第二十四話【ユニコーンの気性】

 ゲイザーの眼球を手に入れた俺たちは、ユニコーンの住む深い森へとたどり着いた。

 目的の場所まではまだ少しあるが、竜馬から降り、徒歩で向かっている。


「ねぇねぇ。ユニコーンって頭に角が生えたモンスターだよね? おとぎ話に出てくるような綺麗な見た目をした」

「ああ。そうだ。それがどうかしたのか?」

「そうだよね! 良かったぁ。お姫様の横で寄り添っているとか、マグラスの乙女の従馬になったとか、あんまり恐ろしいイメージがないからさ。むしろ優しい?」


 どうやらアムレットは自分一人でモンスターと相対するのが不安で、少しでも不安要素を減らそうとしているようだ。

 まぁ、アムレットに関してはあながち間違いでもないし、わざわざ教えてやることもないだろう。

 そう思っていたら、そのわざわざを人生の楽しみのひとつにしている人物が隣にいるのを忘れていた。

 サーミリアはさも嬉しそうな顔でアムレットに、ユニコーンの補足説明を始めた。


「それがねー。アムレットちゃん。違うんだなぁ。正確には『身体清らかな乙女』にだけ優しいの。ユニコーンってやつは。だからペイル君はダメってことね」

「え? もし私じゃなくてフィリオ君だったらどうなるんですか?」

「ユニコーンって本来は獰猛で荒々しい性格なのよ。近寄ってきた者は頭の角で一突きにされるか、強靭な後ろ脚で蹴られて粉砕。もしくは高々と持ち上げた前脚に踏み潰されるか。まぁ、いずれにしても並の相手じゃ瞬殺でしょうね」


 サーミリアは笑いながらそう言うが、聞いてるアムレットの顔は蒼白だ。

 今頃自分が狩るべきユニコーンの角に串刺しにされている様子でも想像しているのだろうか。


「わざわざ怖がらせるなよ。サーミリア先生。それにアムレットも。君なら大丈夫だって言ったろ?」

「で、でもフィリオ君!!」

「うふふ……怖がらせてごめんねー。でも教師としては偏った知識を持つ生徒には、正しい知識を与えないとね。そして。私の興味はペイル君が何故、なのよねー。もしかして二人はすでにそういう関係? ダメよ! ペイル君!! 私というものがありながら!!」


 大袈裟な身振りをするサーミリアに、俺は可能な限り冷たい視線を投げつけてやった。

 しかし標的とされたアムレットは、俺のような図太い神経は持ち合わせていなかったようだ。

 ガストンに聞かれた時のことでも思い出しているのだろう。

 首元から耳まで真っ赤だ。


「あんまりからかうなよ」

「大丈夫よ。ペイル君。私は一時の気の迷いなんて気にしないわ。強い雄なら、ね」

「だから、あんたとは――」


 話の仲裁に入ろうとした俺を、アムレットは遮り、サーミリアに食ってかかる。

 やはり、この二人が一緒にいるとアムレットの様子がいつもと変わってしまうらしい。


「サーミリア先生!! 私たちがそういう関係ってどういう意味ですか!」


 よく見るとアムレットは怒っているというより、嬉しそうにも見える。

 感情が表に出て分かりやすいアムレットだが、今回ばかりはどういう感情を持っているのか、俺にはてんで分からなかった。

 そんなアムレットに、サーミリアはとぼけた顔で答える。


「だってぇ。ユニコーンが落ち着きを見せるのは、若いの乙女の前だけよ? だから、あなたがそうだってペイル君は知っているんでしょう? 友達くらいの男女の関係で、そんな話言うかしら? 言わないわよねぇ」

「そ、それは!!」

「おい。お喋りはそこまでだ。何かがこっちに向かってそれなりの速さで近付いてきてるぞ」


 まだ盛り上がりそうなところを俺は右腕を上げて制する。

 念の為感知魔法を唱えておいたのだ。

 二体の四足歩行の大型の生き物と、その少し前を一匹の二足歩行の生き物が同じくらいの速さでこちらに走ってくるのを感知した。


 俺はアムレットとサーミリアにも近付いてくる方向を示し、二人は何事かとそちらを中止する。

 俺はより詳細を把握するために感知の範囲を狭めた。


「まずいぞ! 誰かがユニコーンに追われてるみたいだ!! しかも相手は二体!」

「え? え!? どういうこと!? 大丈夫なの!?」


 アムレットが隠すことなく動揺を顕にした。

 俺は首を横に振る。


「おそらく追われているやつがユニコーンにちょっかいでもかけたんだろう。そいつが近くにいる限り、アムレットがいても静まらないぞ」

「えー!? どうしよう、フィリオ君!! に、逃げる!?」


 あたふたし始めたアムレットをひとまず置いて、俺はそろそろ視界に入ってくるであろう追われている者の姿を見ようと目を凝らした。

 もしこれがモンスターならば、悪いが俺たちの安全のために殺すことも致し方ない。

 だがもし、人間ならば……

 そう思っていたら俺の目に飛び込んだのは、モンスターでも人間でもなかった。


「た、助けてくれぇ!! もう、息が!!」


 叫びながら全速力で俺たちの方へ駆け寄ってきたのは、女装した猫の獣人だった。

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