初めての、勇気。


 これは、誰にも任せることができない。唯一無事に残った俺にしかできないことだ。


 これ以上、みんなに任せっきりにはできない。

 どうしてしまったんだ俺は?

 こんなのは俺の柄じゃない。俺のポリシーじゃない。


 だけど、


 みんなが必死に戦った。誰もが自分のできることを全力でやっていた。

 俺はそれを観ているだけで、

 それがとても歯がゆかった……。


 何かができればと、何かができないのかと、考えていた。


 走ることが苦手、運動は大嫌い。だけど、俺はどうやらみんなの熱に当てられてしまったようだ。


 俺が、この大騒ぎを、終わらせる!


「う!」


 うじゃうじゃと動くエビルスネイク。


 砂埃で目がつぶれそうになった。


 どこだ? 魔石は? 邪気の発生源は?


 ――くそ、それらしい物は見当たらない。


 どこかに刺さっているのか? 腹の中にでも入っているのか?


 見当も付かない。


 そうだ。スクロール。


 もう十枚と少ししか残っていないカード型のスクロール。


 なにか、なにか探すのに使えるカードは……。


 そして俺は、その一枚を見つけた。


「邪属性、付与のカード……」


 頭の中で、歯車がかち合うような感覚がした。


「これだ!」


 聖属性なら反発し合うが――


「カードの効果を発動!」


 同じ邪属性のもの同士なら、


 カードが宙に浮いて、移動し始めた。


 やっぱり、同じ属性同士、引き合う!


 そして、エビルスネイクの腹の一部分に、カードがぴたりと張り付いた。


「ここか……」


 この場所に、埋め込まれているのか。


 どうやって、魔石を取り出す?


 刃物も何も持っていない。


「……くそ」


 もそもそとエビルスネイクの腹が動き出す。

「うわっ!」


 あぶない、巻き込まれたら、エビルスネイクの体重でぺしゃんこになる。


 なにか、なにか魔石を取り出す方法は?


 カードを漁る。


 めぼしい物が見当たらない。


 せめて、何か切り裂ける魔術でも入っているカードがあれば……だめだ。それらしい物は無い。


「マモル! 危ない!」


 アスカの声!


「え?」


 俺の存在に気づいた蛇の頭が、大口を開けて頭上から襲ってきていた。


「ジェットパンチ!」


 レイナ先輩の叫び声。


 飛んできた巨大な拳が、その頭を殴りつけた。


 そして蛇の弾力性で、ガ・ギーンオーの拳があさっての方向に飛んでいった。


 危なかった。


 だが、どうする。どうすればいい?


 ――見てられないな。


「うん?」


 頭の中に、直接響いてくる。


 ――これを使え。使えるのならな!


 ヒュォン!


「うわ!」


 突然に飛んできた、それがエビルスネイクの腹に突き刺さる。


 剣だ。見たこともない剣が飛んできた。


 どこから? 誰だったんだ今の声は?


 とにかく。


「こ、のおおおおおおお!」


 俺はその剣を掴んで、力いっぱいにエビルスネイクの腹を割いた。


 うう、気持ち悪い。血がどんどん出てくる。


 ダメージに、エビルスネイクが大きく動いた。


「うわああっ」


 体が宙に浮いて振り回される。


 だが、剣を掴んで必死に吹き飛ばされるのに耐えた。


 ――まだ足りない! 気合を入れろ!


 誰なのかは分からない。


 だけど、


「うわああああああああああ!」


 力一杯に叫んだ。


 すると、剣が突然、輝きだした。


 目も開けてられないほどの、激しい輝き。


 腹の中で、バキィン! と何か硬い物がはじける音がした。


 エビルスネイクの腹から、剣が抜ける。


 剣を持って倒れるも、すぐさま起き上がった。


 剣の先に、見たこともない、黒紫に輝く石が刺さっていた。


「これが、魔石?」


 ビキ、ビキビキ、バキンッ!


 邪気を放っていた魔石が砕け散った。


 ジャアアアアアアアア……


 断末魔の声を上げて、エビルスネイクが倒れた。


「やった、のか……」


 周りの騒ぎが収まり、静かになっていく。


 そしてはっとなる。


「ガオン! ガオン大丈夫か!」


 剣を放り出して、蛇の頭の群れに向かう。


「ガオン!」


 ズボッ!


 蛇の頭の群れの中から、太ましい筋肉の腕が現われた。


 俺はそれを掴んで、引っ張りあげる。


「おお、マモル……やってくれたか」


「ああなんとか、よく分からないけど、剣が飛んできて……」


「剣?」


 剣があった場所を見ると、そこには何も無かった。


「あれ? 確かに剣が飛んできて……これを使えって頭の中に……」


「そうか、剣が飛んできたのだな……」


 妙に感慨深くつぶやいたガオン。


 そして、ガオンは俺の腕を掴んで、持ち上げた。


「筋肉の、いや、私たちの勇気の勝利である!」


 ガオンが高らかに宣言した。


 そうか、終わったのか……。


 疲れた、本当に疲れた。


 俺は息を大きく吸い込んで、大きな大きなため息をついた。

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