埋蔵金

つねあり

第1話 埋蔵金

<大学の食堂>


たくさんの学生が談笑したり、スマホをいじったりして過ごしている。


その中で、PCと睨む合い、頭を掻きながら、レポートを書き上げようとしている男子学生。


学生A 「何やってんの?」


男子学生 「何やってんのって、見ればわかるじゃん、レポート書いてんの。

      あー、どうしょう。あと一週間しかないよ…。」


焦りから、男子学生は頭を掻きむしる。


学生A 「大変だね。」


男子学生 「えっ!お前、出来てんの?レポート?」


学生A 「(笑いながら)全然。」


男子学生 「(呆れた顔で)余裕だな…。」


学生A 「まっ、何とかなるでしょ。」


男子学生のPCの横に置いてある四つ折りの紙に目が止まる学生A。

その古い紙は、一目見ただけで、年代物だと分かる代物。

所々、欠けたり、破けていたりしている。


学生A 「何?それ。」


その古い紙を指さし、男子学生に尋ねる学生A。


男子学生 「えっ?…あー、コレ。」


学生Aと一緒に古い紙を指す男子学生。


学生A 「そう。ソレ。」


指さす学生A。


男子学生 「埋蔵金の地図。」


さらりと答える男子学生。


学生A 「ん?…マイゾウキン?」


男子学生 「そう。埋蔵金。」


あまりにも唐突すぎて、話しについていけない学生A。


学生A 「…マイゾウキンって、何?」


男子学生 「“何っ?”って、埋蔵金は埋蔵金でしょ。」


学生A 「…もしかして、ひょっとして、…アノ、埋蔵金?」


男子学生 「そう。アノ、埋蔵金。」


学生A 「マジでー⁉」


ようやく理解し、驚く学生A。


男子学生 「そうみたいだね。」


驚いている学生Aをよそに、他人事のように話しながら、PCを見つめる男子学生。


学生A 「なんで、埋蔵金の地図、持ってるの?」


男子学生 「…えっ?」


レポートに集中して、学生Aの言葉が耳に入って来ない男子学生。


学生A 「なんで、持ってんの?地図。」


PCの画面を見ながら、質問に答える男子学生。


男子学生 「あー、さっき、橋本先生の研究室に行った時、拾った。」


学生A 「拾ったって?…いいのかよ、持ってきて。」


男子学生 「いいんじゃない。落ちてたんだし。」


適当に答える男子学生。


学生A 「…見ていい?」


男子学生 「どうぞ。」


学生Aの顔を見ることなく、あっさり許可する男子学生。


学生A 「ホントに?…本物?」


埋蔵金の書かれた紙はとても脆く、破けそうだった。

学生Aは細心の注意を払いながら、埋蔵金の地図をゆっくりと開く。


そこには、男子学生が言った通り、地図が書かれていた。


埋蔵金の場所を示す目印。

埋蔵金を埋めた深さ。

埋蔵金の額など、草書体で事細かく書かれていていた。


学生A 「うわっ、本物ぽい。」


男子学生 「…どうかな。」


否定的に答える男子学生。


学生A 「…えっ⁉ この場所って、…あそこの山?」


男子学生 「そう。あそこの山。」


学生A 「車で行けるところじゃん。」


男子学生 「昔、ここら辺一帯を治めていた宇田林うだばやしとかいう大

      名の隠し財産が、埋められているらしいよ。」


学生A 「詳しいね。」


男子学生は、学生Aの方を向き


男子学生 「実は調べた。」


学生A 「なんだ、興味あんじゃん。」


男子学生 「まあね。」


学生A 「で、どうなの? ありそう?」


興味津々な学生A。


男子学生 「それがさ。ネットで調べたら、こんな記事が出て来たんだ。」


PCの画面を変え、学生Aに古い新聞記事を見せる男子学生。


大きな見出しで、“幕末の隠し財産、一部見つかる”と書かれ、鮮明ではないが、写真も掲載されていた。


“宇田林家の隠し財産?”

“噂は本当だった!”

“国が調査に乗り出す”  鮮烈な言葉が躍っている。


学生A 「マジじゃん。」


食い入るようにPCの画面を見る学生A。


男子学生 「宇田林家は代々、徳川幕府に仕えていたらしく、かなり有力な  

      大名だったらしいよ。」


学生A 「そうなんだ…。」


真剣に記事を読む学生A。


男子学生 「幕末の時、徳川家復興のために、幕府からお金を預かったらしいね。」


学生Aは、男子学生の方を見て、


学生A 「ってことは…“徳川埋蔵金⁉”」


あまりにも大きな声が出てしまい、慌てて周りを見る学生A。


学生A 「(小声)そういうことでしょ?」


男子学生 「…まぁ、…そうだね。」


ちょっと引いている男子学生。


学生A 「スゲーじゃん。この地図。」


食い入るように記事を読む学生A。


男子学生 「“徳川埋蔵金”と言っても、色んなところに隠したって言うから。まぁ、

      仮にあったとしても、大した額じゃないでしょ。」


“額”と聞いて、敏感に反応し、男子学生を見る学生A。


学生A 「“額”って、いくらぐらい?」


男子学生 「ん~、どうだろ。今の金額で言えば…20億ぐらいじゃない。」


学生A 「にっ、にじゅうおく!」


大きな声が出てしまったことに自分自身で驚き、周りを窺う学生A。


学生A 「(またも小声で)20億って、スゲーじゃん。」


男子学生 「ん~…でも、どうかな。俺は嘘だと思うけどね。」


学生Aとは真逆の反応を見せる男子学生。


学生A 「どうして?」


男子学生 「だって、こんな話に本当だったことなんてないだろ。

      “都市伝説”ってヤツだよ。よくある話。」


学生A 「でも、記事、載ってじゃん。」


今度は逆に、PC画面に映る記事を男子学生に見せる学生A。


男子学生 「この記事、大正時代の記事だし、本当かどうか。それに、その記

      事の続報がないだよ、どこ探しても。だから、絶対、嘘。信じない方が

      いいって。」


そう言うと、PCを手元に戻し、レポート書きはじめる男子学生。


学生A 「…じゃあ、この地図、貰っていいかな?」


男子学生 「どうぞ、ご自由に。」


PCの画面を見ながら、適当に答える男子学生。




<大学のキャンパス ベンチ>


男子学生が、一人静かに本を読んでいる。


男子学生の横に座る学生B。


学生B 「何やってんの?」


男子学生 「見たら分かるだろ。本、読んでんの。」


本から目を離さず、答える男子学生。


学生B 「何の本?」


下から覗き込み、本の表紙に書かれているタイトルを読む学生B。


学生B「…武藤…陸軍中将の…密令?…何これ?」


男子学生 「戦争末期、日本軍が財宝を隠したという話。」


読みながら答える男子学生。


学生B 「渋い本読んでるね。」


男子学生 「この前、じいちゃん家に行ったら、あったんだ。」


学生Bを見ることもなく、答える男子学生。


学生B 「へえ~、じいちゃん家に…。」


学生Bが目線を下に落とすと、男子学生の横にクリアファイルに挟まれた古い地図が目に入って来た。


学生B 「なぁ。」


男子学生 「ん~?」


学生Bを見ることもなく、気の抜けた返事をする男子学生。


学生B 「何これ?」


学生Bは顎でクリアファイルを指すが、男子学生は本に夢中で答えない。


学生B 「なぁって。」


痺れを切らした学生B。

男子学生が読んでいた本にデコピンをして、自分の方に注意を向ける。


男子学生 「何!」


怒りながら、学生Bを見る男子学生。


学生B 「これ、何?」


目線でクリアファイルを指す、学生B。

それに釣られ、目線を下に落とす男子学生。


男子学生 「…あー、これ。埋蔵金の地図。」


学生B 「はっ?」


突然出て来た言葉に、困惑する学生B。


学生B 「…埋蔵金って、…まさか…あの埋蔵金?」


男子学生 「そう。あの埋蔵金。他にないだろ。」


本を読み始める男子学生。


クリアファイルに挟まれた古い地図を見続けたまま、男子学生に質問をする学生B。


学生B 「何で、持ってんの?埋蔵金の地図?」


男子学生 「この本に挟まってた。」


読んでいる本を指さす男子学生。


学生B 「じいちゃんの本に?」


学生Bの目に“武藤陸軍中将の密命”の文字が入る。


男子学生 「そう。この本に。」


学生B 「…見ていいか?地図。」


読んでいた本を下げ、学生Bを見る男子学生。


男子学生 「脆いから気を付けてくれよ。」


学生B 「分かった。」


クリアファイルを手に取る学生B。


その地図には、埋蔵金の在りかを示す目印や埋めた深さなど事細かく記載されている。


学生B 「…えっ⁉これって…すぐ近くじゃん!」


男子学生 「そう。あそこの山。」


驚いている学生Bを見ることもなく、黙々と本を読みながら答える男子学生。


学生B 「何で、お前のじいちゃんが持ってんの?」


本を下ろし、学生Bを見て答える男子学生。


男子学生 「ウチのじいちゃんのお父さんが戦争中、武藤中将の部下だったんだっ

      て。」


男子学生が読んでいる本を指さす学生B。


学生B 「えっ、この人の部下だったの?」


男子学生 「そう。それで、敗戦が濃厚になって、日本軍の命令で財宝をすべて埋め

      るように言われたんだって。」


学生B 「あそこの山に。」


男子学生 「うん。武藤中将とじいちゃんのお父さんは、ここの生まれで、土地勘が

      あったから埋めたらしい。」


学生B 「それ、ホントの話?」


男子学生 「どうだろ。ウチの親父は小さい頃から、じいちゃんによく聞かされてた  

      って言ってたし、…根も葉もない噂ではないと思うんだけど…。」


学生B 「だいたい嘘だろ。その手の話って。」


男子学生 「でもさ、地図と一緒に記事が入ってたんだよ。」


学生B 「記事?」


男子学生 「そのファイルの裏、見てみ。」


ファイルを裏返すと、新聞記事が挟んであった。


新聞の見出しに “日本軍の密命、本当か?”の文字。


“武藤中将の真相にせまる”

“沈黙する武藤中将の部下”

“GHQも捜査はじめる”


学生B 「…この沈黙する部下って。」


男子学生 「たぶん、じいちゃんのお父さん。つまり、俺のひいじいちゃん。」


学生B 「スゲーな…。」


男子学生 「(自慢げに)俺のご先祖は新聞に載ったことがあるんだぜ。」


学生B 「で、埋蔵金は?」


身を乗り出し、男子学生に尋ねる学生B。


男子学生 「それが、埋蔵金を探そうとするとケガ人や死人が出たらしいんだ。

      GHQにも被害が出たらしい。」


学生B 「えっ、もしかして、…呪い?」


男子学生 「そう。その当時は“武藤中将の怨念”って言われてたらしいよ。」


学生B 「“怨念”。」


男子学生 「うん。そもそも埋めたとされるお金は、本土決戦のために使うお金だっ

      たらしい。」


学生B 「本土決戦…。」



男子学生 「そう。…そのお金を狙う者がいれば…。」


学生B 「えっ…。」


いきなり本を強く閉じる男子学生。

ビクッとする学生B。


それを見て、ケタケタ笑う男子学生。


学生B 「おい、やめろよ。」


男子学生 「わりー、わりー。お前が真剣に聞くから、つい。」


学生B 「なんだ、冗談かよ。」


ガッカリする学生B。


男子学生 「まぁ、その記事も戦後直後のものだし、それに、一説ではGHQが悪い

      噂を流して、人を近づけさせないようにした。なんて話しもあるけど、

      ホントかどうかは、分からないね。」


学生B 「なんだ。じゃあ、この地図も偽物か?」


男子学生 「いや、その地図はウチのじいちゃんが持っていたモノ。ずっと肌身離さ

      ず持っていたヤツ。」


学生B・地図を見ながら


学生B 「なぁ、もし、もし、仮に埋蔵金があったとして、いくらぐらいになるん

     だ?」


男子学生 「ん~、そうだな。今の金額で700億ぐらいじゃない。」


学生B 「700億⁉」


驚愕する学生B。


男子学生 「まぁ、あればね。あれば、それぐらいの額らしいよ。」


男子学生に顔を近づけ、小さな声で話しはじめる学生B。


学生B 「じゃあさ。仮に、これも仮の話なんだけど。」


男子学生 「…近いな。何?」


学生B 「もし、俺が見つけたら、どうなる?」


男子学生 「どうなるって、…第一発見者になるんじゃないの?」


学生B 「それって、やっぱり警察とか言わないとダメなのかな?」


男子学生 「…ダメってことはないんじゃない。黙っていればいいし、国に買っても

      らうとか。色々あるんじゃないの?」


学生B 「そうか。…そうだな。」


深く、考え込む学生B。


強く本を閉め、学生Bの注意を引く男子学生。


男子学生 「だけどな。」


我に返る学生B。


学生B 「そ、そう。そうだよ。だよ。決まってん

    じゃん。」


誤魔化すように話しを合わせる学生B。


男子学生 「でも、分かるよ。その気持ち。俺もさ、こういうロマンのある話、好き

      なんだよ。もし、俺が見つけたらって、思っちゃうんだよね~。」


学生B 「だよな。そう思うよな。」


男子学生 「うん、思う。ウチのじいちゃんなんて、今でも本気で思っているか

      ら。埋蔵金はあるって。」

      

学生B 「そうだよな。部下だったお父さんから直に聞いているんだもんな。」


男子学生 「そう。じいちゃんの話し聞いていると、“あるんじゃないか?”って思え

      てきちゃうから不思議なんだよな。リアルなんだよね、話しが。」


学生B 「(独り言のように)そっか…。」


(腕時計を見る男子学生)

男子学生 「ヤべっ⁉バイトの時間だ!」


学生B 「おっ、そうか。」


男子学生 「じゃあ、俺行くわ。」


学生B 「おう、またな。」


男子学生 「今度、武藤中将の話、しようぜ。」


学生B 「そうだな。」


男子学生 「それじゃあな。」


急いで、走り去る男子学生。


クリアファイルを持っていることに気付く学生B。


学生B 「あっ。」


男子学生を呼び止めようとするが、やめてしまう学生B。




<山道>


山の中を走る一台の車。

クリアファイルの地図を見ながら運転している学生B。




徒歩で山中を歩く学生B。

背中には大きなバック。手にはスコップ。


学生B 「(地図を見て)この道でいいのか。」


道なき道。けもの道を歩く学生B。


学生B (立ち止まり)「この先に広く開けた場所があるずだ。」




木々が学生Bの行く手を阻む。

かきわけ進む学生B。




学生B 「⁉」


走り出す学生B。


学生B 「あった!あったぞ!」


突然、木々の間から開けた空間が姿を現す。


辿り着く学生B。


学生B 「やったー!本当にあっんだ!俺の勘は当たってたんだ!」


喜びを噛みしめ、辺りを見回す。


学生B 「石、石はどこだ。」


数m先に、石ものを見つける。


学生B 「あそこだ!」


一目散に走り出す学生B。


丸い石が目に入る。

抱きつくように石に触る学生B。


学生B 「裏に×の文字!裏に×の文字!」


丸い石を裏返すと×の文字。


学生B 「ここだ!ここに埋蔵金があるぞ!」


周りを見回す学生B。


学生B 「落ち着け…。落ち着け…。(地図を見て)丸い石から七歩、歩いたとこ

    ろ…。」


学生B・丸い石の右横に立ち、七歩、歩き出す。


学生B 「1・2・3・4・5・6・7。ここだ。この下に700億だ!」


地図を見て確認する。


学生B 「…深さは…5.94寸、1m80㎝…その半分のところに、細長い形をした石が

    あるんだったよな…そうそう、裏にシミのような模様をしているのが目印!

    それが出てきたら、埋蔵金はすぐそこだ…よしっ!」


バックと地図を放り出し、スコップで穴を掘りはじめる学生B。


不気味なほど静かな山の中で、穴を掘るスコップの音が響く。




大汗をかきながら一心不乱に掘っている学生B。

深さは腰の辺りまでになっていた。


コツン。何か硬いものにスコップが当たる。


学生B 「⁉」


手で掘り始める学生B。


学生B 「石だ!目印の石だ!」


手で土を払うと、40㎝ほどの細長い石が出て来た。


学生B 「裏にシミ。裏にシミ。」


裏返すと、シミのような模様が見えた。


学生B 「やったー!やったーぞー!ついに見つけたぞー!埋蔵金だー!俺の埋蔵金

    だー!」


雄叫びと共に、石を後ろの地面へと放り投げる。

誰にも届かない歓喜が、山の中で響き渡る。


再び、掘るスコップの音が聴こえはじめる。




汗を流しながら、夢中で掘り続ける学生B。

穴の深さは、学生Bの背丈よりも少し、高い。


ゴツン。何か金属のようなものに当たる。


学生B 「きたっ!」


手で土を払う。


幅1mぐらいの金属の蓋が見えた。


学生B 「おいおいおい…これが700億の大きさかよ。」


興奮を抑えきれない学生B。




必死で掘り続けると金属の蓋の部分が現れる。

蓋には錠前がかかっている。

底が深い箱らしく、下に細長く伸び、すべては掘り切れない。


学生B 「どんだけ、入ってんだよ。この箱には。」


スコップで錠前を壊す。

三回当てただけで、簡単に錠前が壊れた。


学生B 「(噛みしめる声で)やった。ついに手に入れたぞ!俺の埋蔵金!」


蓋に手を置く学生B。


学生B 「頼む。全部じゃなくてもいいから。何か入っててくれよ!俺の埋蔵金!」


声と共に、勢い良く蓋を上へと押し上げる学生B。


箱の中には、苦痛に顔を歪めた学生Aの死体が入っていた。


声が出ないほど驚く学生B。


頭から血を流し、右手はぐちゃぐちゃにされた学生Aの変わり果てた姿。

蓋の裏には、掻きむしった無数の爪の跡が残っている。


後ろの土壁に倒れる学生B。


学生B 「…何んなんだよっ!コレッ⁉」


急いで、土壁を登ろうとするが、恐怖と焦りから上手く登れず、蟻地獄のように下へ下へ引きずり込まれる。


学生Aの歪んだ顔が目に入る。


学生B 「助けてくれー!」


ようやく土壁のへりに両手をかけ、力一杯、自分の体を上の地面へと持ち上げる。

上半身が上の地面に出た瞬間、学生Bの右手にスコップが突き刺さる。


学生B 「ギャーッ‼」


右手に突き刺さるスコップ。

苦痛で顔が歪む学生B。


学生B 「うっ…がぁぁっ…。」


黒い手袋した謎の人物が、細長い石を持ち上げ、学生Bの頭めがけ振り下ろす。


ゴボッ。鈍い音がした。


山の中でスコップの音が聴こえる。

埋めるスコップの音。

黒い手袋をした謎の人物が埋めている。


音に混じり、微かに戸を叩く音と助けを呼ぶ声が聴こえる。




半分ほど穴を埋めてところで、謎の人物が、血の付いた細長い石を中央めがけ放り投げる。


再び、聴こえるスコップの音。




少し、日が傾きかけた時間。

穴はすべて埋まる。


謎の人物が、土を数回踏み、足場を固めると、地面にスコップを突き刺し、前方斜め左に置いてある丸い石に向かって歩き出す。


学生Bの掘った穴は埋められている。


謎の人物が、丸い石を両手に持ち、左横へと移動し、埋めたばかりの穴の場所の前に石を置く。


男子学生 「よしっ。」


謎の人物の正体は、男子学生。


突き刺したスコップを引き抜き、振り返ることもなく、その場から立ち去って行く男子学生。




<キャバクラ 休憩室>


ドアが開き、バイトの先輩が入って来る。

先に休憩をしていた男子学生。テーブルで本を読んでいる。


バイトの先輩 「おう。お疲れ。」


男子学生 「お疲れさまです。」


バイトの先輩 「おい、あの客、また来てるぜ。」


そう言いながら、冷蔵庫を開ける。


男子学生 「あー、ミナミさんの、ですか?」


バイトの先輩 「そう。ホント、懲りないよね。

        マジで付き合えると思ってんのかね?」


水を取り出し、キャップを開ける。


男子学生 「(本を読みながら)思ってるんでしょ。信じる者は救われるって

      言いますし。」


バイトの先輩 「救われねぇーだろ。」


男子学生の前に立つバイトの先輩。

テーブルに置かれた四つ折りの古い紙に目が行く。


バイトの先輩 「なんだ、それ?」


ゴクリと一口、水を飲む。


男子学生 「あー、埋蔵金の地図です。」


バイトの先輩 「(飲んだ水を噴き出しそうになりながら)埋蔵金⁉」


男子学生 「えぇ。古本屋で買った本の中に入ってたんです。」


読んでいる本をバイトの先輩に見せる男子学生。


本の表紙には “長野一族の隠し財産”の文字が見える。


バイトの先輩 「…隠し財産…。」


男子学生の前のイスに座り、地図を手に取り、徐に開くバイトの先輩。


バイトの先輩 「(訝し気に)本当か?」


男子学生 「(微かに口元を緩ませ)さぁー、どうでしょ。」

   

                               完


             

        







































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埋蔵金 つねあり @tuneari

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