寝ぼけ眼も臭いで解決!

Case4:大井彼方 その1

 ピロン。


 何処かから聴こえたその音に俺は目を閉じたまま、手で恐らく音が鳴った原因であろうスマホを探し始める。俺が手でふっ飛ばして居なければ、頭の上にある筈だ。

 頭の辺りを探っていくと四角い物体に手が触れる。スマホだ。ソレを掴んで画面を見ようとするが、まだ眠くてなかなか目が開かない。

 やっと思いで薄目を開くと、ロック画面の時刻は午前3時半だった。道理で眠いわけだ。こんな深夜に何の通知なんだろうと更にロック画面を見ると、其処には、


『……さんから共有申請が入っています』


 という表示されていた。共有申請?と頭を傾げる。まだまどろんでいる俺の目にはその共有をしてきた相手の名前を認識することができない。

 一体何の共有なんだろうか? 半分しか開いてない目でスマホのパスワードを入力してその申請を見る。しかし、字がぎっしり書いている感じで俺の目には全てがぼやぁと霞んで見え、辛うじて大きくハッキリ書かれている【OK】という字だけを視認することが出来た。まぁ、多分写真アプリかSNSかのアプリ共有の通知なんだろうと楽観的に考えて、ハッキリと書かれている【OK】をタップすると、


『確認されました。ありがとうございました。』


 という画面が表示されたかと思ったらあっという間にページが閉じられてしまった。

 まぁ承認したから、後は何にも通知がくることは無いだろうと俺は再び布団に潜り込んで二度寝をした。


 朝八時。スマホに予め設定していたアラームで目が覚めた。

 布団から起き上がって大きいあくびを一つして、スマホのロックを外してSNSを確認する。特に大きな事件もなく、世の中はいつも通りだ。

 そういえば、深夜に何かの共有申請が来ていたなぁということを思い出す。

「どれのアプリだぁ?」

 俺はスマホのアプリで共有することができるモノを片っ端から調べてみるが、深夜に申請が来たような形跡は何処にもなかった。

 確かに申請が通知されていたような気がするんだけれども、おかしい。スマホの設定画面で通知を遡ってみても、それらしきものは全く無かった。ついでに、ウェブの履歴も確認したけれども同じく見当たらなかった。

 もしかしたら、夢の中での出来事だったのかもしれない。とそれ以上は深く調べることはしなかった。


「ん?」

 リモートワークで作業していた俺の部屋に何か香ばしいいい匂いがふわっと香る。

 焼きたてのパンの匂いとかそんな感じのやつだ。

 近所にパン屋は無いはずだ。だけど、結構いい匂いが部屋一面に充満しているような気がした。そんな匂いを嗅いでいたら自然とお腹が減ってくる。

 時間は午前11時。そろそろ昼食時だな。

 デリバリーでも取ろうと、スマホのデリバリーアプリを起動させて何を注文しようか考えていたのだが、充満している匂いにつられてついついパン屋のページを見てしまう。このベーコンエピ美味しそうだなぁ……、と写真で美味しそうなものをいくつかピックアップしてコーヒーと一緒に注文を確定する。


 数十分後家のチャイムがなって配達員が専用バックから注文したパンが入った紙袋を取り出し、俺に手渡す。

「どうもご利用ありがとうございます。本日はパンの気分なんですか?」

「いやぁ、何処かでパンを焼いているみたいでココの方までパンのいい匂いが立ち込めてくるんですよねー。それでついついパンが食べたくなってしまって」

「そうなんですね。パンのいい匂いってついついパンが欲しくなっちゃうんですよねー。また、よろしくお願いしますー」

 配達員はニコニコしながら自転車を走らせて帰っていった。

 ……もしかして、このいい匂いがしているのは俺だけなのか?

 配達員との会話をよくよく思い出すと、匂いに対する話をしていただけで、今でも結構匂っている香りについては全く肯定していなかった。

 つまりは、配達員にはこのいい匂いがしていないということか?

 渡された紙袋を開けて、クンクンと匂いを嗅いでみる。確かにここからもいい匂いがしているのだけれど、俺がさっきから香っている匂いの元はここではないということがすぐに分かった。


 もしかして、俺にしか分からない匂いを感知してしまっているのかもしれない。

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