第38話 雪が降ったのですって1月6日

 メイドの無罪は確定した。今一番怪しいのは庭師 橙 suzukake さんだ。

「凶器のナイフは造園に使うものです。ハイデさんをカーテンで縛りつけたのも、雪吊りを模したもの。つまり、雪吊りに美的感覚を触発される人物の仕業です」

 うん、口から出まかせだけれどなかなかの説得力。

「造園に使うナイフってなんですか。ざっくりしすぎです。ナイフじゃなくてハサミならまだしも」

「いろいろな種類の刃物を使うでしょ? ハサミだけでなく、ノコギリだって、鉈だって。ナイフだけをもっていないと言い張るのは、むしろ怪しいというもの」

「それを言ったら料理人の方が怪しいじゃないですか」

「なるほど」

「ひっ」

 九乃カナに睨まれてちぢみあがる料理人。気の弱い料理人なんているのか。リアルよりリアリティを優先して角刈りの職人気質料理人にした方がよかったか。ま、いっか。

「ダメです。役者が不足しています。名前もないモブが犯人では読者が納得しません」

「作者の都合なんて知りませんよ」

「我々は警察ではないんでね、証拠だのアリバイだのメンドクサイことは言いません」

「そこは気にしてください」

 九乃カナは席にもどって大福にかじりつく。よく噛んで小さくしてから飲み下す。毎年餅をのどに詰まらせて死ぬ人がいるものだ。すこしは反省すればいいのに、日本人。すぐに忘れる。


 まだ犯人が自白をしていないのにサイレンが聞こえてきた。空気の読めない警察だ。執事が部屋を出て行ってしまう。まだ容疑が晴れたわけではないんだからねっ。勝手な行動は慎んでもらいたい。

 警察らしき人物をつれて執事がやってきた。九乃カナは紅茶のカップをソーサーにもどして顔をあげる。

「九乃カナさんですね」

「ペンネームだけどね! こっちは無月弟さんと無月兄さん。ん? 逆だっけ? ともかく無月さん」

 警察は手帳をパカッと開けて見せる。すぐにしまうからちっとも見えなかったんですけど?

「それで? 謎解きが聞きたいと? ちと早いんでないかい?」

「いいえ、九乃カナさんと、そちらの無月、なにさん? ハイデさんが殺されたのを発見した」

「無月弟です」

 無月兄さんも同じこと言うからユニゾンに。でも、無月兄さんは無月弟さんのことを示していたから混乱はしなかった。

「おふたりには署までご同行願えますか」

「嫌だね。まだ謎が解けていない」

「おままごとはよそでやってくれ」

 警察が九乃カナに生意気なことを言う。

「ならいいだろう。お手並み拝見だ」


 九乃カナは警察の車で山を下りたところの小さな町、小さな警察へきた。

「それで? 凶器のナイフは誰のものかわかったのかね」

「市販されている大量生産のナイフです。ナイフから持ち主を特定するのはむづかしいですね」

「なに、被疑者に素直に情報提供してんだ、ボケ」

「あたっ」

 取り調べはふたりの刑事でやるものらしい。

「それで、夜はどっちが攻めでどっちがウケなの?」

「は?」

「ごほん! そういう話ではなかった、失礼」

 きっと若い方が攻めね、聞かなくてもわかった。下剋上じゃーい!

 九乃カナは無月弟さんと峠デートをしていたら霧にまかれて、お城に偶然滞在することになったのだと説明した。デートじゃないけど。

「あなたたち、リアルタイム読んでないの? 説明するのがメンドクサイんだけど」

「なんですかそれは」

 ダメね、この調子ではカクヨムも知らないだろう。歳のいった方が若い方をどかして、九乃カナの向かいにすわった。

「密室トリックは解けたの?」

「隠し通路があったんだから密室でもなんでもない」

「そうね」

 でも通路の通じた先は無月弟さんの部屋だったんだけれどね。それで無月弟さんが疑われているのか。たしかに怪しいけど。でもそうすると橙 suzukake さんは事件にどう関わっているわけ? カズキ殺しにも関係ありそうなのに。別々の事件だとでもいうのだろうか。

 死体消失と密室、両方ともミステリーじゃないの。別々の事件なんてことはあり得ない。すべてのことに理由があるのだよ。これから考えるんだけどね!

 ごく普通のナイフ、九乃カナをお城へ連れてゆき、第一発見者にもなった。たしかに無月弟さんは怪しい。どっちが犯人なんだ!


「それで、あんたには小天体を落とした容疑がかかっている」

「はあ?」

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