筋肉が行く!

学園生活が始まったわけなのだが……。

 どうやらやはり、どの世界でもどの国であっても、授業は退屈だった。


 さすがに自動ラーニングできる服を着ているだけあってか、国語(サン語)と英語(ヒロ語)は無かったが、社会(召喚術の歴史学や、この世界の歴史学など)に数学。物理化学地理学、魔術学、召喚術学。様々な授業が存在するが、俺の興味は何一つ向かなかった。


 特に魔術学なんて、魔術が存在しない世界からやってきた俺にとってはまったくもって今まで必要の無い教科だった。


 いきなり魔力って……言われてもなあ。概念からもうわからん。


 さらに魔素子とか精霊素子、神格素子とかまったくもってよくわからん。


 この世界は元々魔術や魔法などが一般的な中世時代のものだったらしい。そしてそれらが発展する毎に、この世界以外に存在する別世界、異世界が無限と言うほど数多に存在していることも観測出来るようになり、異世界と接触することでその世界で発達した技術をどんどん取り入れ、百年も経たずに急速な発展を遂げることになった。俺たちの世界で見覚えがある物や、逆にまったく分からないものがごちゃごちゃしているのがその証拠であり、今現在も異世界に接触し、どこまでも魔術的、科学的に発展しているのだと言う。


 そしてその異世界に干渉できる存在、それが『召喚士』である。


 元々は魔物や精霊、あるいは悪魔や神に等しい存在と契約し、使役したり力の一部を借り受けて使用する職業だったのだが、ある大賢者が始めの異世界、『幻獣界』の存在を証明し、自分たちの世界以外にも、様々な異世界がある事も証明した。


 異界から別の存在を呼び出す職業なだけに、召喚士は異世界に触れることに最も近い存在になった。そして見事に異世界を観測することに成功し、接触しあるいは見届けたり、技術を取り入れることに成功をして、そして百年程を経て、このごちゃ混ぜな異世界『ラウ・ドアカ・アース』が出来上がった。


 もはや召喚術士などという枠を超えている技術だが、名前としてはまだ残っているらしい。


 ――だるい。


 少しは興味を持って、この世界の歴史について覚えてみたが……やっぱり勉強っていうのはめんどくさいものだ。


 ――ところで、俺のすぐ隣で空気椅子の姿勢のまま、かれこれ三時間になるこの筋肉のおっさん妖精、ガオンはいつまでこうしているのだろうか? 汗臭いんだが。


 クラス内は自分の召喚獣をつれている者もいたが、どこか自室にでも待機させているのだろうか、連れていない生徒もいた。


 ガオンも無駄にでかい体で空気椅子をしているが、さすがに入学式の初日でドラゴンを倒したニュースが十分に広まっており、だれも邪魔だのろと一言もいえないまま黙認している。


 まあ、ファンタジー生物の頂点であろうドラゴンを楽勝で倒したのだから、いきなりガオンはその生物の頂点を突き抜けてしまったわけだ。誰もがものを言える者はいなかった。


 ゴーンゴーンと鐘が鳴り、午前の授業が終わった。


 わらわらとクラスメイト達が立ち上がり、各々に散って行ったり、数人で固まったりし始めた。


「ふう」

 やっと終わった。

「ふうううううううう……」

 ガオンも空気椅子の姿勢から立ち上がる。


「大腿四頭筋よ、よく耐えた。えらいぞよしよし」


 白く健康な歯を見せながらニッカリと笑い、太ももを撫でながら自分で自分の筋肉を褒めている。


「…………」


 俺はこれからこんなやつを連れて学園生活を送る事になったのだが……。


 正直、扱いに困る。


「さて、メシの時間だ! よく学びよく食べよく動きよく眠る! 学生の本分だ!」


「ああ……」


 昨日の疲れが取れていなくて、いささか調子が出ない。


 肩と首をよく揉みながら俺も立ち上がる。さっさと教科書と文房具を机の引き出しにしまい込み、学食へ向かおう。


「おーいマモルー」

「うん?」


 Cクラスのアスカがやってきた。


「食堂行こう。食堂」

「ああ、俺もそのつもりだ」


 俺は友達が少ない。中学の頃もそうだった。


 理由は――


 視界の端で四人で固まっている男子たちが、こそこそとこちらを見ながら小声でしゃべっているのを見つける。


 何を言っているのか? は考えなくても分かる。


 このアスカだ。


 アスカは人懐っこく人当たりも良い、控えめに言っても可愛い部類だ。


「おおアスカ女史。授業が終わってすぐさまマモルに会いに来るとは、マモルをそんなに好いておるのですかな?」


「うん。私、マモルの事が好き」


 かくんと肩を落とす。


 一体俺のどこが良いのだろうか? 


 こういう天然的な正直さもありつつ、しっかり友達を作ったりもできる。コミュニケーション能力がとても高い。


 俺の場合は、アスカに連れ回されたり連れて歩いたりするだけで、『カップル』と揶揄されて散々いじられる。


 俺が友達がまったく出来ない原因はアスカのせいでもあったのだが、邪険にする気も起きない。好きかどうかと問われれば答えに困ってしまうが、少なくとも『カップル』呼ばわりして偉そうにいじり倒してきたり、からかってくるような奴らとつるむ気は無い。


 理解してくれる少数の友人だけが、アスカと言う壁を越えて俺と仲良くしていた。

 石田も篤志も清水も、そういえばバラバラの学校になったんだよな……。


 まぁ、俺はこんなわけで、学校で定番の学校でまず最初に行うべき友達作りをしないで済んでいた。


 ダチはわざわざ作りに行かなくても、自然に寄ってくる。類は友を呼ぶ。

 そんなスタイルを小学校の頃からずっと維持していた。


 アスカとガオンを連れ、とっとと廊下に出て校舎を出て、食堂棟へ向かった。

 

「まさか和食もあるとはな」

「メニューが豊富でどれを選ぶか迷っちゃうね」

「和洋折衷どころか、異世界のメニューもあるんだよな」

「何を素材にしているのかも気になるし、どんな味がするんだろうね?」

「日本人の口に合うかどうかが心配だな」

「ふんふんふーん♪」


 そんな会話をして歩いていると、


「うん?」


 まるで俺を待ち構えていたかのように、一人の男子が目の前に現れた。

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