5.探しているのは
「いやあ、それにしても、色々と感慨深いものがありますね……いよいよ、僕達も魔法学園に入学ですか……」
「……そうですね。確かに、感慨深いものがあります」
バルクド様は、魔法学園の方を見ながら、言葉の通り感慨深そうな顔をしていた。
その気持ちは、わからない訳ではない。何れ、通うとわかっていたこの場所に来たことに、そういう感情が湧いてくることはおかしいことではないだろう。
ただ、私としては、この魔法学園に通うということには、もっと特別な意味がある。ゲームで見ていたあの魔法学園に、私のこれからの運命を決める場所に来たというバルクド様とは異なる感慨深さがあるのだ。
「これから三年間、僕達はここで過ごすことになります……不安もありますが、期待もあります。楽しい学園生活になるといいですね」
「ええ、そうですね」
バルクド様は、私に対して笑顔を向けてきた。それは、本当に心からの笑顔のように思える。
婚約者になってから、彼とは結構な時間を過ごした。その中でわかったことだが、彼は本当に真面目で誠実な人物である。
それは、ゲームの設定通りだ。そのため、わかっていたことではある。
だが、やはり現実にそういう人物と接すると、しみじみと思う。彼は、素晴らしい人であると。
「お二人とも、少しよろしいでしょうか?」
「え? あら? あなたは……」
私とバルクド様が、魔法学園を見つめていると、一人の女性が話しかけてきた。
その女性のことは、私もバルクド様も知っている。私に関しては、ゲームの登場人物としても知っている女性だ。
「ファルーシャ様、お久し振りですね」
「お久し振りです」
「ええ、お久し振りです。アルフィア様、バルクド様」
彼女は、ファルーシャ・ラルキネス侯爵令嬢。『Magical stories』の登場人物の一人で、攻略対象の一人であるリオーブ・ドルラーンの婚約者だ。
リオーブという人物は、バルクド様の親友である。その関係もあって、私達はファルーシャともそれなりに親しくさせてもらっているのだ。
「申し訳ありません、お二人が仲睦まじく話している所を邪魔してしまって……」
「え? いえ、そんな、気にしないでください」
「そうですよ。別に、僕達は二人の世界に入っていたという訳ではありませんから」
「ふふ、そういう風に否定されると、益々悪いことをしたような気がしてしまいますね……」
ファルーシャは、私達の慌てる様子を笑っていた。どうやら、からかわれたようである。
彼女は、基本的には高貴な令嬢だ。だが、こういう少しお茶目な所もある。
そういう面を含めて、彼女は完璧な令嬢といえるだろう。少なくとも、ゲームの中のアルフィアよりも、万人に愛される令嬢であるはずだ。
「ですが、お二人を見かけて挨拶をしないというのも変な話ですし、話しかけさせてもらいました。聞きたいことも、ありましたので……」
「聞きたいこと?」
「リオーブ様のことを知りませんか? そろそろ、こちらに来ていないとまずいと思うのですが……」
「リオーブ様ですか? えっと……私は、見かけていませんね」
「ええ、僕もです」
ファルーシャは、婚約者のリオーブのことを探しているらしい。しかし、残念ながら、私もバルクド様も彼を見かけていない。
彼女の言う通り、そろそろ魔法学園の入学式が始まる。まだ来ていないというのは、心配になってもおかしくはない。
「でも、ファルーシャさん。あいつは、基本的に待ち合わせ時間のぎりぎりを攻める人間です。多分、ぎりぎりにならないと来ませんよ」
「そうですね……確かに、そうです。かなり……残念なことですが……」
ただ、ここにいる全員が知っている。リオーブという人物が、非常に大雑把な人間であるということを。
はっきり言って、こと彼に関してはこの時間に来ている方が意外ということになる。それ程までに、彼は時間にルーズな人間なのだ。
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