第8話 ユニゴルネ

一角巨獣ユニゴルネが目標だなんて、さっすがは勇者の末裔ですう。期待されてるですう」

 ボニータはそう言う。


 その周囲には、ゴブリンや、火蜥蜴サラマンドラなどの遺体が散らばっている。


「ボニータちゃんも、相当に強いわねえ」

ニコリと早苗は笑う。


「ええー? だって、イマドキ、ゴブリンを倒せないなんて小学生までですう。それとも、早苗さんには無理なんですう?」


「え・・・わ、私・・・その」


「ボニータちゃん、早苗さんはまだ・・・モンスターを攻撃できないんだ・・・」

太郎はそう言う。


「あれれれえ? おっかしいですう、勇者の末裔サマがあ?」

ボニータはイジワルそうに笑う。


「ご、ごめんね・・・ボニータちゃん」

「それだとお、太郎さんが大変ですう。肝心の勇者サマがなんにも戦えないんじゃあ、回復係の太郎さんが大変ですよねえ?」


早苗はしょんぼりして、

「ごめんなさい・・・」

とつぶやく。

「全く、イライラする子ねえ!」

 ミルキがそう言う。

「仮にも勇者の末裔が、こんなチビにイビられて情けなくないの!?」

「ご、ごめんね・・・ミルキさん」


(エッヘヘン、ミルキさんもナイスナイビリですう)

 ボニータはそう考えていた。


 この調子なら、太郎を堕として早苗を怒らせるのも時間の問題だ。


「あなたには、プライドってもんが無いの? 早苗」


「プライド・・・ですか?」


「世界を救うんじゃなかったの? 闇鬼ダック・ロストに制圧されかかっているこの世界を! こんなずっとイビられっぱなしでいいワケ!?」


ミルキは、(なんで私はこんなにイラついてるんだろう)と考えていた。

(何故か・・・早苗がボニータにやられている様子はイラついてしまう)


「私・・・この世界を・・・」

 早苗はつぶやく。


「ハア? 聞こえないんですケドオ!?

 もうちっと頑張ってでかい声出しなさいよネエ」


「私が、この世界を・・・」


「そうよオ。みんな一応、弱っちいアンタに期待してるんだケドオ? そんなに弱いままなんだったら、他に代われバア? ゆっとくけど、あんたくらいの代わり、他にゴマンといるんだからサア」


太郎も後を引き継ぎ、

「早苗さん、ミルキさんもこうして励ましてくれてるんだよ! みんなが早苗さんに期待してるんだ!」


「太郎? わ、私別に、励ますとかそんなじゃないんだからア」

 ミルキはぷいっとそっぽを向いた。


「あ、あんたをイジメるのは私だけってことヨオ。分かったア?」


「・・・はいっ! 今後もよろしくお願いします」

早苗はそう言った。


「ふうん、意外に優しいんですねえ、ミルキさん」

ボニータは目を光らせていた。


「そんな甘甘で、大丈夫なんですかねえ?」

「早苗をイビるのに、あんたなんか必要ないんだけドオ? 悪いけど、邪魔だからさっさと帰ればあ?」


(フン、私だって伊達でIZIME特務隊のA級いじめっ子じゃないですう。太郎さんは、もう少しボディタッチすれば落ちるんですう)


「私もガキの使いできてるんじゃないんですのですう」


ジリ、ジリ、とボニータは素早く太郎へのボディタッチをするために距離を詰めるが、ミルキがその間に割って入る。


「そこをどいてくださいです。太郎さんは、後六回タッチすれば落ちますですう」

「はっ、いくらドーテイでもそんな強引なタッチで落ちるほどのバカじゃないわよ、太郎も」


 太郎は後ずさりしながら、

「い、一体・・・? ボニータちゃん?」


「エッヘン、さあ太郎さん。さっさと私にタッチされるですう。メロメロになるですう」

「触らせないわよ・・・!」

 ミルキは短弓ショートボウを構えている。


「みんな落ち着いて! こんな所で騒げば、一角巨獣ユニゴルネに見つかるかもしれません!」


 ボニータは笑った。

「まっさか。大人しいことで知られる一角巨獣ユニゴルネが、こんな所に」


次の瞬間、


「ボオオオオエエエエエエエエエ!」


途方もない雄たけびと共に、全長10メートルを遥かに超える、巨大な角を持った獣が現れていた!



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俺と妹がヒロインイジメを止めないワケ スヒロン @yaheikun333

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