第45話 早起きして眠い1月13日
地下倉庫にやってきた九乃カナと無月さん。九乃カナは倉庫の一角にある部屋のドアを勢いよく開けた。
「ここは?」
「なんでしょう」
九乃カナも自分の家ではないからわからない。というか、部屋の内部をどうしようか考えていないまま書いている。むしろ無月さんに教えてもらいたいくらいだ。
ワインが棚にならんでいる。ワインセラーだ。
「ワインセラーということになったみたいですね」
「ワインがいっぱいあるんだからワインセラーだってことは見ればわかりますよ。地下通路となにか関係があるのかってことです」
「ここは? と聞いたときにはまだワインセラーにしようなんて思いついていなかったのにすごいものですな。わたくしの頭の中がのぞける? いや、のぞいてもなにもなかったはず。ということは、わたくしの頭が次に何を考えるかを読んだのですか、エスパー」
「メタ発言はイイカゲンにしてください。発言の意味がわかりません」
「失礼。今夜は収穫なしってことで、ワインをもらって部屋へ戻りますか」
「こんな時間から飲みはじめたら大変なことになります。朝、寝ないで酔っ払ったままということになりそう」
「いいんじゃない? どうせ小天体落ちてごちゃごちゃだし」
「ひどい言い訳」
九乃カナはそんな会話をしながら、ワインを物色してカニ歩きで歩きまわっていた。
「あてっ」
「どうしました」
「なにもない床でつまづいてしまいました。って、誰が年寄りじゃい!」
「言ってませんけど」
「ん? なにこれ」
床の石材がずれている。足で踏みつけたりして調べる。これは、石に偽装したプレート状の金属だ。1箇所で留まっていて、床の上を回転する。ぴたっと収まるところではまわりの石材と見分けがつかなくなる。すこし浮かす感じで横に力を加えるとズレて留め具のまわりをまわる。
プレートの下に隠れていたのは金属の四角いボタン。ボタンを見たら押せというのは先祖代々の九乃家の家訓である。押さねばなるまい。
ポチッとな。
バチンと仕掛けが動く音がして、別の石材が細長く浮きだした。指をかけると引き手になっていて、力をいれて持ち上げると、密閉感があって、空気の流れる音がした。四角く床が開いて、下につづく階段があらわれた。
「すごいじゃないですか、九乃さん」
「まあね。隠し扉を探した甲斐があったというもの」
すごい偶然だけれど。
「じゃあ、行って」
「九乃さんが先に行ってくれるんじゃないんですか」
「疑いを晴らしたいんではなかったのですか、無月弟さん」
「うん、そうだね」
「兄に盾になってもらいます」
「頑丈なの? なら盾になってもらいましょう」
「そんな、ひどい」
九乃カナは無月兄さんの背中を押して、階段を降りやすいようにエスコートした。
「もしかしたらここからハイデの部屋へ行く経路があるかもしれませんよ」
「すこしもなさそうですけど」
しぶしぶ無月兄さんが階段をおりてゆく。意地の悪い悪魔が床を落としちゃえと囁いたけれど、心の清い九乃カナは悪魔の言葉は無視した。意地の悪い悪魔も九乃カナの心に棲んでいるのだけれど。
無月弟さんがつづいて、最後に九乃カナが階段にさしかかり、床をおろした。金属音はしなかった。自然とロックがかかって引き手が固定されるということはないようだ。
階段を降りきると通路がつづいていた。湿った風が吹く。
「幽霊でも出そうな雰囲気になってきたね」
「悪魔だって出てきたし、悪魔との戦いで幽霊に助けてもらったんだから、いまさら驚きません」
「ですよねえ」
道が分かれていた。
「おっとぉ、これは面白くなってきましたよ。真っすぐ行ったら、きっと教会ですね。左に曲がれるってことはどこへ出るんでしょ」
「お城の外ですか」
「行くしかない」
無月さんがおそるおそる道を曲がる。九乃カナもつづく。
すこし行って止まった。無月弟さんの背中に頭突きを食らわせそうになった。
「行き止まりですか」
「いえ、階段です」
「ほう。地上に出るのか、またどこかの地下室か。なにが出るか楽しみですな」
「考えるのは九乃さんですけどね」
「メタ発言ですな」
階段をあがってゆく。けっこう長い。これは地上に出そうだ。太腿がキツくなる。エスカレーターはないのか。
「あ、行き止まりです。これは床が持ち上がるやつですよ」
「もちあがるのなら、もちあげてください」
「いや、もちあがらないんです」
「ということは、ロックされているのですね」
「せっかくここまできたのに」
「でも、なかなかの収穫ですよ」
「もどって寝ましょう。もうダメです、眠くて」
無月兄さんは盾としての役目を忘れているのか、寝ぼけた発言である。緊張感をもって取り組んでもらいたい。
「というわけで、狭いけれど体を入れ替えて、また無月兄さん先頭を行ってください」
「なにがというわけなのかわかりませんけど、戻れるならいいです」
狭い通路で体を入れ替えて、ドラクエならキャラが重なるところだ、もときた道をもどる。
九乃カナの三半規管はフル活動していた。
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