奇妙な朝。

 チチチ、チチチチ……


 降りてきた小鳥が、少年の指に着地する。


 その青いローブかコートのような上着を着た少年は、多くの動物に囲まれ、とても穏やかな空気をまとっていた。


 周囲にいるさまざまな動物、モンスターたちも、少年に警戒するどころか、安心して寝そべったり、身を擦り合わせて敬愛の意を見せている。


「…………」


 なんて、すがすがしく、健やかで暖かい光景なのだろう。

 野原で動物に囲まれている、小さな少年。


 その微笑みは、無垢で無邪気そのものだった。


 いつまでも見ていられそうな、そんな景色だった。


「おーい、ピックルス」


 名前を呼ばれて、立ち上がる少年。ピックルス。


 ――なんだろうか? この光景は。


「そろそろ出発するぞ!」


 誰かの声。いや、俺が出している声だった。


 そして自分の体を見ると――


 ゴリゴリマッチョな筋肉の姿だった!




「筋肉うううううう!」

 俺は飛び上がるように起きた。


 体中をまさぐる。……良かった。筋肉もりもりじゃない、いたって普通の自分の体だ。


 ――こんな夢を、前にも見たような気がする。 


「……はあ」


 大きくため息をしてから、両腕を上げて体を伸ばした。


 ガオンの姿がない。


 きっと外で変なトレーニングそしているのだろう。


 なんだか少しばかり、さわやかな気分だ。


「さて、と……いった!」


 ベッドから降りるなり、足の親指に硬いものが当たって激痛が走った。


 再びベッドに寝転がる。


「痛い痛い痛い! うおおお……あああ……」


 痛みが引くまで、ベッドの上でひたすら耐える。


 足の親指を見ると、良かった、爪は割れていない。


「なんなんだ……」


 足の親指をぶつけたものを見ると。


「なんだ、鉄アレイか」


 きっとガオンの物だろう。鉛色の鉄アレイが転がっていた。


「床においておくなよこんな物……」


 こんな物を床において放って置くなんて、足にぶつかるために待っているようなものだ……。


 俺はその鉄アレイに彫られた数字を見る。


 数字は『1t』と彫られてあった。


「なんだ、1キロの鉄アレイか」


 1kgの鉄アレイなんて、そんな細かい物も持っていたのか。


「よいしょっと」


 俺は鉄アレイを掴んで持ち上げようとする。


 だがびくともしない。……まるで床に強く張り付いているようだった。


 接着剤でも付いたのか?


 とにかく引っ張りあげても、まったくびくともしない。


 1kgってこんなに重たかったか?


 改めて数字を確認する。


「1tか、やっぱり……」


 うん? 1t?


「ちょっと待て、1kgじゃなくて1tって? もしかして、キログラムじゃなくて、『トン』のtなのか……?」


 メキ、メキメキメキメキ――


 俺はそんな木がゆっくりと折れるような音に戦慄した。


 そして――


 バリバリ! ドッ!


「うわあああああああああ!」


 ドゴンドゴンドゴン!


 1tの鉄アレイが、床にめり込んで沈み、下の階へ落ちて行き、さらに破壊音をこだまさせて落ちていった。


「…………」


 下の階から「なんだ!」「うあああ!」という悲鳴が聞こえる。


「こ……これは……」


 これはさすがに――


「ガオン! どこだああああああああ!」

 俺は大声で叫んだ。

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