第6話 早苗、頑張る

「さあ、総勢74人。よく集まってくれたな! 俺はこの『銅級勇者訓練試験』を総括する、クロリアだ!」

 俺はメガホンで怒鳴った。


「ウオオオオ!」

「さっさと始めろ、このいじめっ子野郎!」

「早苗ちゃんは俺が守るぞ、このクソヤローが!」


30人の勇者学園の生徒、そして44人の冒険者、戦士、僧侶などの各ギルドからの参加者。

その全員が、金色の髪を風になびかせ、はらはらと周囲を見守る早苗に注がれている。

 立っているだけでも、女優顔負けの美貌で、しかも金髪のストレート。


(あの子が勇者早苗・・・クロリアってヤローにイジメられてるのか)

(俺があの子を守ってみせるぜえ)


 俺は、集まった冒険者たちがそう考えているのが手に取るように分かる。

 

 これは悪くない。

 早苗は勇者になるべき女で、こうして周囲の人間からのサポートを受けやすい状況も作る必要がある。


「銅級勇者の称号を手に入れれば、毎月銀貨10枚の”勇者年金”が貰える! さらに、大手冒険会社、討伐会社などへの就職も有利だ! しかし、試験中に死んだとしても、俺の知ったことではないがな。さあ、各自で四人パーティを組んでくれ」


 早苗の周囲に男が一斉に群がってくる。

「あわわわわ・・・・? みなさん?」

「早苗よお、俺は斧戦士だ! 組めば・・・い、いちおー守ってやらんでもねえぜ。ゴホっ!?」

 その斧戦士の頭を、槍戦士が殴って気絶させていた。


「拙僧はこれでも、真源流の師範・・・早苗殿、拙僧こそが。ぬはあっ!」

 そのみぞおちを、剣騎士が柄で殴りつけ、さらに彼の後頭部を僧侶が杖で殴り・・・・


(やれやれ、人気者すぎてキリがないな)

 俺はそう考えていた。

 これじゃ、引っ込み思案の太郎は早苗とパーティを組めない。


「なんだあ、実力不足の早苗! 人気だけはいっぱしだな」

 俺はそう言った。


「いえ。その・・・」


「これじゃラチがあかんな・・・そうだ! 早苗のパーティの訓練目標は、西部トイロ山脈の一角巨獣ユニゴルネとするか!」


「ええっ!?」

 早苗は声を上げ、周囲の冒険者たちは一気に引いていった。


「オーーッホホホ、兄さん。いいアイデアねえ! 一角巨獣ユニゴルネといえば、全長10mでその角の一撃で小山を砕くというわ! 勇者の末裔である早苗にはぴったりネエ」


 早苗は、フルフルと肩を震わせている。


 引いていった斧戦士は、ため息をついた。

一角巨獣ユニゴルネなんて、サイテーだなあのクロリア・・・! 銅級勇者の訓練目標にするレベルじゃあねえ・・・!」

「クロリア・・・? 奴はそういえば、クロリアというのか」

 銀騎士がそう言った。

「そういえば・・・北の悪鬼ダック・ロストに支配された地区を解放して、中に閉じ込められていた魔道弓師マジックアーチャーを助けたってえ、伝説の傭兵部隊の猟団長の名もクロリアだったな・・・」

「ええ? まさか、あのサイテー野郎が・・・?」


「ワッハハハ! この程度もこなせないで勇者になるのか!? ミルキと違って本当に何もできないな!」

 俺は一気に攻め立てる。

「オーーホホホ! 兄さん、本当のことを言うのはカワイそうだわ! いくら私が早苗よりも強くて可愛いといってもネ! オーッホホホホ!」

 ミルキも口元に片手を当てて高笑いだ。

 銀騎士は肩を降ろし、

「んなワケねえか。あのサイテーのイビリ兄妹が・・・」

 と言った。


 俺たちのイビリコンビネーションが決まった・・・

 かに思えた。


「ハイっ、会長! では、討伐に行ってまいります!」

 早苗は明るく笑った。

「では、ミルキさん! 私と一緒にパーティを組んでくれる?」

「エ? あんたが、私に?」


「だって、この中ではミルキさんが一番強いもの。ね、お願いできるかしら?」

「フウン。ま、いーけドオ。足を引っ張らないでよネ」

 意外な展開だ。

 元々早苗のサポートにミルキをつけるつもりだったが、自分からパーティを申し出るとは。

「凄いコンビになるよ!」

 太郎はそう声をかける。

「勇力で反射できる早苗さんと、魔道弓の達人のミルキさんだもんね! 一年生で最強なんじゃないかな?」

「何言ってるノ? あんたもパーティに入るに決まってるでしょオ?」

「え、僕もいいの?」

「ええ、お願いね! 太郎君」

 早苗はそう言った。

「じゃあ、もう一人はタンク系の戦士か剣士だよね・・・誰かいないかな?」

 太郎は周囲を見回す。

 とん、と胸にニット帽の子供がぶつかる。

「わぶうっ。すいませんですう」

「わっ、大丈夫?」

 その子は、絶妙に太ももだけを太郎にチラつかせながら、へたりこんでいた。

 太郎の手をぎゅうっと握りながら、立ち上がる。

「すいませんですう。私、ボニータ! スーパー剣士になるために試験に参加したですけど、こんなチビっこ誰も仲間にしてもらえないですう」

「ええっ、君が試験参加に!?」

 太郎は驚いているようだ。

「エヘン、これでも細剣レイピアには自信があります! 敵の攻撃を避けるのは得意ですう」

「そっかあ、こんな小さい子が一人じゃ心配よね。じゃあ、私たちと一緒に行きましょ!」

 早苗はそう言う。

「ええっ? いいですかあですう! やぱり早苗さんは優しいですう!」

 しかし、ボニータはまた太郎の手を握ったままだ。

「・・・その手、なんでまだ握ってるのよ・・・?」

 ミルキはめざとく言った。

「えっへへー、太郎さんのおてて、温かいですう。私、家族がいないから寂しいんですう」

 すりすり、と太郎の手をほっぺたにくっつけている。

 ギリ、とミルキが歯を噛みしめている。

(上手く四人組になったな・・・)

 俺はそう考えていた。

 荒くれの集まる訓練だ。

 どうなるかは少し心配だったが、上手くいきそうだ。

・・・・・

 俺はあの瞬間まで、そう思っていたんだ。

 たかだか学校での訓練でそこまで気を張ることもないだろう、と・・・

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