第36話 僕の切り札
以前より少し大きくなったような気もするが、問題はそこではない。
「変化してる……!」
まさかこの短時間で、魔物としての在り方を変えるとは思っていなかった。
「どうしたんだ? ノエル君」
「
【モノクル】に映る
前回、僕が補足した姿とはまるで違う。
「なんにせよ、姿を現したなら仕留めれば終わりだろう」
「あ、アウスさん!」
前線に駆け出していくアウスを呼び止めようとしたが、そのまま行ってしまった。
いや、彼の言う事は正しい。
これが“
だが、あの禍々しい体色。そして、特徴的な金色の瞳。
それが正しい推察だとすれば、あれはまさに迷宮の力を受けて竜に変貌しているのかもしれない。
前線にいる姉やチサには、もうアレが見えているはずだ。
おそらく、このまま
……これは僕も前に出るしかないな。
幸い、五十基の【ターレットマン三号】と【盾でまもる君】は今のところ一基も停止せずに防衛線を維持してくれているし、前線でなければできない支援もある。
なにより、自分だけ安全位置で観測するというのは性に合わない。
前線に向かいながらも【
ここで、魔法の鏃を使い切ったってかまいやしない。今は、全力で戦う。
なにせ、僕という奴は脆弱な『
使える手段は何でも使わないと、ここにいる意味を失くしてしまう。
「ノエル様!」
「チサ、無事?」
僕の進行に気が付いたチサが隣に姿を現す。
さすがにこの乱戦で無傷とはいかないらしく、ところどころに小さな傷を作っていた。
そんな彼女に、【
「ありがとうございます、ノエル様」
「僕にできる事なんてこのくらいだよ。それより、見えてるよね?」
「はい。どういたしましょう」
「四人で落とせるかな?」
僕の問いから、やや間をとってからチサは頷く。
「可能だと思います。ただ、総力戦になるかと」
「わかった。僕も全部出し切るよ」
【プロト
対
あれに有効かどうかは、やや不透明だけど。
「てぇぇぇッ!」
最前線では姉が【
その鮮烈さに思わず惚れ惚れとしながら、僕は気を取り直して『準備』をはじめる。
同じ〝英雄〟の子として、僕自身が〝出涸らし〟の呪縛を脱せるかどうかはこの一戦にかかっていると言っても過言ではない。
「チサ。あのでかいのと戦う時、僕を守ってくれる?」
「もちろんです。今度はどんな
そう告げて駆け出すチサ。
魔法ではないんだけどな……と苦笑しつつも、僕は
このあと必要になるのは純粋な火力だ。
であれば、アレを出すしかない。
三本目の
一瞬だけ実体化したそれは稼働準備状態を維持したまま周辺の環境
今は見られていなかったろうが、アウスにこれを見せるのは少しまずいかもしれない。
父が
少しばかり特殊な技術なのだ。
「ノエル、今のは?」
「僕の研究の集大成で、僕が今後〝賢人〟になるための真理の架け橋。きっとまだ誰も知らない新しい技術。まだ、父さんにも母さんにも……姉さんにだって見せたことがないんだ」
「ノエルだけの、力……!」
僕の言葉に、チサが目を輝かせる。
これに応えることができるだろうか。いや、応えてみせなくてはならない。
「──グゥォォオオッ!」
咆哮と共に
「こいつッ、ちょっと硬い!」
「おそらく竜になってる!
「
周辺の
散り散りに走っていくそれらを【ターレットマン三号】が狙い打って仕留めているので、後方の小集落は安全なはずだ。
多少抜けたって、最悪防衛に回っているらしい狩人が何とかするだろう。
「これは、こわいな……ッ!」
傷だらけのアウスが、ゆっくりと弓を引き絞る。
戦いを見ていたが、この狩人が相当できるというのは確かだった。
姉の隣に並んだって遜色ないほどに。
そんな彼は、しっかりと相手を評価しているようだ。
僕も、怖い。あの金色の瞳が、この
「は~ん……じゃ、これの首を落とせばあたしも
「エファ様、油断なさらぬよう」
「するわけないじゃない。それで? ノエル……なんかやるのよね?」
そう振り返る姉に頷いて、僕は祈るようにして呟く。
「【
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