6
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その日から、真帆は伊田家をたびたび訪れるようになった。彼女はまだ仕事をしていなかったから時間はいくらでもあった。でも、無遠慮に振る舞ってはいけない。彼らはいつでも歓迎してくれたが、変化を好まないふたりが、真帆に慣れるまでには時間が必要なはずだった。訪問のタイミングは無造作に見えて、彼女なりに考え抜いたものだった。最初は週末だけ。それが週二回になり、やがて週三回になった。
康生と充生は五年間ふたりだけで暮らしていた。茜が家を出たのは、充生が中学一年のときだった。
真帆は彼女の写真を見せてもらった。庭に立つ茜。バーゴラの下でシャベルを持ち、軍手の甲で額の汗を拭いている。髪は長く、丸みのある
「綺麗な方ですね」
真帆が言うと、はい、と康生が応えた。
「とても綺麗な女性です。バランスがいいんです。彼女のいたるところに黄金比が見られる」
わたしにもどこかに黄金比があるんだろうか、と真帆は思った。彼女はいままでに三度だけ「可愛いね」と言われたことがあった(父親の言葉はカウントせずに)。自分がとても微妙なラインにいることは分かっていた。
「庭が好きだったんですね」
真帆は言った。
「そうですね。好きでした。彼女が外の世界に出て行くきっかけになったのも庭でしたから」
「庭が?」
「そうです」
彼は右手の人差し指と中指を三度ほど擦り合わせた。特に意味のないことは知っていた。単なる接続詞のようなものだ。
「イギリスの湖水地方を旅して、それからです」
「ああ、ピーターラビット」
「そう、ピーターラビット」
「綺麗な庭がいっぱいありそうですもんね」
「あります。あとで写真を見せてあげます。彼女が撮ったものですが」
「ええ……」
こんなふうに、康生は様々な形で元妻と繋がっていた。熱を帯びた感情は、少なくとも表面的にはすでに過去のものとなっていた。けれど、無意気のレベルでは、彼はいまだに茜の影響下にあった。息子の充生はあまり多くを語らず、いつも遠目に真帆を見ていたから、彼が家を出た母親をどのように思っているのかは、よく分からなかった。
気にしても仕方ないことだし、もとより真帆が茜の代わりになれるはずもなかった。彼女の幻影を追いやり、そのポジションに収まることは、真帆の望むところではなかった。彼女は彼女なりの居場所を、この家の中に見つけようとしていた。
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