第17話 お股がすーすーする12月17日

 密室殺人事件だと宣言したあと気になったのは、誰が殺されたのかということ。

「この美女は無月外人妻さんですね」

「無月? 外人妻?」

 執事は話についてこられないようだ。

「九乃さん、おもしろい」

 うん、はずしたみたい。無月一族の人間ならきっと無月さんがわかる。

「この方は、ハイデ様です」

「ハイデ? ハイジではなく?」

「ハイデ様です」

 アルプスの少女のことを知らないのか、ボケが通じないのか。ともかく名前からしても外国出身の人だ。お城と一緒に買われてきてしまったのかな。

「ハイデ様はご主人様がお連れした方です。ご報告しなければならないのが心苦しいのです。さぞお悲しみになることでしょう」

「そのご主人様って双子なのでは?」

「はい、その通りですが」

「無月兄さんと無月弟さんですね」

「無月?」

 ちがったか。無月兄さんと無月弟さんのほかに双子がいたとは。この小説、双子出すぎじゃない?


 パッと明るくなって、カーテンに拘束された美女があらわになった。魔法が解けてしまった。痛々しいだけの死体。

 執事が照明をつけたのだった。

「ちょっと、ふたりとも出ていてちょうだい」

 腰に手を当ててぷんぷんスタイル。男性陣にじろじろ見られてはハイジみたいな名前の人がかわいそうだ。

 執事と無月さんを追い立ててドアから押し出した。鍵はかかったまま、ドアを壊してしまったから用をなさない。ドアを閉じるだけでよしとした。


 明るくなったから死体をじっくり検分する。ナイフはぐっさりがっちり胸に突き立っている。刺さっているように見えるトリックではない。胸も偽物ではない。外国の人なのに巨乳ということはない。みんな巨乳かと思っていた。日本人は共感をもちそう。日本人みんなが貧乳でもないか。

 首に触って見ても脈は感じられない。首も偽物ではない。マジもんの殺人だ。


 死体を目の前に腕を組んで考える。お股がすーすーする。いやん。コートの上から手で押さえるけれど、今度は手がすーすーする。なんでや。

 すーすーの正体は風である。当たり前か。ムヒを塗っているわけではないのだし。部屋の中で風が吹くというのはわからぬ。お城みたいな建物で、石とモルタルでぴったり隙間なく作られているのだろうに。


 九乃カナはクローゼットに近づいた。扉の合わさるところに顔をもってゆく。鼻にすーすーと風を感じる。下半身は風を受けないようによけている。

 まちがいない、風はクローゼットから吹いてくる!

 バッと扉を開ける。衣装もちのようだ、九乃カナの3倍は軽く衣装を持っている。すこし見栄を張った。

 顔を突っ込む。ふっふっふっ。不敵な笑い。


 クローゼットの背板に異世界への入口があった。

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