないと考えたって、無理からぬところだ。


 他の村民たちも、お世辞にもいい顔はしなかった。

 僕は、

『なるほど、そうかもしれません。でもよく考えてみてください。奴らだって、初めから悪かったわけではないでしょう。何かの為に汗を流して働くという道を与えてやるのも、彼らの為でもあるんじゃないですか?』


 普段口下手な僕だが、必死で村長や村民を説得した。

 それでも渋っている村人に、口添えをしてくれたのはキキョウさんだった。


『私は龍之介さんのおっしゃる通りだと思います。みんなの為に闘ってくれるなら、それに賭けてみるのも良いのではありませんか』

 キキョウさんは、村長に次いで、この村では発言力が強いらしい。

 彼女の言葉が呼び水となって、僕とゴンゾウは盗賊連中をかき集めて回った。

 

 あの一件の後、彼らは散り散りになっていたが、

”蛇の道はヘビ”ということわざがあるように、どうにか三人のメンツが揃い、彼らも初めは警戒をしていたが、僕とゴンゾウの説得により、どうにか参加を承諾してくれた。


こうして、

”ヤマトの里五人衆”のメンツは揃った。

では一応、名前を紹介しておこう。


まずは僕、鍬形龍之介。

次はあの大男、ゴンゾウ。

三番目は、背は低いが、すばしこく、蹴り技と棒術の使い手であるヤスケ。

四番目は痩せているが、立って良し、寝て良し、武器術良しのカゲツラ。

五番目が、中くらいの背丈で、鞭とケンカの達人、トオマル。


 以上の通りだ。

 しかし、問題は柔道をやっている僕以外は、特別に何か習っていた訳ではなく、実戦で叩き上げた、いわば”ストリート・ファイター”である。

 

 村の威信を賭けた闘いに望むのだから、猪武者というだけでは勝てないだろう。

 僕も組技ならどうにか教えられるが、武器術と打撃に関しては素人みたいなもんだ。

 その点は”わしが何とかしよう”と、村長のライスケ氏が立ち上がってくれた。

 ライスケ氏は、片足を悪くして一線を退いてはいるが、元はこう見えても県でも名の知れた闘士だったのだという。


 さあ、もう時間はないぞ。

 期日までには何とか仕上げなければ、僕達は気を引き締めてかかることにした。


 




 



 

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