第6話 離れていく関係

翌日、選択講義の時に居酒屋に誘わなかったことを謝ろうと決めていたので、岳と舞と待っているが全然優斗がやってこない。


とうとう始業のチャイムがなって教授が入ってきても優斗は現れない。


3人で何で来ないのかと心配していると、優斗が部屋に入ってくる。優斗に向かって小さく手を振るとこちらに気付いたはずなのに、目を逸らされて、違う席に座ってしまった。


「舞、あれは相当怒ってるよね。」


「そうだね、まずいね。終わったら、直ぐに行こう。」


「ほんとやベーな。」


と岳も心配そうな顔をしている。


講義が終わるチャイムが鳴ったので、急いで優斗のところに行こうと思ったが、昨日と同様さっさと部屋を出て行ってしまう。


「優斗、相当怒ってるな。俺、次講義一緒だから謝っておく。」


と岳が言うので


「ごめんけど、よろしく。どんな感じかLINEで教えて。」


と言って岳と別れる。


「快、優斗くんってあんなに怒るの珍しいの?」


「何回か喧嘩したことあるけど、直ぐにいつも通りに戻ってたから、今回は珍しいよ。実は昨日夜、優斗のカフェに行ったんだ。」


と舞に昨日の夜あった出来事を話した。


もちろん愛かいう子から言われたことについても話した。


「優斗くんの怒りを鎮める方法が分からないね。ってか、愛って子なんなの。初対面なのに失礼だね。」


「なんで私にいちいちそんなこと言うんだろうね。」


「そりゃ、幼馴染だからけん制したいんでしょ。」


「ただの幼馴染なのに、そんな敵視しないでほしいわ。」


と話していると岳からLINEが入る。


『居酒屋誘わなくてごめんって謝ったら、怒ってないって言ってる。しかも、いつも通りの優斗で怒っている様子はない。俺達今、あつ森の話でもりあがってる。もう心配するな。』


これを見てホッとする。


それなら今までの態度はなんだったのかしらとも思ったが、これ以上ぐちぐち考えてもしょうがいないと思うことにした。


「優斗くん怒ってないみたいだね。良かった。何で席を別のところに座ったかは謎だけど。私達のこと見つけられなかったのかな。」


「きっとそうだね。大講義室だったから見つからなかったんだよ。」


舞には優斗が気付いていたけど別の席に座ったことは言わなかった。


この日を境に優斗としゃべることは無くなった。


講義も別の席に座っていたし、すれ違っても目を逸らされる。


カフェに行ってみても、私を見ると奥に引っ込んでしまう。


LINEも既読スルー。


こんな態度を取られると、だんだん話しかけられなくなってしまった。


岳も舞も心配して、優斗に色々聞いてみてくれたが、理由は分からず。


岳と舞とは普通にしゃべったりLINEをしたりしているのに、私だけ音信普通状態。


ただただ、優斗が愛ちゃんと仲良くしているところを遠くから眺めるだけになっていた。


大学生になったら、優斗と旅行したりドライブしたり、お酒を飲んだりしたいと思っていたのに一つもできず大学4年生になってしまった。


もう丸3年優斗とは話していない。


赤ちゃんの頃から一緒で何でも知ってる仲だと思っていたのに、すっかり関係は変わってしまった。


近頃は岳も優斗についてしゃんべるなと言われているのか、聞いてもはぐらかされてしまう。


この3年間で私の状況は色々変わった。


バスケは続けていたし、先輩の働く居酒屋でも働いている。


髪の毛は短いままだったけど、黒色から茶髪に変わっている。


化粧もしているし、何人からかも告白された。


実は颯太先輩からも卒業してから、告白された。


だけど、この3年間優斗としゃべらなくなって、その存在の大きさに気付いた。


優斗が好きだったんだと気付いてから、先輩は憧れの存在のままで好きにはならなかった。


だから、告白されても付き合うことは無かった。


先輩とは今でも良い関係で時々連絡している。


就職しているので、初任給でご飯に行く約束もしている。


だけど、私が好きなのは優斗だ。なんでもっと早く気付いて、こんな関係になる前に告白しなかったんだと悔やまれる。


ただ、優斗が散々私に向かって女じゃないとか、可愛くないと言っていたので、告白したところで付き合うことはなくて気まずい関係になっていたことは間違いないとも思い複雑な気持ちだ。


相変わらず優斗と愛ちゃんは仲良しでいつも一緒にいるから、既に二人は付き合っているのかもしれないとも思っている。


岳に聞いてもはぐらかされるので確信は持てないが、このまま聞かずにいたいとも思う。


そんな悶々とした日々を送っている。


バスケ部も気付けば最上級生になって、私はキャプテンをしている。


舞も相変わらずマネージャーとして支えてくれている。


舞には優斗が好きなことは言っていない。ことあるごとに舞は優斗が好きなのかと聞いてきたが、はぐらかしてきていた。


今日も練習が終わって、舞と講義に向かっていると


「快、今日飲みに行かない?」


と舞が誘ってきた。


「岳も一緒に?」


岳と舞は大学2年生の頃から付き合っている。


「あいつなんて誘わない。ちょっと聞いて欲しいことがあるの。」


「また喧嘩したのか。はいはい、いくらでも聞きますよ。講義の後、ゼミの先生に用事があるから、私のバイト先待ち合わせでいい?」


「快様、いつもすみません。」


と舞がおどけて言っている。


岳と舞はしょっちゅう喧嘩しているけど、喧嘩するほど仲が良いとは言ったもんで、本当に仲が良い。


今日も愚痴から始まるけど、最終的には惚気になっている。


そんな二人が羨ましかった。


喧嘩してもすぐ元に戻れる関係で。


優斗とは喧嘩した訳ではないと思っているし、何で話さなくなってしまったのかも分からない。


優斗がバイトしているカフェで会話したのが最後で、それ以降会話はしていない。


その時会話した内容は確か颯太先輩についてだったが、特に喧嘩するような内容でもなかったと思う。


もう一度昔のように一緒に学校に行ったり、遊びに行ったりしたのだけど、色々やってみたけどどれも関係修復には至らなかった。


どうすれば良いのか、今は全く分からない。


舞と別れた後、そんなことをぼんやり考えながら、ゼミ室へ向かっていった。


忘れていたが、優斗の父親は会社を経営している。


優斗は長男なので、いずれ会社を継ぐことになるだろう。


私はそんなこと忘れていて、幼馴染として過ごしてきていたが、周りは跡継ぎという目でみており一目を置いていた。


大学3年生の後期になると、卒業までに必要な単位はほぼ見通しがたって大学4年生になるとゼミくらいしか学校に行かなくなる。


おまけに就活も忙しくなってくるので、大学に行く頻度はかなり少なくなる。


実際私も大学3年生の後期から講義はだいぶ少なくなってきていた。


ただ、部活があるので毎日学校には行っていた。


優斗の姿はめっきり見なくなっていた。


岳に聞いてみると、父親の会社でインターンとして働き始めており、卒業後はそのまま会社に入社して働くとい言っていた。


このまま優斗と関係が絶たれるかと思うと寂しくて、悲しかったが、現状ではどうすることもできない。


ゼミの用事も終わり、舞との待ち合わせには少し早かったがバイト先の居酒屋に向かう。


「いっらっしゃいませー、って舞さんか。お友達とですか?」


今年入ってきたバイトの子が出迎えてくれる。


「今日は2人、奥の席空いてる?オーダーと料理は自分でやるから、料理は出来たらカウンターに置いておいて。」


「奥の席空いてます。料理できたらカウンターに置いておくので、声かけますね。ごゆっくり。」「ありがとう。」


と言って席に向かう。


舞にLINEでいつもの奥の席と連絡しておく。そのついでに優斗とのLINEを見る。


見事に既読スルーになっている画面を眺める。


連絡がくるはずもないのに、定期的に確認してしまう。


既読スルーの画面と何も連絡がきていない画面と見た後の絶望感はとんでもないものではあったが、もしかして連絡があるかもしれないという期待が捨てられずに画面を確認してしまう。


今日も何も変化の無い画面をみて絶望感に打ちひしがれていると


「お待たせ。早かったね。ゼミの用事は早く終わったの?」


と舞が部屋に入ってくる。


「おつかれ。思ったより早く終わってね。教授の機嫌が良かったみたい。何飲む。」


「ハイボールにしようかな。」


「了解、2杯持ってくるってことでいいかな?」


「快様、いつもありがとうございます。」


といつものやり取りをして、カウンターでハイボールを4杯作り、適当に注文を入れて席へ戻る。


「「カンパーイ」」


と言ってグラスを合わせた後、一気に飲む。


さっきまでの絶望感を振り払うかのように。


「ちょっと、快。一気に飲むとお酒まわっちゃうよ。」


「へーきへーき。今日は何だか飲みたい気分なの。」


この日はいつになくお酒が美味しく感じ、いつもよりお酒が進んだ。


舞の話はというと、いつも通り他愛もない原因の喧嘩だった。


私に話すことで鬱憤が晴れて明日から、岳と仲良しに戻ればそれで良いと思っている。


だから、舞の話をうんうんと聞いている。


大方、愚痴が終わり惚気に突入し始めたころ、


「ところで快は何で颯太先輩の告白断ったの?」


と唐突に舞が聞いてくる。


「颯太先輩、快のこと好き好きビーム凄かったし、なんだかんだ言って色々な人に告白されてるけど、どれも断ってるじゃない。快めちゃくちゃ人気あるし、その美貌をほっておくのは勿体ないよ」


「そうだな、颯太先輩は好きじゃなくて、憧れだったんだよね。好きな芸能人がいるみたいな感覚。誰にも言ったことなかったけど、私優斗が好きなんだよね。」


お酒が回っているせいか、今日は自分の言葉にブレーキがかからずどんどん本心が出てきてしまう。


「優斗が好きって気付いたのは、大学1年で話さなくなってから、距離ができて初めて気づいたの。それまで近くにいるのが当たり前だったから、気付かなかったんだよね。」


「そっか、快は優斗くんが好きなのか。颯太先輩の告白を断ってたから、他に好きな人がいるのかなと思ってたけど、優斗くんだったのか。」


「岳には言わないで。優斗に伝わるのが嫌だから。」


「分かった。3年も辛い思いをしてたんだね。早く言って欲しかったな。」


「そうだよね。優斗と話さなくなってから苦しくて、誰かにこの想いを打ち明けると余計辛くなるかと思って言えなかったんだ。」


「そうだったんだね。気付かずにごめんね。」


「なんで優斗は私のことを無視するようになったんだろう。」


「それがさ、岳も私も分かんないんだよ。何回も理由を聞いたんだけど、はぐらかされるだけで。」


「そうだよね。ほんとに訳分からん男だよ。愛ちゃんと付き合ってるのかな?」


聞きたくても聞けなかったことだけど、今日はお酒が入っているから、もし付き合っているという事実を聞いても大丈夫な気がして聞いた。


「岳に聞いたんだけど、それも優斗くんはっきり言わないみたいなの。二人で出かけたりしてはいるみたいだけど、付き合ってる感じはないとは言ってるけど、本当のところは分からないみたい。」


二人で出かけているという言葉にショックだった。


私とはこの3年で大きな距離ができてしまったのに対し、愛ちゃんとの距離はぐっと縮まっている。


付き合っているという事実はないものの、確実に二人の距離は縮まっている。


もう諦めた方が良いと分かっていても、諦められない自分が苦しかった。


今、この感情を消したくて、更にお酒を一気に飲んだ。


「快、飲みすぎだよ。帰り大丈夫??」


そんな舞の言葉もお構いなしに、どんどんお酒を飲んでいた。


気付いたら、立てないぐらいにぐでんぐでんに酔っぱらっている。


舞が誰かに電話をかけているところまでは覚えているが、そこで私の記憶はシャットダウンしてしまった。


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