異世界観光その5 奴隷と傭兵(冒険者)

 にしてもすごいな。アラタも興奮していたが、大通りのごった返しがこの街の景気の良さが伺えた。


 道の真ん中に自動車の変わりに竜車が往来し、歩道のスペースも広く、さまざまな店、屋台、そして人間たち。


「社会問題?」


 シャルティが、首をかしげた。


 街の到着し、カフェで一服して、街を眺め歩き、公園にやってきてベンチで一休み。


 もう間もなく昼になる。


「そう、僕はこの街や国の発展だけでなく、抱えている問題、この発展の裏に起こる社会問題にも興味があるんだ。古今東西、情報には無駄は無く、あればあるほど自分の身になる」


「そうですわね。今抱えているこの国の問題となると……」


 シャルティが指を顎に当てて上を向く。癖なのかな?


「ああ、そういえば、もう何年も奴隷制度と傭兵雇用の問題が未解決でしたわね」

「奴隷と傭兵……つまりは冒険者か」


「傭兵は冒険者とも言われたりもしますが、もう冒険者と言う人物はほぼ存在しませんね……傭兵と人くくりされています」


 アスカが話題に入ってきた。


「奴隷制度は廃止、されてるよね。私たちの世界では。そんなに慎重な事なの?」


「奴隷制度は、確かに悪い印象があるけど、実際は繊細な事なんだよ」


 アラタが説明し始めた。


「人身売買、人権、人の尊厳を奪う行為。そういう言葉が出てくるだろうケド、実際は違う見方もあるんだ。……奴隷っていわば「労働力」の一つでもあり、また奴隷になっている人間も、無職でいるよりも、ちゃんとした生活が保障される事になる。労働力になるから、衣服食べ物住居、疫病対策。奴隷もそのへんは保障されつつ働かされている。せっかく買い取った奴隷なのに、重労働や病気であっさり死なれては困るからね」


「ああ、そうなんだ」


「そうなんですよ。ですから奴隷解放をしたら、無職で居住権もない人々が一斉に街にあふれてしまうのです。そんな事になれば、治安の悪化、犯罪の発生など、職も何もかも失った人間が、何をするのかが計り知れません」


 アラタが両手を持ち上げてヤレヤレと言う仕草をした。


「今は傭兵と呼ばれていたかつての冒険者は、技術の発展とともに消え逝く運命か……もう冒険者のロマンと言うのは、廃れてしまったんだね」


 アラタの説明に、シャルティも同意して頷いた。


「魔物や魔族は、大魔王帝国に受け入れられて還ってしまいましたから。人間に危害を出す動物もほとんどいません。国の外では未だに弱肉強食の自然があるわけで、例えば農夫の家畜や畑を食い荒らすモンスター、動物がいて、もうそれを駆除するぐらいの事しか起こりませんわ。冒険者に仕事が回ってくることは、もうありません。ハンターギルドも、もうとっくに、解体されていますわ」


「じゃあ、ひょっとして、今の冒険者や傭兵ってもしかして……」


「ええ、アラタ君が思いついた通り、「強盗」に成り下がるしかないんです」


「やっぱりか」


「傭兵や冒険者は、町の居住権を持てないのかな?」


「ええ、厳しいです。税金すらも納めていない、いわば無職と同じですから。そして戸籍も永住権もありません。それにいつ何時、いなくなるかどこへ行くかも分かりません。根無し草に居住権を与えても解決には至らないというのが、国政の判断です。ですから、下手に腕の立つ傭兵は、強盗団などになるしか生きていけなくなってしまっているんです」


「なるほどね。今までは魔王と言う巨悪がいたけれども。その脅威がなくなってしまえば、やっぱり人間の敵は人間。そうなってしまうわけか」


「過言になってしまいますが、その通りですね」


 なんだか会話が重苦しい。ベンチに座って、露店で買ったフライドポテトをアスカと一緒に食べているが……このポテト、カリカリ具合が絶妙で美味しいな。


「かつては冒険者と呼ばれた人たちも、仕事が無ければ生きていけません、耕す畑もありませんし、生きるための仕事が無ければ、最終的に誰かから奪うしか手段がなくなります。そして同時に奴隷解放を行えば……後はもうお分かりになられますわね?」


「街が、国が一気に最悪な治安状況になるね」


「ええ、だから未だに解決が出来ないのです……」


 話が大体で尽くしたところで、シャルティが話題を変えた。


「そろそろお昼にいたしましょう。この日の為に、急場ですがレストランをご予約させていただきましたわ」


「ほほう、そういえば、この世界の料理を食べたことがまだなかったな」


 異世界の料理か。ちょっと興味がわく。


「ふふ、皆さんの世界にはなかった料理を振舞いましょう」


「ほほう! 久しぶりに人間の豪華な食べ物が食えるのか!」


 ガオンが叫んだ。小さいくせに声がでかくてうるさい。


「上等なレストランを予約してありますから、味は保証します」


「……異世界の料理。とても興味がわくね」


「ええ、だから皆様にこの世界の自慢の料理を今回は振舞わせていただきます」


 もう、アラタとシャルティって気が合いすぎて付き合ってしまえばいいのでは? と思う。口には出さないが。


 そして赴いたレストランで出された料理は本当に絶品だった。


 俺たちの世界でも高級すぎて一般庶民では手が届かない、なかなか食べられないようなものばかりだった。


 アラタはガラス細工が陶器が! とかスプーンやフォークの装飾技術が! と目を輝かせていた。


 だけど……。


 俺にとっては自分の世界にもある高級な料理店。という印象しかなく。


 この国のあらゆる技術は、俺たちのいた世界と何も変わらないな。というのが率直な感想として出来上がってしまった。


 いちいち野菜の鮮度にまで唸っていたアラタだったが、俺たちの世界では一般的に出回っているようなものでしかなく、「野菜や作物、つまり食べ物の豊潤さは国の発展度合いに比例しているんだ!」というアラタの言葉も、なんか妙に納得がいかなかった。


 それから俺たちは昼下がりにまた観光を再開し、さまざまな所へ歩き回った。


 女の子同士できゃっきゃとするアスカとシャルティ。いちいち細かい所に過敏に反応するアラタ。


 俺は歩き回って、終わり頃にはくたくたになってしまっていた。


 教会の大聖堂。六勇者教。廃れてリサイクルされたような元ギルド跡地。王城の手前の噴水広場……さすがに貧民街へは行かなかったものの、さまざまな所を歩いて回った。


 そして行く先々に、俺はちらりと見えてしまっていた。


 何故か物陰に隠れてこちらを見ている、妙な男たちを――


 それは帰りに判明してしまった。

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