閑話1 砂化症 ~諒太郎、中学時代の話~
なんて美しい数式だろう。
「もう解き終わったのかよ」
対面に座る洋平が、シャーペンをすらすらと動かしながら聞いてきた。中性的な顔立ちのさわやかイケメン。諒太郎の自慢の友達だ。
「いんや、まだ。ちょっと休憩中」
諒太郎は背伸びをしながら答え、またちらりと近藤洋平――ウヨのノートに目線を向ける。
ウヨのノートに広がる数式は、見るものを本当の意味で驚愕させる。普通に生活していたんじゃまず思いつかない、発想のレベルが違う数式だ。
なんて美しい数式だろう。
同じ問題を解いているはずなのにこうなっちゃうんだから、本当に不思議だ。凡人には到底導き出せない、至極の数式による芸術作品。圧倒的な才能を目の前にした時、人は本当の意味で畏敬の念を抱く。悔しさ、などという無意味な感情は抱かない。
ちなみに、春休み前の塾のテストで諒太郎は二位だった。三位は
ウヨを見ていると二位と一位の差はひとつじゃないと思い知らされる。今回の塾の数学のテスト、ウヨとウタは互いに満点だったが、百点と百点の答案同士でも、ウヨとの間には目に見えないのにとてつもなく大きな壁が存在していると、はっきり思い知らされてしまう。
「そういやさ、ウタ。砂化症(すなかしょう)って知ってるか?」
「知らねぇ。なんだよそれ」
「結論から言うとただの都市伝説なんだけどさ、なんか全身が砂に覆われてく病気らしい」
ウヨがシャーペンを机に置いた。
すでに問四を解き終えたらしい。
模範解答にない補助線を使って、模範解答よりも簡潔に、美しく。
「まんまじゃねえか。ウヨお前、そんなもん信じてんのか?」
「まさか」
「じゃあなんで聞いてきたんだよ」
「それは……まあ、あれだよ」
ウヨは軽く微笑んでから、少しだけ身を乗り出した。
「俺が砂化症だって言ったら、ウタはどうするかなぁって、気になって」
「鳥取砂丘に埋めてその一部にしてやる。もしくはサーカスに売りつけて見世物にして大儲けする」
「あれ? 俺このままウタの友達でいても大丈夫かなぁ」
「都市伝説にマジになるようなやつの友達でいても大丈夫かなぁ」
諒太郎がそう返すと、ウヨはけらけらと笑った。
「俺だって、本気にしてないよ」
――でも。
ウヨは笑い声をすっと収め、少しだけ眉間にしわを寄せながらこう言った。
「その砂化症が進行すると、その人間は必ず死んでしまうんだ」
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