第27話 真といばらVSダンジョンの魔物


「お父さんたち、そんなことしてたんだ」


 真といばらが転移してから八日目。二人がダンジョンの地下に落ちてから一日が過ぎた。

 二人はダンジョンを抜けるための上に繋がる道を探し、その道中で二人の親にして月影最強たちが行った伝説の話をしていた。


「あぁ、て言っても俺も姉川さんていう月影の先輩から聞いただけなんだけどな」


「……それって女の人?」


 いばらは歩く足を止め、声を数トーン落とし、顔をこわばらせて真に尋ねる。


「そうだな。姉川さんは女性だぞ。ちなみに姉川さんは母さんの教え子で、俺の……まぁ、姉みたいな人だ」


 姉みたいな人という言葉を聞き、いばらは安心したように表情を戻す。


「そうなんだ。……いい先輩がいるのね」


「あぁ、確かに姉川さんは良い先輩だよ」


 二人は再び足を進める。道中分かれ道などもあったが、先を歩く真が何の迷いもなく進むので、いばらは真の半歩後ろからついて行く。


「さっきから何の迷いもなく進んでるけど、何か目印とかあるわけ?」


 いばらがそう言った瞬間にも分かれ道に差し掛かり、真は躊躇なく右に曲がり、いばらはその後ろをついて行く。


「一応な。……月影は今異世界に来ている」


「それはさっき聞いたけれど?」


「あぁ。それで言い忘れていたが、俺の能力『真価解放』の能力に一度能力を使った相手と俺の間にパスが出来る物があるんだ。今はその繋がりを感じられる方向に歩いてるんだが、このダンジョン何故か歩いた歩数以上にセイラたちに近づいてるんだよな」


 二人はまた分かれ道に当たり、次は左に曲がる。


「……そのパスって私とあんたの間にもあるの?」


「あるぞ。……いったんこの辺で休憩にするか」


 いばらが起きてからかなりの時間歩いていた二人はその場に座る。そして真がバックから携帯食料と水を取り出しいばらに手渡す。


「ありがとう。……それでそのパスっていうのだけど、どうすれば認識できるの?」


「……目をつむって意識を深く集中させてみろ」


 真は説明するよりやってみる方が速いと指示を出し、いばらは言われて通り目をつむる。


「そうしたら俺のことを思い浮かべろ。そうすれば何となくだがパスを感じ取れる」


「何となくって、まぁやってみるけど」


 いばらは大雑把な真の説明にツッコミを入れながらも言われて通りのことを行う。


(えぇっと、目を閉じて集中して。真のことを考える………)


 いばらは集中する。


(すごい。なんとなくだけど本当に真の場所が感じ取れる。それに、なんか真の感情?みたいなのが分かる。なんだか暗くて冷たい、これは悲しみ。それに……)


「いばら。ストップだ」


 いばらが真の感情を感じ取ろうとした瞬間、真がいばらのとのパスを狭める。


「……感じ取れなくなった。そういう調整も出来るのね。でも今のは、」


 いばらが感じ取った感情を真に聞こうとするが、真はいばらの言葉を遮るように言葉を並べる。


「いばらは昔パスを繋いで今まで使わなかったから大丈夫だと思ったんだがな、使わなくても長年繋げていたからそこそこパスが強くなってたのかもな」


 真はいばらの質問に答えることはせずに自分の考えを述べる。


「私は、ってことはそのセイラさんにも感情を感じ取られてたのね」


「昔の話だけどな。調整を出来るようになって、ようやくやられることも無くなったが。いばら、お前も俺の感情を感じ取ろうとはするな。これは俺のためというよりもお前のためだ。それは今わずかに感じ取ったお前が一番分るよな?」


 真は忠告というよりも警告という言い方でいばらに伝える。


「……分かった。でも一つだけ聞かせて。その感情は、やっぱり叔父さんと叔母さんが異世界転移に巻き込まれたのが原因なの?」


 いばらの質問に真はどう答えるべきかと考えるが、いばらの真っすぐとした目を見て正直に話すことを決める。


「そうだ。あの日、俺から父さんと母さんを奪った異世界を絶対に許さない。……正直に話したんだから絶対に感情を感じ取ろうとはするなよ」


 真は最後に釘を刺して携帯食料を口に運ぶ。

 いばらは真の言葉に頷き、水を飲む。


(やっぱり叔父さんと叔母さんが悲しみの原因なんだ。でも、あの一瞬でもう一つ感じた感情は他に二つ。強い憎しみと、後悔。憎しみは異世界転移に対してだとして、後悔は……)


 いばらは真の気持ちを心配しながら食事を終えた。




 _______________


 二人は食事を終えて脱出までの道探しを再開させた。

 分かれ道に差し掛かれば真がセイラの場所を目当てに進み、たまに出会う魔物は隠れてやり過ごすか銃で頭や急所を狙い撃ち戦闘を最小限に抑えて進んだ。


 そして一、二時間ほど歩くと二人は広い場所に出た。


「ここ、他の場所よりも広いわね」


「そうだな。セイラたちの場所まではかなり近づいてきたが……」


 真がセイラの居場所をパスを通して探そうとする。だがそれはとある生物が現れたことで中断することになった。


「クギャァ!!!」


 二人が先ほど通ってきた通路や、他にも二つほどの今いる場所に繋がる道から、ぞろぞろと木の棍棒を持った緑色の小鬼。いわゆるゴブリンが出てくる。その数約五十匹ほど。


「真。これ結構やばい状況なんじゃない?」


「あぁ、かなりやばい。完全に囲まれたな。さすがにこの量は俺だけだと無理だな。いばら、やるぞ」


「え、それって……。分かった、やらないと生き残れないものね。ちょっと失礼するわよ」


 いばらは頬を赤くしながら真の背中に腕を回して抱き着く。


「「………クギャ?」」


 そんないばらの行動に、今から戦いだ!と息巻いていたゴブリンたちはこいつら何やってんだ?と言う風に声を出す。


 だがいばらは恥ずかしのか頬のみならず耳まで赤くして真に抱き着いているのでゴブリンの声などは一切聞こえていない。


「……真、もういい!?」


「あぁ、十分だ。いくぞいばら、【真価解放】」


 真がいばらに手を向けて叫ぶと、二人の体を不思議な光が包み込む。


「こい!【真価武装】」


 続けて叫ぶと、真といばらの手に不思議な光が収束し、真の手には薔薇の剣、いばらの手には薔薇の鞭が現れる。


「よし。いくぞ!」


 真といばらはゴブリンたちに向き合う。


「【薔薇の剣】」


 真は薔薇の剣を地面に突き刺す。すると地面から二本の薔薇のツタが現れる。


「グギャ!?」


 ツタはゴブリンたちに向かって襲い掛かり、倒していく。だが、


「グギャ、グギャ、グギャギャアァ!!」


 小さくて素早いゴブリンは、ツタにやられる味方を見て学習したのか、ツタを避けていく。


「さすがに単調な攻撃だと当たらなくなってきたな。いばら!」


「えぇ。お願い【薔薇の鞭】」


 いばらが薔薇の鞭を振るい大量のゴブリンの動きを止める。そして止まったゴブリンを真がツタを操り一掃していく。

 そんな二人の連携でゴブリンを一体ずつ確実に殺していくが、襲ってくる数は減らない。


「こいつら、新しいのがどんどん来てるな」


 真の言う通り三方向の通路から次々とゴブリンが出てくる。

 それも二人は連携して駆除していくが、時間が経つにつれてゴブリンは学習し、鞭やツタを避けて二人に近づくことに成功する物が現れ始める。


「さすがにうざいな」


 真は薔薇の剣に加えて拳銃を取り出しゴブリンたちの頭を正確に狙って殺していくそれでも増え続けるゴブリンと連戦を強いられる真といばらの二人ではジリ貧だ。


「はぁ、はぁ。次!」


 さらに月影で戦闘を経験し体を鍛えてきた真はともかく、つい先日まで普通の学生だったいばらに長期戦闘は肉体的にも精神的にも疲れが見え始めている。


(まずいな。このままだとゴブリンにやられるより前に、真価解放の影響でいばらの身が持たない)


 真の異能である真価解放。その能力は相手の思いを受け取り相手と自分の能力を強化する。この時の能力の強化というのは、異能の名前の通り相手の真価、本来の力を開放するというもの。


 本来であればその力は相手のみが強化されるもの。真の能力も強化されるのは、相手との繋がりが強く、能力強化を真に共有していいという無意識の承諾があるからだ。


 ここで問題なのは、真の強化は相手の強化を共有しているのみであり、強化している元は相手、今の場合はいばらということだ。

 真価解放は本来の力を開放する。それは普段以上の力を使えるが、その分体に負担がかかるということでもある。

 何度も訓練や実戦で真価解放を使っているセイラならともかく、訓練をしていないいばらではそう時間が経たないうちに体が負担に耐えられなくなり体が壊れてしまう。


(どうする?このまま真価解放を使うといばらが壊れる。だがこの量相手だと真価解放を解いた瞬間にこっちが殺られる。この状況を打破するには………!?)


 真は笑みを浮かべて、近づいてくるゴブリンを剣で一掃する。それでもゴブリンはまだ大量に居る。


「いばら!分かってると思うが、このままだとジリ貧だ」


 真は薔薇の剣を地面に突き刺し、弾丸をリロードしながらいばらに向かって叫ぶ。


「はぁっ、はぁっ、わ、分かってる!」


 いばらは鞭を振るいながら答えるがその額には汗が滲んでおり、かなり疲れが見えている。


「さらに言うと、このまま真価解放を使い続けるとお前の身が危ない」


「ちょっ!?こんな緊急時にそんなこと言われても、……どうするの?」


 真はリロードを終えると薔薇の剣を握り、いばらに向かって叫ぶ。


「今できる最大規模の技をぶつける。それでもアイツら全部を殺せるわけじゃないが、時間は稼げる」


「分かった!けど、その後は?」


「大丈夫だ、考えはある。ただ技をぶつけた後すぐに真価解放を解く。きついとは思うが意識は保っておけよ」


 いばら真の言葉に頷き、鞭にありったけの力を注ぎ込む。


「……お願い、私たちを守って!【薔薇の鞭】」


 いばらが鞭を振るうと、鞭がこれまで以上の規模で伸び、大量のゴブリンを拘束する。


「「グギャァ!?」」


 ゴブリン達は必死で逃れようとするが、強力な締めつけと鋭いトゲにより逃れることは出来ない。


「貫け【薔薇の剣】」


 真は薔薇の剣に力を込めて地面に突き刺す。

 すると拘束されたゴブリンたちに向かって二本の薔薇のツタがゴブリンたちを叩き潰し、その光景はまるで真っ赤な花が咲いたよう。


「【真価解放・解除】」


 真が言葉を唱えると、二人の持っていた武器が光に戻り、纏っていた光と共に消滅する。

 そして光が消えた瞬間に、いばらは壁に背中を預けながらゆっくりと座り込む。


「はぁっ、はぁっ。それで、次はどうするの?」


 いばらは身体を動かそうとするが、真価解放とゴブリンとの連戦で疲れており上手く力が入らない。

 いばらの目に映るのはまだ数多くいるゴブリンの集団。周囲に居た奴は全て倒したとはいえ、すぐに自分たちを囲い込むのは容易に想像できる。


 そんな絶対絶命の状況で、真は上、天井を見つめている。


「いばら、少し暴れる。バック持っててくれ」


 真はバックをいばらの近くに投げ、その手に銃を持ちながらゴブリンたちに向かって歩く。


「真!待って!」


 いばらはバックを抱きかかえながら叫ぶが、真は止まることは無い。

 ゆっくりと歩いて近づいてくる真が不思議なのか、あるいは警戒してなのか、ゴブリンたちはその場から動かず真に対して警戒をしている。


 真はそんなゴブリンたちの様子を気にせずに歩くと、突然その足を止めて天井を見上げる。


(そろそろだな)


 無言で天井を見上げる真に、さらに警戒を強めるゴブリン。その警戒は、ダンジョンが揺れたことで解かれることになった。


「「グギャ!?」」


「何この揺れ、地震!?」


 いばらやゴブリンが揺れに驚く中、ただ一人真は天井を見上げたまま笑みを浮かべる。


「さぁ、来い!俺はここにいるぞ!」


 そんな真の様子を見て、ゴブリンたちは揺れの原因が真にあると思い至り、真に向かって突撃していく。

 そんなゴブリンたちをちらりと見て、真はゴブリンたちの足元に銃口を向けて連続で引き金を引く。


「「グ、グギャ!!」」


 銃弾はゴブリンに当たることは無く、出来たのはせいぜい足止め程度。だがその足止めが狙いであった真にとってはまさしく狙い通りの発砲だ。


 揺れはどんどんと大きくなり、それに連れて天井からドンドンと何かを壊すような音が鳴り響く。その音は真たちのすぐ上にまで迫り、真の見ている天井にヒビが入る。


 そしてヒビはどんどんと広がり、ついに天井が割れた。


「「グギャ!!?」」


「うそっ、天井が!?」


 驚くいばらとゴブリンたち。

 さらに驚くべきことに、割れた天井からは巨大な機会と共に、メイド服を着た銀髪美少女が落ちてきた。


「マスターー!!!」


「セイラ!」


 真は落ちてくるメイド服の美少女、セイラをお姫様抱っこで受け止めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る