第30話 タイトルを失った12月30日
謎を解くのはまたあとにして、とりあえず寝た。すぐには寝付けなかった。
閉めきっている窓がかたかたと鳴った。眠れないと思っていたけれど、眠っていたみたいだ。音のせいで覚醒してしまった。
でもおかしい。雨戸も閉めっぱなしにしている。風で鳴るとしたら窓ではなく雨戸の方のはず。
「カズキ? カズキなの?」
ゴースト、ニューヨークの幻ではないか。カズキが幽霊になって帰ってきたのだ。作者だからわかる。なんだその根拠。なんでもありだな。
九乃カナは起きだして照明をつけ、パソコンの前にすわった。カズキの姿を見ることはできなかったけれど、そこにいる気配を感じた。
「今までの謎を整理するね」
これは総集編の流れか。九乃カナはパソコンに入力をはじめる。
はじまりはパソコンに入力された文字だった。
「お望み通り殺してやった。犯人捜しを楽しむがよい」
第2話からミステリーがはじまったらしい。見返したから間違いはない。文章もコピペだからまちがいない。
九乃カナは読者を引っぱり出してリンクをたどり、死体を発見した。のちに死体はカズキだったと思い出した。恋人のことがすぐにわからないなんてひどいものだ。
翌日に現場検証に行くと、カズキの死体は消失していた。これは謎だし、怪奇だ。
つぎは妹のミカンがさらわれた。九乃カナのツイッターアカウントにDMが送り付けられたのだ。
『岬までひとりでこい、妹を助けたかったらな。12時まで待ってやる』
ん? ちょっと待って。DMはお互いにフォローしていないと送れない設定にしている。ということは、フォロワーが犯人で、しかもアカウントがわかるはずでは。あのときは気が動転してそんなことに気が回らなかったけれど、今からちょっと調べればわかることではないか。
ツイッターにログインしているタブを前に出す。DMのマークを右クリックして新しいタブで開いた。
おかしい。あのときのDMがない。むむっ。さてはツイッターを退会してアカウントを消したのだな。そりゃそうか。アカウント残していたら裁判所に申請してIPを調べたりプロバイダーに情報開示させたりして犯人を突き止めることができてしまう。先手を打たれたか。
岬へ行くとミカンが倒れていて、本当は寝ているだけだったのだけれど、かけつけたところに謎の影があらわれて襲ってきた。九乃カナに返討ちにされて崖から落ちたのだった。
なにがやりたかったのだろう。九乃カナを殺したかったのか。ミカンをさらったりしたら警戒して殺すのはむづかしいだろう。不意を狙った方が確実。
とはいえ、人間はバカなことをするものだ。ミカンをさらっておびき出しておいて九乃カナを殺そうとしたのかもしれない。でも、誰が? なんのために?
そうか、リアルタイムに書かれてはまずいことがあったのだ。ということとは悲しいことに九乃カナの関係者が犯人の可能性が高い。見ず知らずの人間のことなんてリアルタイムに書かないし、書かれたところで人物を特定されることもなさそうだ。
犯人が同じように考えるかはわからないか。犯人は自分に都合の悪いことが、都合の悪いように書かれると怖れたのかもしれない。
うーん、なんとも言えない。
謎の影を崖から蹴り落としてしまったせいで九乃カナは逃亡を余儀なくされた。自首しろよって気もするけれど、気が動転してしまったのだな。ドラマでも犯人はよく気が動転して逃亡したリ証拠湮滅を図ったりするものだ。
ちなみにミカンも犯人のことはわからなかった。眠らされたことにも気づかなかったくらい。鈍感な子だったのね。
九乃カナは都会に逃亡した。逃亡先で鉄パイプ黒パーカーに襲われた。助けてくれたのも黒パーカーで、逃げたあとわかったのは無月さんという名前。無月一族のひとりにちがいなかった。
無月さんと逃げてついたのが山の中のぽつんとお城だった。親切な執事さんが部屋を貸してくれたけれど、入浴中に美女の悲鳴がしてタオルを巻いた上にコートという姿で悲鳴の主にアタックしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます