第32話 こわっ! この妹怖すぎる……。

 

 外はジトジト雨が降っている6月中頃、生徒会室の雰囲気も同じくじっとりしていた。

 この会議をを重ねる事、数回、いまだに全く何も決まっていない。


 このままだと夏休み迄の期限を越えてしまう為に、前回、各自何か考えて来ましょうとなったが、結局誰も考えて来ない。


 何故ならすでに案は出尽くしているのだ。


 案を出すと、その案の欠点を副会長が指摘する。すると会長はその欠点をなんとかしようとする事もなく否定してしまう。


 そしてそこから進めようとしない。


 例えばそれだと人数が、それだと予算が、それだと実施に時間がかかる、許可を誰が取る、責任は……等々。


 なにこれ? わざとなの? ってくらい生徒会は機能していない。


 勿論俺の意見も全否定された。


 そして妹は、それを黙って見てるだけ、書記は相変わらず良いね駄目だねしか言わない。


 この生徒会は、いや、会長と副会長は一体なにがしたいのか、俺にはさっぱりわからない。


「会長、そろそろ時間もございませんし、来週からは毎日会議をした方がいいと思いますが」

 一向に話が進まず、副会長がそう提案する。


「そうですね、このままだと夏休みになってしまいますしね」

 副会長の意見に会長が賛成する。

 これか、栞が言っていた依存というのは……。

 よくよく考えると会長は自分の意見を通そうとする気が無い。

 議長が何も決めない会議なのだから決まるわけが無い。


「そうだね~~」

 書記は、これと駄目だねしか言わない。


「お二人もよろしいでしょうか?」


 もう、好きにしてという感じで俺は首を縦に振り一応承諾した。

 もしここで横に振れば俺が完全に悪者になってしまう。



 生徒会室を後にし、栞と二人で校舎から出ようとしたら、朝からパラパラと振っていた雨がいつの間にか大雨になっていた。

 俺はため息をついて傘を差し行こうとするも、妹が俺の袖を掴みその場に引き留める。


「お兄ちゃん、傘無いから入れてー」


「朝から雨降ってて、一緒に登校してるんだから無いわけないだろ?」


「えーーーだってないんだもーーん、いいでしょ?」

 唇を尖らせ頬を膨らます妹、絶対嘘だとわかっていてもそんな顔で言われたら断れない。


「しょうがないな、ほら」

 俺は傘を少し傾け妹を迎え入れる。


「わーーい」

 嬉しそうに俺の腕にしがみつく妹。


「腕を絡めるな、くっつきすぎ」

 あたってる、あたってるから……。


「えーーだって濡れちゃうよーー」


「へいへい」

 俺は諦めて腕を組まれたまま歩き出す。

 大粒の雨がドラムロールのように音を奏でる。

 濡れないように必死に俺にすり寄る妹に俺は再び聞いてみた。


「でさー、どう思う生徒会の連中」


「うーーん、そうだねえ、会長さんだいぶ困ってたね」


「さすがに全く決まらないんじゃ困るよな、あの会長でも」


「ううん、副会長さんが、わざと困らせてるから困ってるんだよ」

 妹は首を振り俺の意見を否定した。


「え? 副会長が生徒会長をわざと困らせているの?」


「うん、わざと会長さんを困らせてるね」


「そうなの?」


「うん」


「何で?」


「さあ?? 私ねー副会長さんてよくわからないんだよねー、なんか感情が複雑っていうか……」


「栞でもわからないんだ」

 栞にわからないのだから、俺にだってわかる筈がない。


「うん……私がわかるのはお兄ちゃんの事だけ、何でもは知らない、お兄ちゃんの事だけ!」


「なぜ言い直す」

 

「まあ、だから放っておこうって思ったんだけど、来週から毎日かー、毎日はやだなー、お兄ちゃんと家でイチャイチャする時間が少なくなるよー」


「いや、イチャイチャしてないから、でもそうだよなーどうしようか……」

 俺が悩んでいると、妹はおもむろに鞄からスマホを取り出した。


「ちょっとお兄ちゃん鞄持ってて」

 そう言うと、妹は雨の中、両手を使いスマホをとんでもないスピードで打ちまくる。

 見た事も無いスピードでフリック入力する妹……。


「あんまりやりたくないんだよねー、こういう事は」


 そう言いながらも入力スピードは全く落ちない


 そのまま5分程経過すると、妹はスマホから顔を上げニッコリと笑って俺を見た。


「はい終わり、さあ帰ろう」


 そう言って何事もなく歩き始める。


「いやいやいやいや、な、何したんだ?」

 俺は傘を妹の方に寄せてそう聞いた。


「うーーーんとりあえずお願いごとかな? 後は今週末でなんとかするよ」

 再び俺の腕に身体ごと抱きつく妹。


 妹が何かを始めたんだが俺には全くわからない……。


 でも何か恐ろしいことをしているのだろう……それだけはわかった。



そして週明けの生徒会室、俺を含めた全員が呆然とした表情で栞を見ていた。


「それで、これが、計画書類一式でーす。あとは実施して皆から送られて来るレポートを生徒会の皆さんでまとめるだけです」


 妹は、企画、実施方法、人員、その配置、レポート提出者すべての事を決めてきた。


 栞が用意した書類を見てみると、そこには幼稚園にボランティアに行くと記載されている。


 そして、そこへ行く人は将来幼稚園や学校の先生になりたがっている友達を配置、その子達の家の近くの幼稚園の許可、責任者、実施日、レポート提出者、全てが記載されていた。


 他にも駅で募金活動、これも駅の許可、募金先、活動者、実施日、駅の責任者、お金の責任者等、全てが記載されている。

 物凄いのは、全てが協力者の家の近くなので交通費等の予算はほとんどない

 募金箱さえも、それを作るボランティアまで用意していた。


 恐らく、妹の友達、さらにその友達に協力を要請して、そこから都合のつく者を選択したんだろうが、一体どれだけの人数が絡んでいるのか想像もつかない。


 内容も完璧、許可も全部取れていて、突っ込む所が見当たらない。レポート提出者も何かあった時の為に、複数人に頼んでいるという念の入れようだ。


「あとは、提出されたレポートを、まとめるだけなんですけどー、それでも良いからやりたいって人が殺到しているんですけど、どうします?」


 要するに、栞は生徒会でやることは何も無くなるけど良いか? って言ってるのだ。こわっ! この妹こわっ!


「そ、それはこちらで行いますから……えっと」

 会長が副会長をチラチラ見ながらそう答える。


「あ、人数が足りないなら、今やってくれる人の倍以上いるんですけど、ちょっとボランティア先の方の準備が間に合わなくて、すみません」

 全く悪いと思ってない言い方で謝る妹は、更に追い討ちをかける。


「あと2日くれれば、今の倍はできますけど、どうします?」


「ひいっ!」


 そのとんでもない提案に、書記の町屋さんが小さな悲鳴をあげる。

 良いねと駄目だね以外に喋れるんだ……。

 もうこうなると死体蹴りである。


「大丈夫よ十分です、本当にありがとう」

 副会長が慌て気味にニッコリ笑ってそう答えた。


「問題無ければ私からみんなにお願いしますって送れば、みんなその計画書通りの日程で行ってくれるように頼んでありますから~~」


 妹は会長ではなく、副会長を見てどうです? 他に何かあ問題ります? という自身満々な視線を投げ掛ける。


 そしてその時副会長が、一瞬怪訝な顔をしたのを見逃さなかった。


 しかし副会長は瞬時に笑顔に戻す。


「そうですね特には問題なさそうですわね、会長いかがですか?」


「……え、ええ、そうですね、では、栞さんお願いします。助かりました、どうもありがとう」


 会長が答えるのを確認すると、妹は手元でスマホを操作する、


「こないだの件お願いしますっと、送りましたー」


 妹のスマホをちらりと覗くと、一斉に了解の文字が殺到しているのが見えた。


 中にはいいなーとか、やりたかったとか、今度は私にも頼んでーとかも入っている。


 妹は白井先生の方を見て、

「レポートは先生に渡すように言ってありますので、受け取りお願いします」


「は、はい!」

 栞に呼ばれ生徒会室に来ていた先生は、うわずった声でそう言って返答した。


「じゃあこれで会議は終わりですねー、何かあったらいつでも言ってください」


 妹はそういうと何事もなかったかの様に立ち上がると俺を見てニッコリと笑う。

「さ、お兄ちゃん帰ろっか」

 そう言われ俺は妹と一緒に生徒会室を出た。



 そして扉を締める寸前、生徒会の面々がこちらを見る中一人、物凄い顔でうつむく副会長の姿を目に留めるも、俺はそのままそっと扉を締めた。





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